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松石 和也さん

松石 和也さん【略歴

医療に関わる弁護士として

松石 和也さん/弁護士 高田・小海法律事務所

 私は、1999年に中央大学法学部法律学科に入学しました。入学当時は多摩モノレールの開通前でしたので多摩センターの駅からバスに乗って通学していました。大学2年生のときにモノレールが開通して格段にアクセスがよくなって嬉しく思いました。その後、2004年に法科大学院1期生として中央大学ロースクールの既習コースに進学して(中央大学のロースクールは新宿区の曙橋にあります)、新司法試験と司法修習を経て、今は高田・小海法律事務所に勤務して小海正勝先生の指導のもと主に医事紛争の医療機関側代理人として仕事をしつつ、母校の中央大学ロースクールで「医療と法」の授業を担当しています。

医療に関する弁護士の仕事

 医療について法曹が関わる分野としては、医事紛争(医療事故紛争)がメインになりますが、その他にも労働問題、医療費の未収金問題、カルテ開示や個人情報保護などの法律相談、医療機関の事業承継、臨床研究の倫理審査、院内の勉強会や研修会の講師など多岐にわたります。また、医療法改正により平成27年10月1日から医療事故調査制度が始まり、法律家が医療安全に関わる機会も増えてきています。なお、医療訴訟に関しては、平成28年の全国の地方裁判所の医療訴訟の新受件数は834件となっていて、ここ数年は800件前後で推移しています。最近は、歯科の医療訴訟が増加しているそうです。また、東京や大阪をはじめ都市部の地方裁判所では、医療集中部が設けられて事件処理の効率化合理化が図られています。とかく医療訴訟は長くかかるというイメージがありますが、平成28年の全国の地方裁判所における医療訴訟の平均審理期間は24.2ヶ月とほぼ2年となり、人証調べ実施率は43.9%、鑑定実施率は7.7%となっています[1]。また、医療訴訟は、多くの事件で当事者双方に訴訟代理人が選任されていること、ほぼ半数が和解で終結していることも特徴的です。

 現場の医師や看護師の方々と話をしていると、都市部を中心に高齢化が急速に進んでいて、患者が増えているうえ、医療の高度化と基礎疾患を抱えた患者の増加により患者一人あたりにかかる医療資源の量が増大しているように感じます。2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、さらなる患者の増加が予想されていますので、医療現場の逼迫感が近い将来改善される可能性は低いと思われます。また、医療従事者の過重労働も問題となっています。医療機関に関わる弁護士として、医事紛争を適正かつ迅速に解決することや現場の様々な新しい問題を共に考えていくことで現場の医師や看護師をはじめ医療従事者が本来の業務である医療に集中できるようにサポートしていくことが医療機関だけではなく患者さんのためにも大切なことだと思って仕事をしています。

 法律家と医師は、思考回路が異なり、同じ言葉を使っても両者が異なる意味やニュアンスで使っていることがあります(例えば、「否定はできない」など)。医療訴訟の医療側の代理人には、医師と裁判官のコミュニケーションの促進をはかる通訳のような役割もあります。訴訟では、医療界と法曹界の相互理解の大切さを実感します。裁判所に提出する書面にはどうしても医療の専門用語が並んでしまいますが、裁判官が現場をイメージできるようなものにしたいと悩みながら書面作成に日々悪戦苦闘しています。

中央ロースクール在学中のこと

 13年前にロースクールに入学したときは初めてのことばかりで不安もありましたが、同級生や教員の先生方と一緒にロースクールの歴史を作っていく作業は得がたい貴重な経験でした。何もかもが手探りで、先生方が熱心のあまり大量の事前課題を出したりして予習が間に合わず困ったりしていました(現在は適度な分量になっているようです)。新司法試験もどのような問題が出るのか見当がつかず、学生で自主ゼミを組んであれやこれやと予想しながら試験勉強をしていました。私が勤務している高田・小海法律事務所の所長の小海先生は、私がロースクールの学生だった当時、本学の特任教授として「医療と法」や「ローヤリング」を担当されていました。私もその授業で学び、そのご縁で弁護士になった今でもお世話になっております。

母校の兼任講師として

 ロースクールの「医療と法」の授業では、本学の建学の理念である「実地応用の素を養う」ことを目標に、社会の役に立てるような法曹を輩出できるように理論と実務の双方から医療に関する法律問題を取り上げています。医療訴訟の審理方式や医療事故に関する判例法理が授業の中心になりますが、所々で医療の現場で問題となっている事柄や法律家として将来医療にどのように関わっていくべきかということもお話しています。例えば、抗がん剤のオプジーボのように画期的な新薬である一方、その薬価の高さから政策論争を引き起こしたものもあります。高齢化と医療の高度化に伴う医療費の増大を社会としてどのように負担と配分を決定していくか、新しい医療技術をどのように取り入れていくのがよいのか、大きな議論となっています。正解がある問題ではありませんが、現在、ロースクールの卒業生の進路は官公庁や企業にも大きく広がっていますので、医療について幅広い問題意識を持ってそれぞれが将来携わる仕事で活かして欲しいと思って授業でお話しています。学生の中には製薬会社の元社員や医療関係の有資格者など医療の現場に携わっていた方もいらっしゃるので、学生と議論することは私にとっても勉強になります。私が在学中に先生方から受けた「ハートフル・メソッド」を忘れず、教員として頑張ろうと思っています。弁護士登録して10年目になりましたが、まだまだ自分の未熟さや勉強しなければならないことの多さを感じます。これからも一つ一つの仕事を丁寧に取り組んでいきたいと思っています。

  1. ^ 最高裁判所事務総局 裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第7回)
松石 和也さん(まついし・かずや)さん
1981年 生まれ。
2003年 中央大学法学部法律学科卒業
2006年 中央大学法科大学院修了
同年    新司法試験合格
2007年 弁護士登録
2008年~2015年 中央大学法科大学院実務講師

中央大学法科大学院兼任講師
中央大学法学部兼任講師