本多 史典さん【略歴】
本多 史典さん/アニメーションプロデューサー、2004年総合政策学部卒業
「プロデューサー」とは何か。この何をしているのかよく分からない職業の言葉の響きは人々にどんな印象を与えるのだろうか。偉そうにしているだけで何も仕事をしていない人という印象を持っている人もたくさんいるだろう。事実そう見える人もいるかもしれない。実際に私がどんな仕事をしているのか、それとも仕事をしていないのかを箇条書きにして説明してみたい。
まずはこれだけ書いておけば何もしてないなんて言われないはずだ。実に多方面に渡る仕事だ。しかしながら細かいことは抜きにして、やっている仕事内容を簡単に言うと、いかに「お金」を使って、いかに必要な「人」「物」を手配して、いかに「作品」を完成させるのか。私たちの仕事は「作品」が全てなのだ。「いかに」作るのか、それが大事だ。作品は自動的には完成しないから。
ところで、「produce」という英単語を辞書で引いたところで、この職種にぴたりとあてはまる和訳は見つからない。それでも唯一、なんとなく意味が近いと感じたのは、「(農作物等)を生産する」だ。つまり、作品を農作物にたとえると、プロデューサーとは「種をまき、芽が出て育つ環境を用意して、収穫する人」ということだ。もっと言うと、作品がどうすれば良い作品になるのか、(自分は描けないけど)誰にこの仕事をやってもらえれば作品が一番良くなるのかを誰よりも熱く冷静に考えている人だ。楽しく遊んでいるだけのように見えるがスタッフとご飯食べたり飲んだりするのは、そのためのコミュニケーションなのだ(※実際に楽しんでもいるが)。
この職業に就いたのには理由がある。元々「ガンダム」「エヴァ」「攻殻機動隊」などのアニメが大好きな私はアニメを作りたかった。なんで、どうして、どうやってこんなにすごい作品を作っていたのかを目の前で実際に見たかった。そして、自分でも生意気にもそんな作品を作りたいと思っていた(今も思っている)。しかし、どんな形で関わることができるのかは皆目検討がつかなかった。何を隠そうか、私の絵は小学生よりも下手な自信があるほどに下手だ。それにも関わらずアニメ作りたいと言っていたのだから、困ったものだ。当初は弁護士になって著作権関係の法務ができたらいいなと夢を見ていたが、もちろんそんなに世の中は甘くない。弁護士にはなれなかった(馬鹿だから)。そんな中でプロダクション・アイジーのホームページの募集から制作進行という絵を描かなくても作品に関われる仕事があることを知り、嬉しかった。そしてすぐに応募した(※現場のプロデューサーになるには制作進行からステップアップするのが慣例)。
運よく入社できて喜ぶのも束の間だった。私は本当にずぶの素人でしたから映像制作の方法も専門用語もチンプンカンプンで、気付かぬうちに百日咳やマイコプラズマの抗体を持つほどに苦労したのだ。しかし、一線級の先輩方から指導を受ける刺激的な日々を過ごしていくと、作品制作を通して当初は苦痛だと思っていた感覚が快感に変わっていったのだ。(…なんだ、単なる変態の話じゃないか。)
私が関わっている最新作の「カラフル忍者いろまき」は、業界の主流がまだ紙作画のところ、ほぼデジタル作画だ。最近の業界の動向として「デジタル作画」の研究開発が活発化している。「デジタル作画」とは通常は紙で作業をしているレイアウト、原画、動画という工程をデジタルデータで作業をすることでペーパーレス化することを指す。今回は全てがトライアンドエラーだった。
この方法の経済的なメリットとしては、紙という物理的な制約を受けないため、紙代及び輸送費の節約、受け渡し移動時間の短縮、アーカイブスペースの省略、プレビューの簡易化、検索の迅速化など、合理的なメリットはたくさんある。さらにクオリティ面のメリットとしても、紙に書いた絵をスキャンしてデジタル化する際の線の意図しない劣化を防ぐことができることや、今後の4Kや8Kに対応する高解像度化技術の鍵も握っている。
ただし、紙に匹敵する利便性を獲得できているかというと、それはまた別の問題だ。まだ現場としては紙に頼らざるを得ない部分が大きい。紙ってそれほどとてつもない発明だったのだ。また、ここ10年でハードとソフトの技術的な革新が大幅に進んだけれども、それらを使用する人がまだほとんどいない。そのため、今後の課題は、今まで紙作画の技術を持ったスタッフをいかにデジタル作画にコンバートすることで技術の継承を絶やさないかということだ。