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鍛治 美奈登さん【略歴】
~弁護士に対する社会的ニーズの変化~
鍛治 美奈登さん/弁護士
私が弁護士登録したのは、「弁護士になっても稼げない」と言われ始めた2008年。
ロースクール制度が始まる前に弁護士になった先輩たちより、進路を悩んだ自信はある。
弁護士数増加による競争の激化・弁護士に対するニーズの多様化・グローバル化という流れの中で、弁護士の価値それ自体が多様化していることを実感していた。
今まで通りのやり方では価値が埋没してしまう。お客さんの役に立てず、競争に勝てない。
古き良き時代が終わることは目に見えていた。
だからこそ、企業内弁護士という新しい選択肢を考えた。
だがこの時は、まさに「自由と正義」に憧れていた私にとって、目の前のお客さんを助けサポートするという昔ながらの弁護士像が捨てられず、昔ながらの弁護士の道を選択した。
当時、日本弁護士連合会が主催する就職説明会に参加していた企業はまだ数社しかおらず、当時1851人いた合格者の中で、最初から企業内弁護士という道を選ぶ者は少数だった。
それもそのはずである。2008年時点の企業内弁護士数は266人/25041人(約1%)。
まさに、マイノリティであった。
それが、今や企業内弁護士数は1442人/36415人(約4%)まで増加している。
この7年間で、数としては約5倍、全体に占める割合としては約4倍の成長率である。
(なお、任期付公務員になる弁護士も、2008年の61人に対し、2015年は187人と約3倍に増加している。)
このように、現在、弁護士の活動領域が大きく変化していることは明らかである。
このような社会の中で、個人や企業としては、どのような場面でどのように弁護士に仕事を依頼すればよいか、選択の自由が与えられる(あえて言えば、弁護士をどう使うか、悩むことができる。)。
特に、大企業による不祥事が相次いで露呈し、開かれた市場に向けて社会が変化していくなかで、コンプライアンス価値の増大・改正会社法の施行・コーポレートガバナンスコードや個人情報規制等の企業が遵守すべき規制の拡大・企業のグローバル化に伴う法的交渉力強化の必要性など、企業法務に対する需要が高まる中で、弁護士が企業法務に入るチャンスも広がっている。
そこで、企業から見た場合の、弁護士の価値について提案してみたい。
まず、法曹人口の増大により、弁護士に対する企業法務のニーズが本当に高まっているか? という問題がある。結果を見ると、そう簡単ではないようだ。
ビジネスロージャーナル(2015年3月号)の調査によれば、法曹有資格者が法務スタッフの中心になるか? という問いに対し、60%の企業が「そうは思わない」と回答し、34%の企業が「結果的にはそうなる」と回答し、積極的に採用しようという企業はわずかにとどまっている。
つまり、弁護士数が増えても、企業の法務部に弁護士を採用しようというニーズに直結したわけではない。アメリカをならってロースクール制度が導入されてから約11年が経過するが、アメリカのように、企業内法務を担うスタッフが有資格者多数になる社会は、まだまだ遠い未来の話だと思われる。
結局、人材の価値とは、何ができるか(どんな経験をしてきたか)、どのようにコミュニケーションできるか、どのようにマネージメントできるかで評価されるのであり、資格の有無は関係ないのであろう。
弁護士は、専門家であると共に、サービス業である。
情けないことに、こんな当たり前のことに、最近ようやく気付いた自分がいる。
企業が弁護士に求めるものは多岐に及ぶが、少なくとも、国内の法律制度の中で紛争処理の経験をしているだけでは、企業のグローバル化には対応できない(なお、これが、私が転職を決めた最大の理由であった)。
社会のニーズに対応するためには、社会の変化に合わせて、弁護士や専門家も、柔軟に自分にできることを拡大し、もっと容易で接しやすいコミュニケーションを取り、会社やスタッフの立場に立ったマネージメントができるようになる必要があると考えている。
このような柔軟な変化ができれば、増加している弁護士にとって活躍できる領域が拡大するとともに、法務機能に対するニーズが高まっている社会・企業にとっても、専門的知識を有意義に活用することができ、Win-Winの関係が成り立つことが期待される。
少なくとも私としては、社会のニーズに合わせて柔軟に変化できる弁護士が、真のプロフェッショナルであると考えている。そんな弁護士に、私はなりたい。
企業内弁護士に関する統計:日本組織内弁護士協会(JILA)調べによる。
その他弁護士に関する統計:弁護士白書2015年版による。