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トップ>人―かお>ヒット作をつくる ―取次店なしで118万部超ベストセラー―

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佐藤 昌幸さん

佐藤 昌幸さん【略歴

ヒット作をつくる ―取次店なしで118万部超ベストセラー―

佐藤 昌幸さん/ディスカヴァー・トゥエンティワン勤務

 日本には約3,700社もの出版社が存在する。その中で書店と直接取引をする新発想で業績をぐんぐん伸ばしているのがディスカヴァー・トゥエンティワン(本社=東京・平河町)だ。出版不況の中、『超訳ニーチェの言葉』は118万部を超えた。ヒットを生み出す背景や仕事の内容などを、中央大学文学部を2004年に卒業し、同社営業部統括リーダーの佐藤昌幸氏(33)に、学生記者の矢嶋万莉子さん(法学部4年)が聞いた。

本の置き場を変える

ヒット作とともに

――ヒットを生んだ仕事に興味があります。日々の業務を教えてください

 私は現在、首都圏エリア営業の統括をしています。首都圏の約450~500店の書店さんとフェイス・トゥ・フェイスで取引をして、本の紹介やプロモーションの提案などを行っています。自分が手がけた本が何万部売れるか、ヒットを出せるか。仕事の魅力はここですね。

――取次を通さない出版社ということで従来とは違う形態だと思います。書店側の反応に変わったところはありますか

 そうでもないです(笑)。かつては、やりにくさもあったかもしれませんが、今はどちらかというと書店さんのほうから“ 面白いことをやりたい”と言ってくれます。こちらも等身大の目線で、お客さまに本を手に取ってもらえるよう工夫します。商品はそれぞれが強みを持っているので、それを引き出すのが腕の見せどころですかね

――引き出すというのは?

 書店には、書店が作っている本の流れがあります。文芸書、ビジネス書、新書、語学、学参、医学書、コミック等々、店舗それぞれで力を入れている部分が異なり、独自のカラーがあります。文脈という言い方もします。でも、その書店の文脈通りに本を並べれば売れるとは限りません。例えば武術家・甲野善紀(こうの・よしのり)さんの共著、『「筋肉」よりも「骨」を使え!』(同社刊、ことし5月発売)の営業では、武道系の書棚はもちろん、健康に関するコーナーや中高年が寄りそうなところにも新たに置いてもらいました。商品に自信がありましたが、こうした工夫をすることで売り上げが伸びると、書店さんに喜んでいただける、私どももうれしいものです

――本の置き場を変えれば、より多くの人の目に留まりますね

 私たちの仕事は、読者と本が出会う場所を作ることだと考えています。本の良いところは、人に紹介することができる。1つきっかけがあれば広がっていくので、それを作り出すことがやりがいであり難しさでもありますね。『ニーチェ~』もあんなにヒットするとは当初思いませんでした

――20万部×年5本のヒット目指す――『超訳 ニーチェの言葉』が2011年にベストセラーになりました。会社の雰囲気はいかがでしたか?

 正直覚えてないです。ベストセラーを目標に据えてからはとにかく必死でした。10万部売れるごとに、表紙タイトルの色を変える、クリスマス時期にはグリーン&レッドというように。限定色も作る。大阪・梅田の大きな書店さんでは、半日で300冊売れました。1日10冊売れると“すごい”と言われる世界でです。書店さんのほか、本を映画館に置いてもらう、CVS(コンビニ)で流通させる、他の出版社とコラボしたプロモーション企画を立てるなど、他を巻き込んで営業しました

――先日、ある演劇の会場に置いてあるのを見ました

 今でも売れ続けているのはすごいと思います。ボクシングの村田諒太さんや、サッカー日本代表の長谷部誠さんら世界と戦うスポーツ選手が読んでくださっているという話を聞くと、本当に多くの人が手に取ってくださったのだと実感します。ただ悔しいことに、『ニーチェ~』をはじめ、ディスカヴァーの今までのヒットはどちらかというと、なぜか地方や関西から流れが始まっています。私個人としてはやはり、東京型のハイセンスで時代を先取りする本を作りたいと考えています。そこで…

――何をしたのですか?

 会社に訴えました。首都圏に力を入れたいと。幸い受け入れてもらい、ことしから首都圏営業チームができました。自分の目標として、20万部超のヒットを年に5本以上出す。達成するため日々、仕事に取り組んでいます

――会社に、チャレンジしていく熱気がありますね

 社訓が『すぐやる なりきる とことん楽しむ』なので、挑戦しやすい風土だと思います。実際に私たち営業の発案から本ができることも多いです。

日本中の書店を巡りたい

佐藤さん(右)と学生記者の矢嶋さん=同社本社

――学生時代に戻って、就職活動を教えてください

 サークルに所属し、大学3年の11月まで主将をしていました。就活を始めたのは主将を退いてからです。遅かったほうですね。本に関わる仕事をしたいと考えていました。
そのころ、東京・神保町に『マスコミ寺子屋 ペンの森』があると知って通い始めました。新聞社のベテラン記者の指導のもとに記者やマスコミ志望者が多く出入りしていて、ちょっとした梁山泊みたいでした(笑)
それが4~5カ月続いて、同時に新聞の求人広告を見ては興味がある出版社に履歴書を送りました。秋採用でディスカヴァーと出会ったわけです。

――ディスカヴァー社に決めたのは?

 日本中の書店を回りたいと思っていました。茨城にある実家近くの書店が次々に閉店して、2㎞先まで行かないと本屋さんがないような状況が根底にあります。私は出版社をマスコミではなくメーカーとして見ていました。ものづくりです。そういったところも合ったのでしょうね

――就活が終わって10年目です。学生と違うところは、どんなことですか

 その業界のプロフェッショナルに近づけているのではないでしょうか。数字を冷徹に見るようになりました。一つの数字の裏にある意味まで、読み取ろうとする意識がついたと思います。

――変わらないことって、ありますか

 物事に執着するところは変わらないと思います。好奇心からの行動力でしょうか。浅く広くてもよいので、良いものを見るようにしています。社会人は学生と違って精神的にも物理的にも行きたい場所に行けるようになるので、さまざまな業界の人に会うこともできます

――中大生にメッセージをお願いします

 中大生であることにもっと誇りを持っても良いと思います。企業から見ても、中大生は真面目な学生が多いと思われています。先輩には各業界にすごい人がたくさんいます。
そうした存在は、学生にはあまり知られていないように思いますが、社会で活躍するすごい人たちとぜひ積極的に会っていって、どんどん刺激を受けてください。

――きょう私は、すごい刺激を受けました。ありがとうございました

佐藤昌幸(さとう・まさひろ)さん
茨城県出身。中央大学文学部を2004年に卒業後、ディスカヴァー・トゥエンティワン(本社=東京・平河町)に入社。在学中所属サークルの主将を務め終えた後、『マスコミ寺子屋 ペンの森』に通い、ベテラン記者の指導を受ける。同社には秋採用で入社し、現在は営業部統括リーダー。33才。