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トップ>人―かお>馬には乗ってみよ、人には添うてみよ、何事も経験してこそ

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佐藤 千紘さん

佐藤 千紘さん【略歴

馬には乗ってみよ、人には添うてみよ、何事も経験してこそ

佐藤 千紘さん/福島県庁職員

 わたしは、在学時に、衆議院議員事務所、国際労働機関、法律事務所、NPO法人の4カ所でインターンを経験しました。うち、国際労働機関と法律事務所でのインターンは、大学の授業の一環で単位認定がされるものです。

天の邪鬼精神からインターンへ

ジュネーブにある国際労働機関で経験を積んだインターン時代。左が佐藤さん

 わたしは、運動や芸術など秀でるものがありません。かといって、賢いわけでも劣っているというほどでもない平均的な人間です。他の人とは違う特徴が欲しかった――これが、私がインターンへ行った理由です。人が選ばないものを選び、したがらないことをする天の邪鬼になることで、何らかの特徴が得られると思いました。

 当時、わたしは中桜会研究室に所属しており、周囲は司法試験の勉強のために研究室にこもっている状況でした。そこでわたしは、天の邪鬼精神から、研究室にこもらずに勉強をしよう、と思い立ちました。もともと座学より行動する方が性に合っていたので、誰もしていないけれど法律の勉強という本筋からもそれない、法律に関することを学べるインターンをすることにしました。

 最初は、法律の成立過程を知るために衆議院議員事務所へ。次に、歴史も習慣も異なる世界の国々に共通する法律はどうつくられているのか興味を持ち、ジュネーブにある国際労働機関へ。それら2カ所で法律の形成過程を学んだので、今度は、つくられた法律が実際にはどう使われているのかを知るために法律事務所へ、計3カ所でインターンを経験しました。

口は一つ、耳は二つ

衆議院議員事務所で安倍首相と佐藤さん(左)

 それぞれのインターンに共通することですが、インターンでは、当初の目的が果たされるとは限りません。わたし自身、法律の勉強のために行いましたが、結果的には、知識よりも知恵が身についたと感じています。

 議員事務所でインターンをしたことで、失敗は人の注目を集め、そして、ずっと残るものだということを感じました。身近な有名人を思い浮かべてください。その人の功績よりも、むしろゴシップの方が情報として多く出てくるのではないでしょうか。太陽が普通に輝いているときは誰も見ようとしませんが、日食はみんな興味を持って見るのと同じです。

 また、法律事務所では、人には口が一つなのに、耳は二つあるのは何故かを考える必要がありました。『弁護士』は読んで字のごとく雄弁な方が多いですが、聞き上手な方も多いです。自分が話す倍だけ他人の話を聞かなければならないのだということを教えられました。

 これは、現在わたしが勤めている福島県庁にも当てはまります。“県庁”は、“県廰”というのが本来の漢字だそうです。県民や地域の声を聴き、そこから仕事が始まることを意味しています。

 もちろん、こういったことは直接教えられたのではありません。おのずと学ぶものです。本来“学ぶ”という言葉は、“真似る”から派生していると聞いたことがありますが、学ぶという姿勢には、受け身がありません。つまり、積極性が大前提なのです。勉強とインターンは、学ぶ道は違っていても、“学ぶ”ということは同じです。見たもの、知り得たもの、感じたものから、自分がいかにそれらを生かすか。その生かし方を学ぶ場が、インターン です。

言語体系から見える文化の違い

 国際労働機関でのインターンは、その環境に合わせただけでも自分自身の変化を感じ取ることができました。インターンの際には、英語を用いていましたが、普段と異なる言語を用いることで、考え方そのものが変化するということです。

 日本人は大きなものから小さいものへと考えますが、西洋人は小さなものから大きなものへと考えます。たとえば住所を書く時、日本では都道府県、都市、地区、番地の順に書きますが、西洋ではその逆に書きます。名前も同じで、日本人は名字を先に言いますが、西洋人は反対です。日付も同様です。伝えることは同じでも、その伝え方が異なるだけで、自然と考え方も変わるのだということを体感しました。

 さて、ここまでが、法律関係のインターンの経験談です。最後のインターン先は、それまでと全く異色のところで行いました。その理由は、就職活動をするにあたって、自分が何をやりたいのか分からなかったからです。

 就職活動では、サービス業から公務員まで様々な職種の説明会に行きましたが、優先順位がつけられていない状態でした。そのため、自分を客観的に見るために、自分が望まないことをしようと思い、異色のインターン先に飛び込んだのです。

 なぜ望まないことをあえてするのかというと、そうすることで、否が応でも自分になじまない理論や考えをなんとか理解しなければならなくなります。それが、客観的になる一番簡単な方法だと思ったからです。

 だからこそ、起業家の方々と関わるインターン先を選びました。就職活動をする、つまりは“他者のもとで雇用される”ことを望むわたしにとって、“みずから事業を行っている”起業家の方々は、まさにわたしが望まない状況にいるからです。そんな中でのインターンを経験することで、自分の軸――自分を支配する考えが見えてきました。

 また、起業家の方々を間近で見てきた事で、わたしは、公務員こそ起業家精神が必要だと思うようになりました。公務員は、サービス業のひとつといえます。民間企業のそれと異なり、利潤の追求を目的としないため、地域の人々の満足度をあげる事が、ただひとつの目的となります。特に、千年に一度といわれる東日本大震災を経験した福島においては、尚更です。誰も経験した事がないため、復興への動きすべてがゼロベース。だからこそ、自らが先頭に立つという起業家のような気概が求められると思います。

レールがあるからこそ無理がきく――インターンの魅力

 最後になりますが、ある小説に載っていた一説をご紹介します。 『ジェットコースターは、レールがあるからこそ無理がきく。地上だから、エンジンを停めたって大丈夫。飛行機は、そうはいかない』

 レールの上をゆく人生は嫌だという人がいますが、レールがあれば、好きなだけ無理ができます。インターンは、そんなレールの上をゆくようなものだと思います。レールがあるからこそ、速く走ることで目標に近づくこともできれば、ゆっくり歩みながら周囲に目を向けることもできます。学生という身分一つでどこにでも行くことができる、それが、インターンの魅力だと思います。

提供:『HAKUMON Chuo』2014秋号 No.238
インターンシップ20周年記念行事「インターンシップ・サミット2014」(2014年12月6日(土)実施)にも、パネリストの一人として参加

佐藤千紘(さとう・ちひろ)さん
福島県福島市出身。福島県立橘高校を卒業し、中央大学法学部法律学科を2013年に卒業。総務省を経て、現在は福島県庁に勤務。在学時には、学研連中桜会99期として入室し、法律を勉強する傍ら、ジュネーブの国際労働機関やシティユーワ法律事務所、中山泰秀議員事務所(中山正暉氏子息)、特定非営利活動法人ETIC.にてインターンシップを行った。