板越ジョージさん【略歴】
板越ジョージさん/国際経営コンサルタント・海外進出プロデューサー(IS Group, Inc. President & CEO)
99年にはベンチャーキャピタルや伊藤忠商事等から740万ドルの投資を集めた。日本人最年少でのNASDAQ株式公開直前まで漕ぎ着けたやり手の起業家である。しかしネットバブルの崩壊と9.11による風評被害によってあえなく破産。失意のどん底から7年、紆余曲折の末、何とか立ち上がり、改めて事業を軌道に乗せた。
2011年には中央大学ビジネススクールでMBAを取得。現在はNYでビジネスを繰り広げる傍ら、さらに本学大学院総合政策研究科博士後期課程で学んでいる。
板越さんのエピソードや活躍、経歴については、ネットで検索すれば本当に多くの情報に辿り着く。ジェットコースター級の盛衰を体感し、失敗から多くを学び、既に経営コンサルタントとしてマネージメントや法律の知識に明るい板越さん。そんな彼が何故さらに本学で学び続けるのか。その行動の中に、“グローバル人材に必要な資質”を垣間見た。
中央大学学部生の発表模様、大橋先生と板越氏(右)
中学校3年間をジャニーズJr.として過ごす。その後、普通の高校生になりたくて、3カ月猛勉強した末に第一志望の高校に入学。しかしそこで板越さんは無為な時間を過ごしてしまう。結果大学受験に失敗。一念発起して米国留学を目指し、バイク急便の仕事で、死に物狂いで3カ月で100万円を稼いだ。
何か大きなことをしたかった板越さんは、日本では芽が出ないと早々に見切りを付けた。稼いだ資金で単身渡米。語学学校に9カ月通い、TOEFL500点を取得して、アメリカのサウスカロライナ大学へ進学した。学費が尽きれば帰国して、また3カ月バイク便で100万を貯める。そんなことを繰り返した。在学中は安価で単位の取得しやすい東欧やロシアに短期交換留学し、単位互換で大学を4年で卒業。一旦は政府機関に就職先が決まった。しかしそこに自らの活路がないことを確信し、NYの新聞社に入職。編集を希望したが広告営業にまわされた。そこで面白いくらいに広告が取れ、3カ月で社内NO.1の売上になっていた。
その翌年はインターネット元年の95年。Yahoo!ができ、Amazonができ――板越さんは、26歳で独立し億万長者になった。30歳には自叙伝を出した。
ビジネスが軌道に乗り、日本人最年少で米国株式市場上場寸前まで行った33歳の時、突然の転落が起こった。2000年から始まったネットバブルの崩壊に続き、2001年9月11日の、忘れもしない9.11事件。
板越さんの会社は、世界貿易センタービルのすぐ近くにあった。幸い建物自体の損傷は免れたものの、その日を境にNY関連の投資が引いた。数年前からアニメブームを作り、ブックオフの米国誘致などを行っていた矢先の、思わぬ風評被害であった。
それから7年、板越さんにとって辛い日々が続いた。個人で抱え込んだ数億の借金。結果的に迷惑をかけてしまった多くの人々への詫び――。
復活をかけてNYでフリーペーパーを作ったり、イベントを企画したり、キャラクターグッズを販売したりして、何とか数億の借金を返済した。
――そして、猛烈に勉強がしたくなった。
ちょうどそんな時、当時コンサルを一緒にやっていたブラザーの元会長だった方から、中央大学でビジネススクールを開校するという話を聴いた。縁があったら学んでみたい…と思った。そして給付奨学金がもらえたのをきっかけに2期生で入学した。
中央大学主催のワークショップで司会を務める板越氏
一度勉強し始めたら楽しくなった。在籍中は2年間でNYと日本を20往復し、卒業にこぎつけた。当時、大学院総合政策研究科長の大橋教授と出会い、「良かったらうちに来て勉強しないか」と言われ、博士後期課程に進むことを決意。論文を書いたところ、これが本になった(『結局、日本のアニメ、マンガは儲かっているのか?(2013)』)。日経新聞の書評にも掲載され、それなりに売れた。
――日本アニメは本当に儲かっているのか?
これからの日本経済を支える成長戦略は、文化外交のクールジャパンだと板越さんは確信している。海外に26年住んで、日本から米国に進出する企業やアーティストのコンサルをする――それが生業。
コンテンツ関係の研究で、第一人者になりたいとの強い思いが、板越さんを中央大学に結びつけた。
「高校を卒業してからずっとアメリカだったので、日本で事業をするにはコンプレックスがあった」。
こう語る板越さんは、Degree(学位)の存在に思いの外こだわっている。
高卒で単身渡米し、日本の学歴社会と早々におさらばした板越さんが何故――?と疑問に思うかも知れない。そこには、米国に“大きなもの”を掴みに行った板越さんならではの経験と実感に基づく“こだわり”がある。
「米国ではDegreeがないと評価されないし、わかってもらえないのです。これは自分がコンサルやサポート、指南役といった職業を生業にしており、それなりの人たちを相手にしているからかもしれないが、これから『グローバルに行こうよ』という人たちの道標になるには、自分の“専門分野”を持ち、それをきちんと証明できることが大切です。さらに言えば、“根無し草”は評価されない。自分のルーツを知らない、自分の国を持たない人はそもそも信用されないし、相手にされないからです。そこがしっかり説明できた上で、全てがスタートするんです。」
日本人の中には日本の悪口を言う人がいるが、それでは信用されないという。海外で活躍するには自分のルーツをしっかり持ちながら、誇りをもってそれを語るぐらいでないといけないのだ。
だから板越さんは、その“学びの場”に米国ではなく、あえて日本を選んだ。
グローバルに活躍するからこそ必要になる日本人としてのアイデンティティーが、そこにあった。
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