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トップ>人―かお>税理士志望がアナウンサーに~転機は赤面症克服~

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寺島 尚正さん

寺島 尚正さん【略歴

税理士志望がアナウンサーに
~転機は赤面症克服~

寺島 尚正さん/文化放送・編成局制作部 専任部長アナウンサー

 午後3時半になると文化放送(AM1134)から、♪♪てらちゃん寺チャン♪とノリのいい歌声が流れてくる。ベテランアナウンサーの寺島尚正さん(54)がメインパーソナリティーを務める情報番組『夕やけ寺ちゃん 活動中』(月~金、午後3時半~5時50分)の始まりだ。最新ニュースを分かりやすく解説する寺島アナは中央大学商学部出身。マスコミ志望ではなく税理士志望で入学した…。

赤面症だった

 中大では資格取得サポートの「経理会計研究会」に所属し、仲間とともに税理士や公認会計士になる勉強をしていた。簿記2級取得はこのころだ。このまま進むと税と会計の専門家になる。「でも何かが違ったんですね。ほかの学生がすごく優秀だったことも関係していて」。居心地の悪さなのか。関心はほかに向けられた。

 「私、赤面症でして。克服するためにアナウンス学校へ通うことにしました」

 軽妙洒脱な語り口の今しか知らない人にとっては信じられないが、人と話すのが苦手だったという。アナウンス学校には大学3年秋から通い始めて1年間勉強した。授業料はアルバイトで稼いだ。

 受講生は女子28人に対し男子は2人。アナウンサーといえば女子アナの世相を映し始めていた。授業は発声練習から始まり、滑舌よく、分かりやすく話せるまで続く。「少しずつ進歩しているよ」。ある日、講師に褒められた。他の受講生はほかにやりたいことがあったのか人数が少なくなっていくなか、

 「払った授業料の分だけ勉強しようと思って」。

 通い続けた成果は教育実習に現れた。母校の東京・佼成学園高(男子校)で教壇に立ち、社会科を教えた。実習終了後、生徒40人にアンケートをとった。「私の授業、どうでしたか」。

 「先生、アナウンサーになればいいよ」「アナウンサーみたいに堅い感じがした」「滑舌がよかった。こ・ん・に・ち・は…の分かりやすい話し方がいい」

 新しい道が開けた。「劣等感はやりがいのタネです。うまく出来たときの喜びは、ほかの人の倍どころじゃありませんよ。弱点は悪いことではない、私にはエネルギーになった。教育実習でアナウンサーになれるかなと思いました」。入学当初に抱いていた税理士志望は後退していった。

初対面でも本音を聞き出す

 文化放送アナとなって、「外回り」と呼ばれる街頭インタビューを始めた。初対面の人にラジオ放送を理解してもらい、話を引き出すには大変な苦労がいる。「相手はバリアーを張っていますからね」。どうするかというと、「その人のいいところを見つけて入っていくんです。タレントのマツコ・デラックスさんを思わせるような体格の人に、痩せていますねとは言えない。健康的ですねと言えば、放送にふさわしいし、反応が違ってきます」。外回りは二十数年続いた。

 スタジオから発信する立場に変わっても、リスナーと一対一の関係は変わらない。「ラジオをお聴きのかた、あるいはラジオをお聴きのあなたと言うようにしています。リスナーは“あれ今オレのこと言ったかな”と思ってくれる」

 リスナーとの距離が近い、ラジオの存在感がここにある。

情報を提供、判断はリスナー

 現在の担当番組の一つ、『夕やけ寺ちゃん 活動中』では、ニュース解説のコメンテーターが幅広いジャンルから登場する。

 岩上安身氏(月曜・ジャーナリスト)、門倉貴史氏(火曜・エコノミスト)、木下博勝氏(火曜・医師で現役女子プロレスラー、ジャガー横田さんの夫)、荻原博子氏(木曜・経済ジャーナリスト)、尾木直樹氏(金曜・教育評論家)、三橋貴明氏(金曜・経済評論家)。

 独特の語り口で「尾木ママ」とも親しまれている尾木法政大教授からは、大津の男子中学生自殺いじめ問題で専門家ならではの貴重な意見を引き出した。のちに大津市から真相解明に向けて市が設置した外部有識者による第三者調査委員会メンバーを委嘱された。

 寺島アナは、コメンテーターの専門性を尊重しながら、リスナーに分かりやすい表現を心がける。「情報は世の中にいくつもある。それを提供し、番組では意見も言う。どれを選ぶかはリスナーです。リスナーの判断材料として情報や意見を提供していく」。

 「これは中大生にも言いたいな。人の意見を聞く。いろいろな人の考え方を知る。その時それホントなの? と疑問を持つ。批判する力を持ってほしい。短絡的に決めないでほしい」

毎日続ける定点観測取材

学生記者と寺島アナ

 多忙な毎日だ。ナマ放送の番組の前後の時間を使って取材に走る。最近は東京スカイツリー(東京・墨田区)を定点観測中。取材して分かったのは、周辺にゴミ処理問題が起きていた。自転車の放置にも困っている。収益をもたらす観光客はマイナス要素も併せ持っている。寺島さんの取材はスカイツリー営業開始時の報道だけでは終わらない。根気よく続けるひたむきな取材がリスナーに好評だ。

 日々の取材のほか、日替わりで招くコメンテーターやゲストの著作を次々に読み、HPやブログもチェックするとアッと言う間に時間が流れていく。

 「楽な仕事なんて、ないですよ。いいなあと思う仕事ほどつらいのです。大切なのはラジオを聴いた人が喜んでくれること。相手に有用な情報を伝え続ける。プロになって分かりました。忙しいと言うのは言い逃れです」

 自らにさらに負荷をかけた。ファイナンシャル・プランナー(FP)の資格取得にチャレンジした。7月、「3級FP技能士」試験に合格した。番組火曜日のパートナー、福田萌さん(元ミス横浜国立大学、ツイッターアイドル)が同時期に「2級FP技能士」に挑戦して合格したのが刺激になったようだ。

 「54歳のおっさんが挑戦する。頑張れっと言ってくれる人もいるし、不合格なら笑ってくれてもいい」

 税理士から遠ざかったのにFP資格取得とは何かの因縁だろうか。50歳半ばからのチャレンジャー。次は2級取得を目指す。その生き様は、まさに番組のタイトル「夕やけ寺ちゃん 活動中」である。

提供:『HAKUMON Chuo』2012秋季号 No.228

寺島 尚正(てらしま なおまさ)さん
東京都出身。中央大学商学部卒業。「寺ちゃん」という愛称で親しまれている。文化放送編成局制作部専任部長として活躍中。主な担当番組は、「夕やけ寺ちゃん 活動中」(月~金 15:30~18:30)、「浜美枝のいつかあなたと」(日 10:30~11:00)、「内海文化・QRの現金5万円入りのハンドバッグ」(インターネットラジオ BBQR、Podcast QR)では漫才コンビを組んでおり、アナウンサーと漫才師という、2つの顔を持つ。