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トップ>人―かお>開発コンサルタントと作家の「二足のわらじ」をはく

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松村 みかさん

松村 みかさん【略歴

開発コンサルタントと作家の「二足のわらじ」をはく

松村 みかさん/開発コンサルタント・作家

「道楽作家」と称しつつも、「城山経済小説大賞」を受賞

「城山三郎経済小説大賞」を受賞した『ロロ・ジョングランの歌声』(ダイヤモンド社)

 松村みかさんのブログを見ると、タイトルは「二足のわらじ旅日記 開発コンサルタントにして道楽作家…旅のつれづれ」となっている。「道楽」かどうかはともかく、発展途上国などでの開発コンサルタントという多忙な仕事をこなしながら、小説『ロロ・ジョングランの歌声』(著者名・松村美香、ダイヤモンド社)を上梓。おまけにこの作品で、2009年に「第1回城山三郎経済小説大賞」を受賞しているのである。

 小説のあらすじはこうだ。――新聞社の週刊誌記者の藤堂菜々美は、中部ジャワ地震の取材のためにインドネシアに向かった。いとこの稔は、取材地の東ティモールの独立紛争に巻き込まれて死亡。菜々美は被災地で国際援助団体の看護師で稔の恋人だった礼子や建設コンサルタント会社の社員らと出会う。菜々美と恋人和樹たちは稔の死の謎を解くカギを握り、やがてODA(政府開発援助)関連の贈収賄事件へと近づいていく――。  「小説には、ODAによって途上国の発展を支援するコンサルタントの実状を知ってほしい、との思いもこめられています」

 開発コンサルタントとはいかなる職業か。一口にコンサルタントといっても、かかわる業務によっていくつかに分かれる。まず、外務省などODAを執行する日本政府があり、それを受ける相手国政府がある。ODAの目的がインフラ整備などだったらゼネコンが建設を担い、さらに施工管理などを建設コンサルタントが担当する。そして、ODAによる事業のベーシック・デザイン(B/D)を作成し、関係するすべての組織の調整を行うのが開発コンサルタントなのである。

 たとえば、松村さんが開発コンサルタントとして昨年末にモンゴルにおもむいて行った太陽光発電の事業。2年前にB/Dをつくったが、今回はモンゴルの関係するいくつかの機関を招待し、広報活動を行った。

 もちろん、松村さんが「何でも屋なのですよ」というほど、業務の対象は広範だ。水力発電、道路、橋梁、上下水道、学校などなど。加えて、こういった事業に横断的にかかわることも少なくない。B/Dや、さらに詳しいディテイル・デザイン(D/D)をつくり、経済効果や予算配分なども行い、ときには施工管理も行う。

経済支援を受ける国で贈収賄が横行する理由

 松村さんが小説を発表した少し前、大手建設コンサルタントがある途上国のODA事業で贈収賄事件を起こし、社会の糾弾を受けた。つまり、コンサルタントも悪徳政治家と癒着する一部のゼネコンと同様にとらわれたのだ。

 「私は開発コンサルタントの仕事を始めて二十数年になりますが、幸運にも汚職事件に巻き込まれたことはありません。しかし、ODAを受ける国によっては、汚職は私たちの考えるものとはちがうのです」

 それはその国の文化であって、歴史だとさえいえるのだという。

 「お金を受け取ったお役所の上層部の人が一人占めするわけではありません。部下たちにも分配します。というのも、お役人の給料が安いからなのです」

 したがって、松村さん自身、忸怩たる思いをすることがある。

 「支援する側の論理を押しつけるのは酷だともいえます。つまり、小説で訴えたかったのは、賄賂をわたさざるをえない状況がすでにできあがっていて、建設コンサルタントもつらい立場にあるということです」

 とはいえ、松村さんはODAにまつわる負の側面を肯定しているのではない。

 「ODAの根本的な発想が発展途上国への支援・援助のみだったら、賄賂などその国の文化を是認しなくてはならなくなると思います。ですが、私は施しをするのではなく、その国が自立するお手伝いをしていると考えています。たとえば、ある国は長年、『援助漬け』になっており、一部の人が潤っているだけです。干ばつなどによる食糧不足が常態化しているその国で、灌漑工事や農業技術教育などに力点を置いたコンサルティングを行っています」

大学卒業して間もなく青年海外協力隊に参加

 こんな松村さんの海外への興味は、自らの不幸がもたらした。

 「大学2年のときに父が亡くなって、経済的に苦しくなりました。それで、ずっとボランティア活動をしていた新宿の留学生寮に、トラブル時や生活一般のお世話係として住まわせてもらったのです。私の海外への興味をかきたてたのは、仲よしになったタイ人留学生の影響です。といっても、留学するお金はありません。そんなおり青年海外協力隊の存在を知り、大学卒業後にタイに行きました」

 ちなみに、1990年、その際の体験をエッセイ集『タイ、水牛のいる風景』(勁草書房、注・現在品切れ)にまとめ、『朝日新聞』で紹介されたほどだ。

 帰国後、研究機関に入ったが、間もなく現在のコンサルタント会社に転じた。ところが、松村さんは「力不足」を痛感する。

 「社会人対象の夜間大学院で自分を鍛え直すことにし、筑波大学ビジネス科学研究科経営システム科学専攻に入学しました」

 マーケティングや組織論などを学び、01年にMBAを取得。開発コンサルタントとして、本格デビューをはたしたわけだ。

 最近ではエチオピアやネパールなどにおもむき、これまで訪れた国は発展途上国を中心に37カ国。いっぽう、4月に『ロロ・ジョングランの歌声』は角川書店から文庫化され、さらに新著の予定もあるという。松村さんの「二足のわらじ」はまだまだ続く。

提供:中央大学学員時報476号

松村 みか(まつむら・みか)さん

東京都生まれ。1985年に中央大学経済学部を卒業後、青年海外協力隊として2年間タイに滞在。帰国後、筑波大学大学院で修士(経営学)を取得、国際開発コンサルタント業務に携わり、カンボジア、インドネシア、モンゴル、エチオピアなどの開発調査に参加。2008年『利権聖域―ロロ・ジョングランの歌声』で第1回城山三郎経済小説大賞受賞。11月27日に角川書店より「利権鉱脈」というモンゴルを舞台にした単行本を発売予定。
二足のわらじ(開発コンサルタントにして小説家)旅日記ブログ