東京・築地のアサツーディ・ケイ(ADK)本社。受付を通し、案内された部屋に現れた廣部慧さんに、まず圧倒された。
聞けば身長191センチで、体重100キロ。仰ぎ見る偉丈夫に、初対面の記者はちょっぴり気後れしたが、席について、話をうかがいはじめると、質問に分かり易く、丁寧に答えてくださる廣部さんを前に、そんな気持ちはすぐに消えた。
大手電機メーカーの広告を担当
始業2時間前に出社して勉強
広告代理店の主な仕事は、広告スペースを提供するテレビや新聞、雑誌などの媒体と広告を出したい企業(クライアント)の仲介役で、第1営業部に席を置く廣部さんは現在、大手電機メーカーの広告を担当している。
会社の始業時間は午前9時半だが、廣部さんは毎日、その2時間前の7時半に出社する。「一番落ち着く時間なので、本を読んだりしています。いまは経営学の勉強をしています」。こう語る廣部さんからは、将来を見据え、何事にもポジティブに取り組む姿勢がうかがえる。仕事を終え、帰宅するのは、毎日夜10時ごろになるという。
広告業界を志したのは、大学3年生のときで、『竜馬がゆく』『峠』(いずれも司馬遼太郎著の幕末長編小説)を読んだのが、きっかけになった。「幕末に黒船が来航して、日本は開国に向けて動き出し、明治維新になりました。それは広告の仕事と似ていると思いました。新しい広告ツールが黒船に見えたのです」と語る。
高校、大学はラグビー部に所属
「自分ができることは何か」を思考
廣部さんは、その体躯からも想像できるように、元ラガーマンだ。高校1年からラグビーをはじめ、中央大学でも4年間、ラグビー部に所属した。ポジションはフォワードのロックだ。「『ルールのある喧嘩』と言われるラグビーですが、紳士のスポーツであり、試合終了後に相手選手と握手をして、『ノーサイド』になるのがラグビーの魅力です」と強調する。
高校1年でラグビーをはじめたきっかけにも、廣部さんのポジティブな姿勢がみえる。当時サッカー部に所属していた廣部さんは、泥だらけになりながら一心に練習をしているラグビー部員を見ていて、サッカー部からラグビー部へ転部した。「自分ももっと頑張れるところに行きたい」と思ったからだった。
ラグビー部では熱心に練習に励み、高校3年ではチームのキャプテンを務めた。だが、ラグビー漬けの毎日を送っていた廣部さんに、重要な転機が訪れる。高校2年の冬、一緒にサッカー部から転部し、ラグビー部で共に頑張ってきた友人が事故で亡くなったのだ。
突然の出来事で、「大きなショックを受けた」という廣部さん。そんな時、亡くなった友人の両親から「今を楽しむ生き方をして欲しい」と言われた。その言葉がきっかけで「死んだ友人のためにも今、自分ができることは何か?」を考えるようになったという。
オーストラリアに自費留学
シドニー大学でラグビーも
友人の死とその両親の言葉をきっかけに、いったんはやめようと思っていたラグビーをやる続けることにした廣部さんは、高校の顧問の先生の勧めもあり、中央大学に進学し、ラグビー部に入部した。
大学のラグビー部での生活は「予想以上にハード」で、特に「寮での生活は上下関係がとても厳しかった」と振り返る。しかし、それまで経験することのなかった人間関係を学ぶことができ、「社会人になった今、その経験は生きています」と感謝する。
何事にもポジティブな廣部さんは、大学2年の4月から翌年の1月まで、廣部さんは半年間、オーストラリアに自費留学した。語学学校に入って英語を学ぶ一方、中大ラグビー部のコーチの紹介でシドニー大学のラグビー部に入部し、本場のラグビーも体験した。
「日本とは全く生活様式の異なる社会に身を置いて、カルチャーショックを受けました。でも日本にいては味わうことができない、たくさんの経験を得ることができました」
沢山の読書で自分の生き方学ぶ
『発信』と『感謝』を心がける
ラグビーとは切り離せない大学生活をおくった廣部さんだが、就職活動ではあえてスポーツ選手だったことをアピールしないようにした。広告業界一本に絞った就活で、「真の実力をみて欲しかった」からだ。
それにはどうやら訳がありそうだ。廣部さんは本の虫で、読書好きの両親の影響で、高校生のときから「手当たりしだいに乱読してきた」という。「本は人と人を結んでくれます」と読書の良さを語るように、読書によって自分で考える力をつけてきたという自信があるのだろう。
そんな中で、大変感銘を受けた一冊に、『非属の才能』(山田玲司著)という本をあげた。「今の学生は安全パイ思考で群れている人が多いのですが、この本を読んで、自分は群れを作らず、流行に流されないような価値を見出せる人間になりたいと思うようになりました」と語る。
では群れを作らず、人に流されることもない、『非属』であるために必要なことはなにか? と聞くと、「『発信』と『感謝』を意識して行動しています」という答えが返ってきた。
自分から何か意思を発信すると誰かが見ていてくれて、良くも悪くも自分に反応が戻ってくるのが『発信』で、そこから自分自身の目標を生み出すことができる、という考え方だ。また『感謝』とは、人格は経験によってつくられるので、その経験を積ませてくれた人や環境などには感謝しなければならない、と廣部さんは解説してくれた。
人と群れずに生きる『非属』
恐れずに自分の考えを持つ
「人とは違う意思、考えを持つことは、恐く難しいかもしれませんが、その意思を発信する行為と、また人への感謝を忘れなければ、そんなに難しいこととは思いません」
こう強調する廣部さんは、最後に中大生へ向けて「皆さんも群れずに『非属』になってください。自分が1人になる時の勇気を持ち、自分だけで何を思うかを考えてみてください」とエールを送った。
提供:Hakumonちゅうおう2012春季号 学生記者:野村有希(経済学部2年)