中学生の時、成毛さんは同級生と賭けをしたそうです。
「将来サラリーマンには絶対ならない。」もしサラリーマンになったら初任給を相手に払う、と。
時が過ぎて1977年、中央大学商学部を卒業した成毛さんは、大企業に行く仲間を尻目に、北海道の自動車部品メーカーに就職。学者になった同級生には、約束通り初任給を渡した。しかし新入社員の時からサラリーマンらしからぬサラリーマンだったという。
「人生は遊ぶためにあり、仕事も道楽のひとつだ。」
このポリシーの下、若い頃から会社は食い扶持を稼ぐ場所と考え、衣食住のみならず生活のあらゆる場で他との差別化を試みたそうだ。無茶をして、困った奴だと呆れられ、時に社長から大目玉をくらいながらも、アマノジャクな社会人生活を堅持したという。
マイクロソフト日本法人社長、そして独立
転勤を命ぜられた大阪の地が肌にあわなかった成毛さんは、自動車部品メーカーを辞めてしまった。東京に戻り転職した「アスキー」で、入社当日に「アスキーマイクロソフト」へと出向を命じられる。後のマイクロソフト日本法人だ。
当時ソフトウェアのことなど何も知らずパソコンも満足に使えなかった成毛さんは、未知なる世界にかえって面白みを感じたという。1日は40時間あると考えて、朝も夜も関係なくがむしゃらに働いた結果、5年後の35歳には社長に就任。しかし、社長職を9年続けたところで退任してしまう。アマノジャクの血が騒ぎ、パソコンの普及とともに、ソフトウェアを売るというビジネスに飽きてしまったのだ。
マイクロソフトを辞めた成毛さんは、投資兼コンサルティング会社「インスパイア」を設立し、コンサルティングやベンチャー企業への投資などを始めた。
時には、「どうして株価をあげる必要があるのか?」「利益を出すということはどういうことなのか?」などの旧態依然とした経営者の問いに脱力しながら、コンサルティングによって企業の収益を上げ、その結果としての株価上昇で利益を得る。
一方で、未公開のベンチャー企業に出資もする。注目するのはそのアイディア。「ベンチャー企業は独創的でリアリティがなければならない。そして経営者は外交的で楽天的であること、若いことが絶対の条件だ。」と成毛さんは言う。
また成毛さんは、経営者には、知識もノウハウもMBAも必要ないと断言する。
むしろ、子どものようなこだわりの強さ、がむしゃらさ、鈍感さの方がずっと大切であり、「夢中になれる才能」を持つ者が、ビジネスの世界で成功を引き寄せることができると説く。
人間ならば本を読め
ビジネス界きっての読書家である成毛さんの自宅には、本が溢れている。その量たるや、数える単位は「トン」だ。地下には本が詰め込まれた本棚がびっしり、リビングには50冊以上の本が置いてある。寝室にもトイレにも、通勤用の鞄の中にも――周り中が本で埋め尽くされているという。
リビングで、トイレで、通勤途中で。それぞれの時間にそれぞれの場所に置いてある本を読むのが、成毛さんお薦めの「超並列」読書法だ。常に10冊以上の本を並列で読んでいるという。
細切れで頭に入るのか? バラバラのジャンルの本を読んで、混乱しないのか?
成毛さんはむしろ、脳の様々な部位を活性化させることができるのではないか、と考える。手にする本は科学ノンフィクションから歴史ものまで、ともかく幅広く読む雑食タイプの読書家であるが、「ビジネス書」と「小説」はほとんど読まないという。前者は「時間つぶし」とバッサリ、後者については、「小説は力があり過ぎて」仕事にならないという理由でこれも距離を置いているそうだ。
「人の上に立つ人間になりたければ、とにかくたくさんの本を読むことだ。」
そんな信念を持つ成毛さんは、今の人たち、とりわけ若い人たちがあまりに本を読まないことに、暗澹たる気持ちを抱く。
「本を読まない人間はサルと同じだ。本を読むのに必要とされる「想像力」を持たぬ生き物は、人であって人でない。」と、成毛さんは厳しい。
オーダーメイドの幸せを求めて
政治も行政もあてにならず、10年後どころか来年の生活さえ約束されない今の日本で、「幸せ」になるためには、どうすれば良いのだろうか?
それは、自分が自分にオーダーし、自分で受け取る幸せを見つけることだと成毛さん言う。
例えばビジネスパーソンである成毛さんは、「自分の幸せは遊び。すなわち人生を楽しむこと」と捉えている。
「本質的に、お金を儲けることが目的であるビジネスは、形あるものを作り出す仕事ではない。後世に名を残すこともない、ある意味で刹那的な仕事だ。
ならばお金を儲けて、遊びを含めて、人生を楽しむことが、ビジネスパーソンにとって幸せの一つの形に成りえるのではないか。」
アマノジャクで欲張りな成毛さんにとって、還暦までカウントダウンというお歳は、まだまだ引退にはほど遠い。2011年7月にスタートした新刊書評サイト「HONZ」は盛り上がりを見せている。次に乗り込むのは出版界か――今日も成毛さんの進化と挑戦は続く。