現在、経済評論家で本学ビジネススクール客員教授でもある勝間和代さんの共同事業パートナーとして活躍中であり、株式会社「監査と分析」の代表を務める上念司さん。今や当然のように認識されている日本のデフレ経済を、菅政権発足以前から政府に提言し、デフレ危機の警鐘を鳴らしてきた。
今回は、素人にもわかりやすく日本経済を解き明かす上念さんに、学生時代に培った3つの能力と、その能力を身につけるキッカケとなった在学中の出来事を聞いた。
1つ目の能力――英語力
上念さんと中央大学の出会いは15歳の時。両親共働きのうえ、学習塾にも通わず、受験情報に疎かった彼に、当時の中学校の先生が、中央大学附属高校(以下、中附)の受験を勧めた。
上念さんが身に付けたスキルの一つである英語は、この中附時代に培ったものだという。当時中附には、米国のニュージャージー州にあるコロンビア高校で1年間勉強ができる交換留学プログラムがあった。毎年3年生から1名だけが選抜されるプログラムに、上念さんもチャレンジした。そして、選抜の前段階の猛特訓――図書館の一室で行われていた英会話の課外授業にこそ、彼の英語力向上の秘訣があった。
「この授業が凄かった」上念さんは振り返る。
担当のベイカー先生は喩えて言うならスタンリー・キューブリック監督の『フルメタルジャケット』に登場するハートマン軍曹のような人。わからないことがあれば2秒以内に手を挙げないと、机を叩きながら怒るスパルタ教師、鬼軍曹そのものだった。あまりの厳しさに、スタート時は15人ぐらいいた受講生が日に日に減っていき、3学期になるころには2人になった。最後まで残った上念さんは、ほとんど個別指導のような状態で習っていたという。
その結果、翌年は晴れて交換留学生に選ばれ、1年間のアメリカ暮らしを体験することに。ベイカー先生のスパルタ指導のおかげでアメリカでの生活は初日から言葉で苦労することはなく、現地の友達にも「お前は英語を勉強しに来たんじゃないのか? もう喋れてるじゃないか?」と言われるまでに上達していたという。
ニコニコ動画(平成22年10月28日)
2つ目の能力――リーガルマインド
1年間のアメリカ生活を終えて帰国した上念さんは、1年遅れで中附を卒業し、そのままエスカレーター式に中央大学法学部法律学科に進学した。法学部には渥美東洋先生や、藤本哲也先生といった個性的な先生がおり、そのような先生の授業には、積極的に出席していたという。
「渥美先生の授業は、最初の3回ぐらいは延々と「正義とは何か」という話を聞かされたのを覚えています。今、ハーバード熱血授業のマイケル・サンデル教授が流行っているようですが、今から20年前にあれよりももっと迫力のある授業が中央大学で展開されていました。また、藤本先生の授業は当時のカテゴリーでは刑事政策に分類されていましたが、実際にやっていることは犯罪モノの映画やドラマでおなじみのプロファイリングそのものでした。かなり先駆的なことをやっていたと、改めて気付かされます」
渥美先生は、法学部で刑事訴訟法を教え、総合政策学部設立当時の初代学部長も務めた大御所である。この先生の授業を聞きたいと、中央大学に通った学生は少なくなく、先日中央大学で講演をした、みんなの党代表の渡辺善美氏も、その一人であった。
「私はあまりマジメな学生ではなかったうえ、当時はバブル経済で割の良いアルバイトもたくさんあったので、授業への出席もそこそこに、出たい授業にだけ参加し、そのたびに知識をつまみ食いしていました。しかし、そんないい加減な学生であっても、法律がなぜ存在しているのかといった概念的な話から、実際にそれを適用するには具体的にどのような手続が保証されるべきなのかと言った政策的な問題まで、幅広く法律的なセンスを磨くことができました」
上念さんは、学生時代を振り返りながら、このときに培われたセンスが、現在、勝間和代さんが参加する様々な政府の審議会や政策討論番組などのお手伝いをする際にも、単なる理想論、べき論に終わらない、法律的な視点を持った提言を作成していくことに役だっている、と語る。
3つ目の能力――プレゼンテーション力
最後の能力として、上念さんの大学生活を語る上で欠かせないのが、中央大学唯一の弁論部である辞達学会の存在だ。現役の学生時代は、弁論、ディベート、辻説法(遊説)、学生模擬国会という4本柱があり、4年間で順次これらを体験することで論理的な思考やコミュニケーション能力を高める仕組みになっていた。中には部活だけでは飽き足らず、議員秘書のアルバイトをしながら、実際に身に付けた能力を存分に発揮している先輩方もいたという。
また、テレビ討論番組にも出演し、田原総一朗さんや猪瀬直樹さんといった気鋭の論客たちと激論を交わす機会にも恵まれていた。当時、一緒に討論に参加していた弁論部の仲間たちは、政治家になったり、社会活動家になったり、ジャーナリストになったり……と、それぞれのやり方で夢をかなえ、様々な進路を歩んでいる。
「先日、20年ぶりに田原さんに再会して当時のことをお話ししたところ、私たちのことを今でもよく覚えているとのことでした。それは、私にとっては期せずして感動の再会となったわけですが、それは中央大学を通じて学んだことが今自分を支えているということを確認した瞬間でした」
今年1月に、処女作『デフレと円高の何が「悪」か』を出版し、先月には3作目の『日本は破産しない!』を執筆した速筆作家の上念さん。その内容は、田原総一郎氏の「朝まで生テレビ」張りにわかりやすく、直接的で、切込みが激しい。次回作も大いに期待したい。