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トップ>人―かお>ノンフィクション『この命、義に捧ぐ』で、「山本七平賞」の受賞が決定

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門田 隆将

門田 隆将 【略歴

ノンフィクション『この命、義に捧ぐ』で、「山本七平賞」の受賞が決定

門田 隆将さん/ジャーナリスト(1983年法学部卒)

納得できるまで取材しなければ、いい作品は書けない

 4月に発行した『この命、義に捧ぐ―台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(集英社)で、「第19回山本七平賞」(贈呈式11月16日)の受賞が決まったジャーナリストの門田隆将さん(1983年法学部卒)。この門田さんの事務所にうかがって、少々驚いた。応対に出てくださった奥さまの恵美さん以外、スタッフらしき人がいないのだ。今年だけで『この命、義に捧ぐ』のほかに、『あの一瞬―アスリートはなぜ「奇跡」を起こすのか』(新潮社、7月)、『風にそよぐ墓標―父と息子の日航機墜落事故』(集英社、8月)と、3冊ものノンフィクション作品を上梓しているジャーナリストである。当然、取材を担当するデータマン(週刊誌などでは編集者以外に取材が専門のデータマン、文章をまとめるアンカーマンがおり、作業は分業化されている)や資料整理などを行うスタッフが何人かいるだろうと思い込んでいたからだ。

 早速、「データマンなど、スタッフはいらっしゃらないのですか?」と質問したところ、「ええ、一人もいません。ぼくがすべて取材をしていますから」との言葉が返ってきた。

 「取材を他人まかせにしたらいいノンフィクション作品は書けません。自分一人で取材をするのは大変ですが、じかに取材しなければ、相手の表情や仕種をはじめ、その人の深い部分まで触れることができませんから」

 たとえば、単行本は12万部を超え、8月末には文庫も刊行された『なぜ君は絶望と闘えたのか―本村洋の3300日』(新潮社)。最愛の妻子を殺害された深い悲しみのなか、何度となく司法の厚い壁にぶつかりながらも闘い続けた青年の9年間を見事に描き切っている。今秋、WOWOWにて江口洋介主演でドラマ化される。

 「本村さんとは数かぎりなく話をし、いかに彼の絶望が深かったか、身をもって感じてきました。犯人の少年Fには一審、二審とも無期懲役の判決が言い渡されました。しかし、苦悩と絶望にさいなまれながら本村さんは闘い続け、事件から9年後、ようやく差し戻し控訴審で死刑判決を勝ち取ったわけです」

思いやりがあり、かつ毅然とした日本人を描く

 想像にかたくないことだが、門田さんは人間が大好きだという。

 「思いやりがあり、かつ毅然としている本来の日本人が大好きです」

 こんな門田さんならではの作品が『この命、義に捧ぐ』。終戦時、陸軍の駐蒙軍司令官だった根本博は、日ソ中立条約を破棄して殺到するソ連軍と闘い抜き、内蒙古在留の邦人4万の脱出を成功させた。その際に邦人保護に協力してくれた蒋介石と国府軍は4年後、国共内戦に敗れ、金門島に撤退していた。

 「蒋介石への恩義を返すため、根本は台湾に行くことを決意します。日本は占領下ですから、当然、密航です。いつ沈没してもおかしくない漁船でやっと台湾へたどり着いた根本は、国府軍の軍事顧問として金門島で共産軍に立ち向かったのです」

 門田さんの取材協力によって今年の終戦記念日、フジテレビが根本博をドキュメンタリー番組として取り上げ、感動を集めたのは記憶に新しい。

司法、歴史、スポーツなど幅広い分野を手がける

 83年に中央大学を卒業後、新潮社に入社した門田さんは『週刊新潮』編集部に配属される。最初は取材の日々が続くデータマン。いくつかのスクープをものにし、90年には『週刊新潮』史上最年少のデスクとなる。取材・編集も担当しつつ、最終原稿をまとめることになった。

 「800本近く特集記事を書いたと思います。おそらく、これだけの数の特集記事を書いた週刊誌デスクはぼくだけじゃないでしょうか」

 『週刊新潮』在籍中には、『裁判官が日本を滅ぼす』(新潮社)、『甲子園への遺言―伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯』(講談社)、『ハンカチ王子と老エース―奇跡を生んだ早実野球部100年物語』(講談社)を刊行し、08年4月に独立。その後さらに7冊の著作を世に問うている。

 「出版社の編集者たちに、『刊行のペースが早すぎる』といわれているので、次の作品の出版は今年ではなく来年にしますよ」と苦笑交じりに語る。司法、歴史、事件、スポーツなど幅広い分野を手がける門田さん。来年はどんな作品を披露してくれるだろうか。

提供:中央大学学員時報465号

門田 隆将(かどた・りゅうしょう)さん
1958年高知県安芸市生まれ。本名・門脇 護(かどわき まもる)。安芸第一小学校、土佐中学、土佐高校、中央大学法学部政治学科卒業後、新潮社に入社。週刊新潮時代は、特集班デスクとして18年間にわたって800本近い特集記事を執筆する傍ら、「門田隆将」のペンネームで『裁判官が日本を滅ぼす』(新潮社)、『甲子園への遺言―伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯』(講談社)などを出版。『甲子園への遺言』は、NHK土曜ドラマ「フルスイング」(主演・高橋克実)としてドラマ化され、ベストセラーとなった。その後2008年4月に独立。光市母子殺害事件の9年間を描いた『なぜ君は絶望と闘えたのか―本村洋の3300日』(新潮社)、『康子十九歳 戦渦の日記』(文藝春秋)など、著書多数。