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トップ>人―かお>アフガニスタンやスーダンなどの紛争地で、武装解除や住民の生活再建などの支援に取り組む

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瀬谷 ルミ子

瀬谷 ルミ子さん 【略歴

アフガニスタンやスーダンなどの紛争地で、武装解除や住民の生活再建などの支援に取り組む

瀬谷 ルミ子さん/特定非営利活動法人 日本紛争予防センター(JCCP)事務局長

紛争の要因を解明したくて総合政策学部に入学

 2009年4月21日にNHK総合テレビで放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』のタイトルは「銃よ、憎しみよ、さようなら」。1999年に本学総合政策学部を卒業した日本紛争予防センター(JCCP)事務局長の瀬谷ルミ子さんの南スーダンでの支援活動を追うドキュメンタリーだった。

 この番組では、元兵士の社会復帰を真正面から支援する瀬谷さんの姿が描き出されていた。その前にはアフガニスタンで外務省職員としてDDRと呼ばれる武装解除のミッションに取り組んだ瀬谷さん。DDRとは「Disarmament(武装解除)」「Demobilization(動員解除)」「Reintegration(社会復帰)」の略。瀬谷さんの使命は紛争国(地域)で武装解除に尽力し、さらには元兵士などを社会復帰させることなどを通じ、住民が可能なかぎり平和な生活が送れるよう支援することなのである。

 瀬谷さんに紛争国について目覚めさせたのは高校3年のときに見た「ルワンダの虐殺」(94年)での1枚の写真だった。

 「難民キャンプで死にかけている母親を必死になって起こそうとしている子どもの写真でした。片方では難民キャンプで母親が死にかけている子どもがいて、こちらはその写真をお菓子を食べながら見ている。この違いはどうして起きているのだろう、と疑問に感じました」という瀬谷さん。さらに「こんな違いが生じる世界の仕組みはどうなっているのか」を解き明かしたくなった。そうして世界の諸問題について学ぶべく本学の総合政策学部に入学したわけだ。

ボスニア・クロアチアでの調査で「秋野豊賞」を受賞

 瀬谷さんは学生時代から非政府組織(NGO)でのインターンを開始している。大学3年の夏休みにはルワンダに滞在した。しかし、「ルワンダの家庭でホームステイをしてきた程度もの」(瀬谷さん)で、ほろ苦い体験だった。

 瀬谷さんは、支援する者としてのスキルが不足していることを思い知った。支援者はコミュニケーションをとるための語学力のほか、現地ではどんな支援が必要とされているか、またそれをどう実現させるかといった解決能力が問われるのだという。そこで瀬谷さんは99年9月、英国のブラッドフォード大学大学院紛争解決学修士課程に進学。

 「60人ほどの学生の国籍は多彩で、カンボジアの元兵士、国連PKOの元要員、赤十字の医師など前歴も多種多様でした。こんな人たちとともに学び、議論を重ねるうちに、自分でも国際社会でやっていけるのではという小さな自信がつきました」(瀬谷さん)

 2000年7月には、修士論文作成のためにボスニアとクロアチアに調査に向かった。テーマはボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(91年のクロアチアの独立宣言をきっかけにクロアチア警察軍とユーゴスラビア連邦軍とが衝突。その後ムスリム人、クロアチア人とセルビア人とが対立して紛争が深まり95年まで内戦が続いた)で生じた民族間の対立がどのように和解していったかを調査するものだった。

 「表面上は落ち着いていましたが、紛争の根深さを実感しました。同じ町に住んでいても、通りを隔てて民族間の交流のない現実をいくつも見ました」

 紛争にまつわるこういった瀬谷さんの関心は、「秋野豊ユーラシア基金」(98年7月、国連タジキスタン監視団の政務官として活動中に凶弾に倒れた故秋野豊氏の事件をきっかけに同氏の平和と紛争への情熱に共感を覚える人たちによって設立)の「秋野豊賞」の受賞につながった。

NGOはボランティアではなく、プロとして活動している

 その後、中大時代にインターンをしていたNGOのルワンダ駐在員を務め、シエラレオネには国連ボランティアとして15カ月間滞在し、アフガニスタンでは03年から約2年間、軍閥の司令官たちと交渉を含むDDRに取り組んだ。2年前からはJCCPに所属し、09年2月、前述の南スーダンでの活動を開始した。テレビ番組では、除隊して学校に通うことを希望する少年兵マイケルへの支援が印象的だった。マイケルの上官に何度も会って説得する瀬谷さん。やっとの思いで除隊の言質を取った瀬谷さんの、将来に不安をもつマイケルへの言葉はこうだ。

 「これはあなたの人生で、私の人生ではない。これからは自分で考えてください」

 JCCPの支援では、人々が自立できることを目標とする。7月からは国連開発計画のソマリア事務所の依頼で、警察の訓練や司法整備をはじめとしてコミュニティレベルの紛争解決などに取り組んでいる。

 「私たちのようなNGOに対して、日本ではボランティア活動ととらえられている側面がありますが、決してそうではありません。紛争解決のプロとして、ときには国連ができないことを含め現地で活動しているのです」と、瀬谷さんは強調する。

 このプロ意識があるからこそ、スーダンやソマリアなどの危険きわまりない紛争地にもおもむいて支援活動に従事することができるのだろう。

(提供:中央大学学員時報459号)
写真提供:Japan Center for Conflict Prevention

瀬谷 ルミ子(せや・るみこ)さん
1999年中央大学総合政策学部卒業。英ブラッドフォード大学紛争解決学修士号取得。国連PKO、外務省、NGOなどで勤務。第二回秋野豊賞受賞。ルワンダ、アフガニスタン、シエラレオネ、コートジボワール等で勤務。専門は紛争後の復興、平和構築、治安改善(SSR)、兵士の武装解除・動員解除・社会再統合(DDR)など。アフリカのPKOセンターで軍人、警察、文民の訓練カリキュラム立案や講師も務める。