府木 真衣
府木 真衣(ふき・まい)さん/文学部1年
2010年に創立125周年を迎える中央大学で、歴史上初めての応援団女子リーダー部員が誕生した。その人は、文学部1年の府木真衣さん。夏合宿を乗り切り、硬式野球部の秋季リーグ戦で神宮球場デビューした。普段は普通の女子学生の府木さんの素顔に迫った。
高い詰め襟の学ラン(学生服)にポニーテールが跳ねる。腕を振り、声を張り上げ、試合開始前から試合終了まで2時間余り、休む間はない。声はかすれ、額からは汗が流れ落ちる。先輩の男子応援団員と変わりなく、激しく動き回る姿に女子だと気付く人は、少ない。
9月5日の神宮球場。東都大学野球秋季リーグ戦の開幕戦で、府木さんはデビューした。この日は土曜日とあって、普段と比べ多くの中大学関係者やOBらが応援に駆けつけた。その中には永井和之総長・学長の姿もあった。
青山学院大に2点を先行されて迎えた7回ウラの中大の攻撃、その直前になって応援団の大内学団長から府木さんは、「リーダー台に立て」と指示された。府木さんは「全く予期していなかった」という。突然の指名に、緊張感が一気に高まった。
1年生がスタンド最前列に設えたリーダー台に立つのは、異例だ。スタンドの中大応援席に向かって、府木さんは先輩に教わって覚えた段取り通りに、懸命に腕を振り上げ、足でキリを踏んだ。功を奏したのだろう。その回、中大は1点を入れ、応援席は大いに盛り上がった。
「きつい」「厳しい」などのイメージがついて回り、男子学生でも入部するのを尻込みしてしまいそうな応援団リーダー部に、府木さんはなぜ入部したのだろう。
「応援団というのは、どういうものなのか全然知らなかったんです。高校には応援団はなかったので…」と意外な返事がかえってきた。「高校時代は“帰宅部”でした」という。
「大学では部活かサークルに入りたい」と、中大に入学して新歓の時などに吹奏楽部、アーチェリー部、ゴルフ部などを見学して回った。だが、周りの学生がサークルに入り始めた6月になっても、なかなか部活を決められずにいた。「早く部活を決めなきゃ」と思っていた先に目に入ったのが、応援団リーダー部が新入部員を勧誘するポスターだった。
「大学生活では青春っぽいことがしたい」。応援団が、どういうものだかも知らずに入った動機は、軽い乗りだった。でも、応援団の門をたたいた時、先輩から「マネージャーをやりたいのか」と聞かれた際に、府木さんは「いいえ」とはっきり答えた。
入部を決めて母親からは、「いいんじゃない」と言われ、何も反対されなかった。父親にはしばらく経ってから話をしたが、「へぇー、変な子だね」という反応だったという。
応援団は、礼儀にとても厳しくて、「いろいろな礼儀を教わります」と府木さん。例えば、返事は必ず「押忍(オス)」。先輩と会った時の挨拶は「○○先輩、ちわーす」。そして、先輩から何か物を渡されたときは、必ず「どうもごっつあんです。御預かり致します」と言う。
普段の大学生活では使い慣れない言葉が並ぶ。「最初は抵抗がありました。何で押忍(オス)なんだろうって…(笑い)。でも今では、自然に押忍って言っちゃいます」。
8月下旬、府木さんは応援団リーダー部の夏合宿に参加した。応援団リーダー部の部員は現在6名。合宿には15人のOBが駆けつけ、動きなどを指導してくれた。「50代、60代くらいのOBの方が多いです。応援団はOBとの繋がりが、特に強いと思います」。府木さんは、夏合宿で後輩を思う先輩たちの気持ちの深さを感じた。
「夏合宿で一番辛かったのは、食事です。出された昼ご飯のなかのご飯の量が、おかしいんです」と真面目な表情で語る。弁当は大きく、ご飯のスペースがとても多かった。男子学生向けの大きさの弁当を、同じ時間内に、府木さんも食べなければならなかった。「こんなに白いご飯は食べられないと思いました。それが一番辛かったです」と笑う。
練習では、基礎体力をつける。いつも腕立て伏せを30回やるが、「苦手です」という。校歌を歌いながら、両足を上げて、上半身とでV字をつくるV字腹筋を行う。これも女子にはきつい。
応援団リーダー部に入部して、夏合宿を体験し、神宮球場デビューも果たした府木さんの目標は、「応援団の活動を続けること」だ。現在、1年生部員は府木さん、ただ一人。責任もかかってくるが、「応援団の経験は社会人になったら役に立つと思うので頑張ります」と覚悟は固い。