オピニオン

23統一地方選の争点、課題は何か

佐々木 信夫(ささき のぶお)/中央大学名誉教授、行政学者
専門分野 行政学、地方自治論

 ここ3年に及ぶコロナ禍で地域社会は大きく傷ついた。日本の行政の3分の2は地方自治体が担うが、各地域で起きている問題には自ら積極的に対応していくことが求められる。山積する課題の解決へ、限られた財源でどう配分するのか。今ほど自治体において、持続可能な経営の手腕が問われている時代はない。政治機関である議会と首長の出番である。

◆統一地方選とは何か

 そうした中、この4月、戦後20回目の統一地方選が行われる。4月9日に都道府県と政令市、23日に市区町村でそれぞれ長と議員の選挙がある。今年は国政選の予定がないこともあり、各政党は命運をかけてこの統一地方選に臨んでいる。もとより、47都道府県、1718市町村、23特別区の長と議員の選挙を「統一」して一斉に行うと言っても、1947年に行われた第1回目の100%の統一率と異なり、最近はそれが30%にも満たない状況にある。戦後80年の間に市町村で昭和、平成と2度の大合併が行われ、首長の途中辞職も加わり選挙時期がバラバラになったためである。

 今回は234首長選と747議会の議員選が行われる予定で統一率は27.54%に止まる。概ね知事、政令市長の約2割、市町村長の約1割、特別区長の約5割、一般市町村の議員の約4割、道府県、政令市の議員約8割、特別区の議員の約9割が改選される。10年前まで統一地方選の花形は都知事選だった。だが今は時期がずれ、今回は大阪や奈良、北海道の知事選などが注目されているが、「首都燃ゆ」という状況はなく、世論の盛り上がりにもうひとつ欠ける。

 その点、政党やマスコミが騒ぐ割にその影響は限定的かも知れない。ただ、地元の自治体にとっては4年間の帰趨を決める選挙で影響力が強く、岸田政権にとっても地方政治の評価は国政の帰趨に直結する。それだけに油断できない選挙である。

 もう1つ、住民の政治参加の機会であり重要な選挙だが、有権者の投票率は回を追うごとに下がり続け、どの選挙も5割を割り込む状況にあるという点だ(図―総務省)。半数以上の有権者が投票に行かないという事態をどうみるか。

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 どう改善するか。4年前から被選挙権を18歳まで下げ、若い有権者250万人が地方選挙にも参加できるよう制度改正したが、その効果はまだ見えていない。今回これを覆す動きが現れるかどうか、民意を反映した政治への動きとして注目される。また、女性ゼロ議会も相当数ある。それだけでなく女性議員比率が1割レベルに止まり、世界でワーストワンと言われる。政治は男がやるもの意識、このムラ社会の風土と女性が議員になりにくい状況を変えられるかどうか。さらに無競争当選が過疎の小規模市町村だけでなく県議選でも3割を超えるという状況、選挙の洗礼を受けずに4年間住民の代表に就くという状況を変えられるか。もしそのままなら、選挙管理の仕組み自体を変える必要が出てこよう。

◆何が政策争点、課題か

 さて問題は何を問うかだ。いま国、地方を問わず、日本は人口減少に伴う様々な問題、課題を抱え、さらに医療、介護、年金、福祉、子育て、空き家、耕作放棄地、労働力不足、老いるインフラ、地域の活力低下、税収不足、集落の崩壊など公共問題は多岐にわたる。 

 とりわけ、ここ3年に及んだコロナ禍の影響で各地は大きく傷ついており、地域経済の低迷、税収の大幅ダウンは避けられない。解決の迫られる課題が山積みな一方、財源不足というジレンマを抱える。限られた経営資源をどう生かすか自治体経営の手腕が問われる。

 ここ10年、安倍政権から現在まで国は「地方創生」の旗を振ってきたが、現場の動きは芳しくない。各地の財政が厳しいこともあり、国の補助金、交付金頼みの動きが目立ち、地域から様々な政策が生まれる内発力が見えない。これでは何のための地方創生か分からない。国の顔色ではなく住民と向き合い、自主独立、自力更生で地域の課題を解決する。そうした政策論争を活発化すべきである。首長選、議員選に共通した課題はここにある。

 個別にみると課題は山積。例えば全国各地で子供の数が減り続け、小中学校は毎年500校も廃校になっている。その空き施設をどうするか。都市部では待機児童、保育施設への転用が、農村部では介護施設への転用などが争点になる。「空き家」問題も深刻。全国の空き家率は年々上昇し、既に15%近くが空き家になっている。都市部に人口が移動し、集落全てが空き家だという地域すら出ている。都市部では相続人の分からない「空き家」が多発し、防犯上も景観上も空き家処理が喫緊の課題となっている。だが、所有権絶対の思想を盾に空き家が社会問題だと言っても、そう簡単に役所は介入できない。空き家優遇の税制を改正すべきだ。それと、むしろ空き家を逆手にとって空き家バンクをつくり、サテライトオフィス、セカンド住宅など人口呼び戻し策に転じたらどうか。様々な知恵が要る。

 耕作放棄地もどんどん増えている(図―農水省)。空き家問題と同様、新たな視点でこれを活用するアイディアは出せないだろうか。さらに、少子高齢化というヒトの問題と並び、老いるインフラの問題も深刻だ。今から50年前高度成長の波に乗って一斉に整備した道路、橋、公共施設、学校、上下水道などの生活インフラが一斉に耐用年数50年を過ぎ、急速に劣化している。これを更新するのに9兆円も10兆円もカネが掛かる。勿論、人口が急速に減るのでそのインフラが地域にとって不可欠かどうかも議論しなければならない。これに地方、農村地域ではローカル鉄道や路線バスの廃止の問題も深刻化している。

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◆「議会のあり方」も争点

 一方、議員のなり手不足も深刻な問題だ。加えて地方議会は本当に役立っているのかといった、議会制民主主義の根幹を問うような世論も浮上している。重要なのは地方議会の役割を再認識することだ。2元代表制という日本の地方自治の仕組みは、議会が議決機関、首長が執行機関という役割分担からなり、議会の決定なくして首長は動けない。世には首長優位、首長主導というイメージが漂うが、それは違う。本来は議会主導で自治体運営ができる仕組みだ。問題は議会の力不足が首長優位のような印象を与えているに過ぎない。そこで議会は審議・決定や執行の監視といった機能だけではなく、民意の集約と政策の提案など幅広い役割を果たすことが極めて大事であり、それにふさわしい体制整備が不可欠となる。例えば、広域圏の市町村が共同で〇〇市町村圏議会法制局をつくるなど立法、審査機能の強化を図る体制をつくったらどうか。政務活動費はこうしたところに使うべきだ。地方議会において地域に必要な政策を積極的に提案・推進し、合意形成に取り組んだらどうか。これも統一選の大きな争点である。

 議会改革は待ったなしのテーマである(図―筆者)。議員報酬や定数のあり方以上に、議員の質、議会の質をどう高めていくかが大事である。日本各地それぞれの議会が活性化すれば、それぞれの地域が変わる。地域が変われば、日本が変わる。すると日本そのものが元気になる。

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 そうした議会改革の起爆剤となるような統一選での改革論争、その後の改革の躍動に期待したい。このように今回の統一地方選は、日本の内政問題、地域のあり方を根底から問う選挙である。

佐々木 信夫(ささき のぶお)/中央大学名誉教授、行政学者
専門分野 行政学、地方自治論

1948年岩手県生まれ。早稲田大学・同大学院政治学研究科修了。法学博士(慶應義塾大学)。東京都庁16年勤務を経て、89年聖学院大学教授、94年~2018年中央大学教授。18年4月から中央大学名誉教授。専門は行政学、地方自治論。この間、慶應義塾大学、日本大学、明治大学院講師、日本学術会議会員(政治学)、地方制度調査会委員(第31次)、大阪府・大阪市特別顧問など兼任。

主著『現代都市行政学研究』(勁草書房)ほか、『今こそ脱東京』『新たな国のかたち』「地方議員の逆襲』『道州制』『自治体は変われるか』『東京都政』『都庁-もうひとつ政府』など。