オピニオン

鰻が「ハレの日」にふさわしい食べ物であるために

海部 健三(かいふ けんぞう)/中央大学法学部教授
Honorary Conservation Fellow, Zoological Society of London
国際自然保護連合(IUCN)種の保存委員会 ウナギ属魚類専門家グループ
専門分野 保全生態学

 「ハレの日」のご馳走に、頑張った自分へのご褒美に、特別な料理としてウナギを食する人がいる一方で、ニホンウナギは絶滅危惧種に区分され、採捕と流通には不法行為が蔓延しています。現在、ウナギは「ハレの日」の食卓にふさわしい食材と言えるのでしょうか。どうすれば、気持ちよくウナギを食べることができるのでしょうか。水産流通適正化法という新しい法律により、ウナギをめぐる一部の問題が解決に向かう可能性が見えてきました。

「ハレの日」と鰻

 お祝いや人生の記念となる「ハレの日」の食卓を特別な食事で飾りたいという想いは、多くの人に共通するものでしょう。ウナギはこのような「特別な食事」のひとつとして数えられることが多く、ウナギを扱う店舗でも「ハレの日」の食べ物としてウナギを売り出す広告が目立ちます(図1)。棋士やスポーツ選手など勝負事に関わる世界でもウナギの人気は高く、受験生の食事として推奨される場合もあるようです。栄養価が高いとされていることのほかに、「うなぎのぼり」という言葉に代表されるように、縁起が良いと考えられていることがその背景にあると推測されます。

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図1:鰻丼

 しかしながら現在、日本列島に生息するニホンウナギ Anguilla japonicaの個体数は減少しています。50年前の1970年には2,726tあった天然ウナギの漁獲量は、2020年には65t97.6%減)まで激減しました(図2)。また、日本で養殖されている「国産ウナギ」の半分から7割について、違法行為が関わっている可能性が指摘されています。減少を続け、違法行為の関与が強く疑われる食材は、縁起を重視する食卓に相応しいものでしょうか。

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図2:日本国内の内水面(河川及び湖沼)におけるウナギの漁獲量
養殖用の稚魚(シラスウナギ)ではなく、直接消費されるいわゆる「天然ウナギ」の漁獲量。データは漁業養殖業統計年報より。

ウナギの減少と消費

 2014年、国際自然保護連合(IUCN)はニホンウナギを絶滅危惧種に区分したことを発表しました。評価は2019年に更新されましたが、本種は現在も絶滅危惧種に区分されています。減少の理由としては、過剰な消費、河川や沿岸域などの成育場の環境劣化、産卵場の存在する海洋環境の変化などが関与していると考えられています。

 現在消費されているウナギのほとんどは、養殖されたものです。ウナギの「養殖」では、野生のウナギから生まれた稚魚(シラスウナギ)(図3)を捕獲し、養殖場で育てます(図4)。養殖ウナギを消費することは、野生のウナギを消費することなのです。同じように、河川や湖沼で大きく育った天然ウナギを捕獲して消費すれば、やはり次世代を残したかもしれない一個体が死亡することになります。養殖ウナギの消費、天然ウナギの消費のどちらも、ニホンウナギの個体数に影響を与えていることが推測されます。

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3:ニホンウナギの稚魚(シラスウナギ)

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4:ウナギの養殖
ウナギの仲間は海で産卵し、河川や沿岸域で成長する。ウナギの養殖では、海洋で生まれた野生のウナギ(いわゆる天然ウナギ)の子供がシラスウナギとなって河川にたどり着いたところを捕獲し、養殖場で食用のサイズまで育てる。

横行する密漁と密売

 日本国内で養殖されているウナギの半分程度は、違法な採捕や流通が関与していると考えられています。国内の養殖場で育てられるウナギには、日本で採捕されたシラスウナギと、国外で採捕・輸入されたものがあります。例えば2015年を例に挙げると、国内で採捕された15トンのうち63%にあたる9.6トンは、無許可で行う密漁や、許可漁業者の過小報告(無報告漁獲)など違法行為によって流通しているシラスウナギと考えられます(図5)。また、輸入された3.0トンについては、輸出を制限している台湾などから香港へと密輸されたものであることが疑われています[1]密漁や密売の横行は、現行の漁業管理の不備を示すだけでなく、統計情報を歪めることでニホンウナギ資源の管理を困難にします。

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5:日本国内で養殖される違法なシラスウナギ3つのルート
ニホンウナギの場合。(現在、日本国内でヨーロッパウナギは養殖されていない)。Kaifu et al. (2019) Global exploitation of freshwater eels (genus Anguilla). In Coulson P & Don A (Eds) Eel Biology, Monitoring, Management, Culture and Exploitation: Proceedings of the First International Eel Science Symposium (pp. 376-422). 5M Publishing, Sheffield をもとに作成。

 非合法な手段を用いて採捕・流通したシラスウナギは、適法なシラスウナギと区別なく養殖され、流通します。養殖や流通に関わる企業や組織は合法的な存在ですが、扱っている商品(ウナギ)には非合法な手段が関わっているものが混在し、区別できなくなっているのが現状です。

世界最大の野生生物犯罪

 ウナギをめぐる違法行為は日本に限られたことではありません。ヨーロッパと北アフリカに生息するヨーロッパウナギAnguilla anguillaは、1980年代より日本で大量に消費されました。ヨーロッパで捕獲されたシラスウナギが中国などへ輸出され、養殖されたのちに日本が輸入して消費されていたのです。しかしながら、ヨーロッパウナギの個体数が激減したため2009年にはワシントン条約によって国際取引が規制され、その後EUは域外への輸出を禁止しました。国際取引が規制されて以降、東アジアへ向けたヨーロッパウナギの稚魚(シラスウナギ)の密輸が急増したと考えられています。2020年に国連薬物犯罪事務所(UNODC)が野生生物に関わる犯罪をまとめた報告書[2]では、ヨーロッパウナギに関する報告が象牙などと並び一つの章を構成しています。

 ワシントン条約による規制とEUの禁輸措置以降、日本国内の市場に流入するヨーロッパウナギの量は激減したと推測されます。しかしながら、例えば香港におけるヨーロッパウナギの流通が発覚する[3]など、ヨーロッパウナギの密輸は後を絶たず、「世界最大の野生生物犯罪」と表現する関係者もいるほどです[4]。ニホンウナギに限らず、ウナギをめぐる違法行為は国際的に蔓延しており、早急な対策が必要とされます。

シラスウナギが水産流通適正化法の対象に

 このような状況の中で最近、シラスウナギの適切な採捕と流通の実現に向けて、日本で大きな動きがありました。2020年に成立した「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」[5](令和2年法律第79号 以下「水産流通適正化法」)について、シラスウナギをその対象として定める方向で検討がなされているという報道です[6]。水産流通適正化法は、違法に採捕された水産物の流通を防止するため、漁獲番号と取引記録によって流通の適正化を図る法律です。シラスウナギが同法の対象となることにより、違法に採捕・流通したシラスウナギが市場に流れにくくなります。

 2018年には、漁業法改正によってシラスウナギ密漁に対する罰金が最高3,000万円まで引き上げられました[7]。水産流通適正化法の対象にシラスウナギが指定されれば、改正漁業法とともに、シラスウナギ採捕と流通の適正化へ向けた大きな前進となります。世界的にも先進的な取り組みであり、水産庁および検討会委員、業界関係者などの努力と協力による成果と言えるでしょう。

 しかしながら、課題も残されています。現在のところ水産流通適正化法によって流通の適正化が図られるのは国内で採捕されたシラスウナギのみの予定であり、国外から輸入されるシラスウナギは含まれません。前述のように、輸入されるシラスウナギについては原産国からの密輸が強く疑われています。輸入されるシラスウナギも水産流通適正化法の対象とすべきところですが、今回は指定が見送られてしまう可能性が高まっています。

 また、対象が稚魚のシラスウナギのみであることも課題の一つです。現在検討されている内容では、シラスウナギを採捕し養殖場に入れるまでは同法による規制がかかりますが、養殖場で成育したウナギの販売は規制の対象になりません。流通と養殖の初期段階のみの規制では、不適切なルートから供給されたウナギが市場に混入することを防ぐのは難しく、せっかくの法律の効力が発揮できない可能性があります。

 水産流通適正化法の対象はパブリックコメントを経た上で2021年内の決定・公布が予定されています。予定通りに進行すれば、パブリックコメントの募集は近く水産庁のHPで告知されるはずです[8]

企業・組織に求められる行動

 残念ながら、これまで違法行為が関わっているウナギを日本の市場から排除することは極めて困難でした。「適法な養殖ウナギ」の入手のため努力している企業もありますが、多くの場合「適法なウナギ」と「違法なウナギ」を選別することは難しく、仕入れ担当者はなす術がなかったのではないかと思われます[9]

 水産流通適正化法の対象にシラスウナギが指定されることによって、この状況が大きく改善します[10]。水産流通適正化法によりシラスウナギの流通が規制された後には、適法なウナギを仕入れることが可能になるのです。具体的には、水産流通適正化法によって適法であることが証明されているシラスウナギのみを用いている養殖場からウナギを仕入れることで、「適法な養殖ウナギ」を入手することができます。

 しかし前述のように、水産流通適正化法の対象となるのは国内で採捕されたシラスウナギのみであり、輸入されたシラスウナギについては適法・合法の区別がつきません。通常、養殖場において飼育される間にウナギは混ざり合い、購入元の区別はつかなくなります。このため、水産流通適正化法で適法であることが証明されたウナギのみを飼育していなければ、出荷されるウナギが適法であるとは言えなくなります(図6)。水産流通適正化法がシラスウナギに適用されるまでの数年間で、養殖場、流通業者、蒲焼商などは適法であることを証明できるウナギを入手するための準備を進める必要があります。これまで、適法なウナギを入手することは困難でした。しかし今後、適法と証明できないウナギを扱う企業と組織は、コンプライアンス(企業や組織の法令遵守)に問題があると判断されることになるでしょう。

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6:今後選ぶべきウナギ
水産流通適正化法により適法であることが証明されたシラスウナギ(適正化法シラスウナギ)と、証明されていないシラスウナギ(その他のシラスウナギ)の両方を用いている養殖場で育てられたウナギは、違法行為が関わっていないことが担保されないため、推奨できない。適正化法シラスウナギのみを用いている養殖場から出荷されたウナギであれば、シラスウナギをめぐる違法行為に加担する心配がない。なお、このようなウナギを選択できるのは順調に進んだとしても2026年以降のことになる。

消費者に求められること

 関係者の努力により、ウナギをめぐる違法行為が一掃され、資源の持続的利用が実現し、ウナギを「ハレの日」の食材として楽しめる日が少しだけ近づきました[11]。まだまだ前途は多難ですが、数年後には適法なウナギを扱う業者を選ぶことで違法行為への加担を避け、ウナギの持続的利用に貢献できるようになります。大切なウナギ資源を将来に残すため、消費者は適切な業者を選択することが重要です。


[1] 香港を経由した密輸の疑惑については、「香港産」ウナギ、6トン輸入 出所不明、密輸の指摘」(2021年7月18日 共同通信)などで報道されている
[2] UNDOCの報告書
[3] 香港の市場でヨーロッパウナギが流通していることを報告した学術論文
[4] ヨーロッパウナギの密輸について報じる記事
[5] 水産流通適正化法に関する解説など(水産庁HP)
[6] シラスウナギが水産流通適正化法の対象となることを報じた記事
[7] シラスウナギに対する改正漁業法の適用は2023121日からとなる
[8] このページでカテゴリーを「水産業」に指定して検索することで、パブリックコメントの告知を確認できる
[9] イオン株式会社は2019年に稚魚の産地までトレース可能な「静岡県浜名湖産うなぎ蒲焼」を発売し、2023年までに100%トレースできるウナギの販売を目指すとしている
[10] 準備期間が設けられるため、実際にシラスウナギ流通の規制が始まるのは2025年12月と報道されている
[11]シラスウナギの流通が適正化しても、過剰な消費、成育場の環境劣化、海洋環境の変化といったニホンウナギの減少要因が解消されるわけではなく、保全と持続的利用のための努力は今後も必要とされる

海部 健三(かいふ けんぞう)/中央大学法学部教授
Honorary Conservation Fellow, Zoological Society of London
国際自然保護連合(IUCN)種の保存委員会 ウナギ属魚類専門家グループ
専門分野 保全生態学

1973年東京都生まれ。一橋大学社会学部を卒業後、社会人生活を経て2011年に東京大学農学生命科学研究科の博士課程を修了。東京大学大学院農学生命科学研究科特任助教、中央大学法学部助教・准教授を経て20214月より現職。

ウナギ属魚類の保全と持続的利用を目指した研究活動を行う。

著書に「結局、ウナギは食べていいのか問題」(岩波書店)、「ウナギの保全生態学」(共立出版)、「わたしのウナギ研究」(さ・え・ら書房)など。