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ピンチをチャンスに変える ―コロナ禍でも勝てる就活3つの法則―

五十嵐 星汝(いがらし せいな)/中央大学キャリアセンター職員

 昨年の今頃は...消費税は上がったものの大卒生の売り手市場は相変わらず続いており、東京五輪の中止など考えも及ばなかった。今年は未曾有の感染症がここまで拡大し、新生活様式と共に、大学や学生、企業に大きな変化をもたらした。

 そこで新卒採用市場について現状を分析し、今年の就活について振り返ってみようと思う。そこからコロナ禍でも勝てる就活術が見えてくるはずだ。

コロナ禍で就活はこのように変わった

chuo1224_h.jpg 10月の正式内定解禁日を迎えるタイミングで行われたリクルートキャリア就職みらい研究所の10月調査(対象サンプル数:大学生3,322名、有効回答数:991名)によると、今年101日時点の21卒生就職内定率は88.7%であり、昨年の93.8%より5.1ポイント減少した。

 一方、東京商工リサーチによると、202018月の倒産件数は5,457件であり、昨年同月期の5,470件より13件減少しているものの、同時期の休廃業・解散企業数は、35,816件と、昨年同月期の28,908件よりも6,908件(前年同期比23.9%)増加している。コロナ禍で急激な業績悪化に陥り、先行きが見通せないまま事業継続の意欲を喪失した企業、経営者が、倒産を待たずに店を畳んだ結果と見て取れる。打撃の大きさを産業別で見ると、サービス業他の11,144件(構成比31.1%)が圧倒的に多くを占め、次いで建設業の6,327件(同17.7%)、小売業の4,511件(同12.6%)...となっている。緊急事態宣言以降、経済活動が低迷し、内需はもちろん、インバウンド需要もなくなり、巣ごもり需要で売上を伸ばす一部企業以外は、厳しい状況が続いている。

 この企業の経済的な打撃ほどに、21卒生の就活は打撃を受けていないことが、前述の数値から読み取れる。20卒生の内定率と比べると、採用開始の61日時点では-13.4ポイントあった差が、101日時点では-5.1ポイントに縮まっている。これは緊急事態宣言後一時中断することになった採用活動の再開や公務員試験遅延等の影響で、学生の就活が長期化し、内定時期そのものが後ろ倒しになったことに起因しているが、いわゆるバブル崩壊後の就職氷河期ほどの打撃は今のところなく、内定率は今後も緩やかに増加していくことが見込まれる。

chuo1224_c2.jpg コロナ禍で世界経済が大打撃を受け、日本企業も急速に体力を失っているにも関わらず打撃が小さい理由は、採用人数の多い大手優良企業に限って「完全に募集を停止することはしない」とする方針ゆえである。1990年代後半以降の就職氷河期に採用を縮小、または停止した結果、現在40代になる生え抜きの中間管理職の欠員を招き、自らの首を絞めてしまった反省から「細々とではあっても、採用を継続する」とする企業が少なからずある。これは有難い誤算であったが、今年の場合、その他にも、22卒生から廃止されるとされていた経団連の就活ルール(実際は政府主導で継続)の前倒しで、通年採用と称して早期化されていた採用活動が、緊急事態宣言前の3月採用広報解禁前に、既に多くの学生に内定を出すという形で始まっていた事実も見落とせない。また、このことから、コロナ禍の業績不振の本当の影響(採用数の大幅削減)が、今年ではなく来年やってくる懸念も拭えない。

企業と学生の双方に存在する二極化

 今年の新卒採用活動では「学生のエントリー数が例年の1.21.5倍になった」、「いつもよりも集まる学生が多様で、質も良かった」との声が複数企業から寄せられる一方で、「合同企業説明会が悉く中止になり、学生が全く集まらない」、「オンラインの対応が遅れた」等、コロナ禍の採用活動に失敗している企業も多数見受けられた。

 株式会社ディスコのキャリタスリサーチ10月調査(全国の主要企業11,495社を対象)によると、10月時点で内定式を実施したと回答した企業は70.1%であり、そのうち内定式でオンラインを活用したとする企業は49.8%。これが、従業員1,000名以上の企業となれば67.3%であり、採用数の多い大手企業ほど、オンラインの活用が目立つ。またこれは、今年の採用プロセスでより顕著であり、21卒生の採用において、セミナーをオンラインで「実施した(している)」企業は68.6%、「実施も検討もしていない」は 6.9%、面接についても企業規模が大きくなればなるほど、オンライン対応を早いタイミングで行っている。

 本学は毎年、学内企業説明会のお声がけを各企業にさせて頂いているが、今年はライブを完全中止し、オンライン対応をお願いしたところ、募集希望人数を満たしていないにも関わらず、参加を断念する企業もあった。オンライン対応ができなかったからである。

chuo1224_a2.jpg この点、前期の授業がほぼオンラインであったことも影響し、学生については企業よりもオンライン慣れが早かった。ただし、"使いこなしている"学生と"使いこなせていない"学生の二極化は、このようなピンチの時にこそ露呈する。本学においては、サークル活動やゼミ活動等、あらゆる場面でオンライン学生生活をエンジョイして欲しいと、Webexのアカウントを6月下旬より順次学生に配布したが、配布後すぐにアカウントをアクティベートした学生は全体の3割程度であった。比較的早い時期に内定を獲得している学生を見るに、早い段階で、友人間で情報交換を行い、あらゆる就活アプリやWEBサイト、資料を使いこなしながら企業情報を入手し、オンライン面談に備えた工夫や環境の準備を進めていた印象が強い。

勝てる企業と勝てる学生の3つの法則

chuo1224_b2.jpg コロナ禍は感染者個人にとっての苦難であり、同時に社会全体にとってのピンチであるが、社会に限っていえば、我々の生活に大きな変化をもたらすチャンスでもある。感染を抑えるために外出を控え、巣ごもりしていた時間は、決して無駄とは言えない。昨年の今頃は想定もしていなかったテレワークの環境づくりが急ピッチで進められ、あっという間に浸透した。遠くから通わないと受けられなかった大学の授業が、自宅(オンライン)で受けられるようになった。いざ始まってみると、新しい生活様式は、これはこれでメリットも大きい。一度始まってしまったら、もう後には戻れない便利さがあり、After/Withコロナとして、この生活様式は今後、定着していくことだろう。

 もっとも、定着した頃には大概勝負はついている。勝てる企業と学生は、3つの法則に従って行動しているからだ。大事なことは、第1に「早さ」、第2に「変化への対応力」。特に、迅速かつ躊躇なき投資は欠かせない。ここで言う投資とは、知恵と時間と労力と資金の使い方である。

 そして最も重要なのが、第3の「決して諦めない」ことである。これは、私がキャリアセンターに配属になる前の入学センター時代に、高校の進路指導の多くの先生方から伺ったことでもある。高校時代はたったの3年×365日しかない。それをどうして3年生の12月で諦めてしまうのか? 2月下旬~3月上旬にかけての大学入試当日、ギリギリまでが与えられた時間である。残すところ2か月といえば60日――結構な時間が残されている。その意味では就活生も変わらない。6月頃から周りに内定者が増え始める。内定を一つも持っていない学生は不安に駆られ、中には途中で就活を諦めてしまう学生もいる。しかし、諦めてしまうことこそが、自分の将来を閉ざすことになるのだと、気づいてほしい。

――人の足を止めるのは絶望ではなく"諦め"。人の足を進めるのは希望ではなく"意思"――
(皆川亮二原作のSF漫画『ARMS』より)。

五十嵐 星汝(いがらし せいな)/中央大学キャリアセンター職員

北海道旭川市出身。1995年中央大学商学部商業・貿易学科卒。同年から中央大学職員として勤務。図書館、入学センター、広報室を経て、2015年よりキャリアセンターで学生の進路・就活サポートにあたる。また、進学アドバイザーとして道内の高校を担当、大学進学を目指す高校生を対象に進路講演を行うことも。