オピニオン

学生たちと考えるダイバーシティとキャンパス

—CHUOハラスメント防止啓発xDiversity Week2019を開催して

長島 佐恵子/中央大学法学部教授
専門分野 イギリス小説、ジェンダー/セクシュアリティ論

1.はじめに

 2019年12月6日(金)から14日(土)、中央大学多摩キャンパスと後楽園キャンパスにて、CHUOハラスメント防止啓発xDiversity Week2019が開催された。ダイバーシティ推進に向けた大規模な学内イベントとして第2回目になる今回は、中心テーマを「障害」と設定した上で、中央大学のダイバーシティ推進における三本柱である「障害」「ジェンダー・セクシュアリティ」「グローバル」それぞれにまたがる内容の映画上映、各種講演会、ワークショップ、展示など、盛り沢山の9日間となった。(各イベントの詳細はこちら

 本稿では、ウィーク期間に実施された様々な企画を概観し、さらにいくつかの企画に準備の段階から関わってくれた学生たちの活動を紹介して、本学におけるダイバーシティ推進の今後を考えてみたい。

2.2019年度のウィークの概要

 開催期間を通じて、2つのキャンパスで計6件の講演会と2件のワークショップ・講習会、2本の映画上映などが行われた。メインテーマの「障害」をめぐっては、多摩キャンパスでは石川准氏と木村晴美氏による2つの講演会が実施され、国際的な文脈で障害者の権利に関する最先端の議論について学び「障害」という枠組自体についても改めて問い直す刺激的な機会となった。後楽園キャンパスでは理工学部の諸麥俊司准教授のコーディネートにより、文学部の学生でパラアスリートの青野鷹哉氏を講師とする「障害と技術」についての講演会が行われた。

 映画は、文学部の大田美和教授と学生たちの協力で『えんとこの歌』および『福田敬子ー女子柔道のパイオニア』の2作品が上映された。ハラスメント防止啓発の観点からの「犯罪被害防止講習会」といった実践的な企画もあり、中央図書館での130冊の関連書籍を集めた展示や図書館1階のハラスメント防止啓発ポスター展示、生協書籍部のブックフェアにも、多くの学生や教職員が足を止めていた。

3.学生たちと学び考えたダイバーシティとキャンパスライフ

 今回のウィーク企画で特に重要かつ新しい要素は、学生とのコラボレーションであった。

 まず、前述の青野氏の講演会は、多摩キャンパスの学生である青野氏が後楽園キャンパスの諸麥先生の研究に協力している下地があって生まれたもので、諸麥先生のもとで障害工学の研究を進める学部生・大学院生との充実した質疑応答を含め、2つのキャンパス、文系学部と理系学部、障害を持つ当事者と研究者など、さまざまな領域属性を架橋する企画となった。

 一方で、特にジェンダー・セクシュアリティの領域に興味を持つ学生たちが積極的に企画運営に関わったのが、総合政策学部の高野さやか准教授の協力によってウィーク初日に開催された、遠藤まめた氏の講演会「多様な性があたりまえの場を作る」とその後のワークショップである。秋口から高野先生と学生たちが何度も集まって話し合い準備を進めて迎えた当日は、まず遠藤氏から多様な性について考える基礎となるご講演をいただいた。続くワークショップでは、学生たちの司会進行で参加者が小グループに分かれ、学生生活の現状や大学におけるダイバーシティ推進の取り組みについて活発な意見交換を経て、グループごとに提言がまとめられた。

 学内のサークルmimosaのメンバーをはじめ、ジェンダーやセクシュアリティをめぐって日頃から考えを巡らせ声を発したいと思っている学生たちの、経験に基づく率直な意見は、教職員主導で進めたのでは聞こえてこない貴重な言葉であり、学生に対する教職員の日頃の態度についても謙虚に振り返らせるものであった。遠藤まめた氏からの建設的なフィードバックがあったことも、学生たちにとってさらに大学という場に関わって声を伝えていきたいという更なるモチベーションにつながったと感じる。

 翌週末に後楽園キャンパスでウィークの最後を飾った連続講座「LGBTをめぐる社会の諸相」第5回「LGBTとこども・若者」でも、同じ学生たちが受付のアルバイトとして、また今度は聴衆として熱心に参加し、講座を充実したものにしてくれた。さらにウィーク終了直後の16日(月)に後楽園キャンパスで開催された映画「カランコエの花」上映会は、中大高校の教員と生徒が参加した貴重な機会となったが、そこでも学生の一人が性的マイノリティの当事者として自身の経験を踏まえた映画へのコメントを担当し、終了後も参加者と積極的に交流をはかってくれた。

4.宣伝活動とベジメニュー

 学生の協力なしに実現しなかった企画はこれだけではない。昨年度のアンケートで、もっと広くウィークの宣伝をしてほしいという声が多かったことを受け、今年は学生たちが「チュー王子」の協力も得てビラ配りに力を入れた。ウィーク初日の午前から構内で、レインボーカラーを身につけたチュー王子と学生たちが教員と共に、講演会や食堂の特別メニューなど詳細情報が詰まったクリアファイルを配布した。チュー王子はキャンパス見学に来ている高校生からも写真撮影をせがまれる人気ぶりで、その応援のおかげもあってか用意したファイルを予定よりも早く配布し終えることができた。

 学生主導のもう一つの企画は、学食で提供されたベジタリアン・ヴィーガンメニューである。昨年よりもさらに充実したメニューを提供し、かつ学生の興味を引いて売り上げを延ばすために、メニュー作りの段階から学生の意見を食堂に伝えてやり取りを行った。その上で学生たちが、なぜ今ベジタリアン・ヴィーガンが注目されるのかについて、環境問題と関連しての菜食の意義や留学生によるコメントを掲載したポスター、ビジュアルを意識したチラシなどを作成して広く学内で掲示・配布した。学生個人のSNSを駆使した広報効果もあって、昨年よりも全体に売り上げが伸び、提供したメニューや情報提供の効果について生の声をフィードバックとして得ることもできた。

5.新しい場を学生たちと育てる未来へ

 今回のウィークにおける講演会等への来場者は、延べ400名ほどに昇った。展示を訪れたり食堂で特別メニューを味わったりした人数まで考えると、さらに多くの人々が何かの形でウィークの企画に触れたことと考えられる。それでも中央大学の構成員全体から見るとほんの一握りの数だが、これだけの人数がいっときでも、同じ場所で日々過ごしている自分たちの多様性について考え、そこから新たな行動が生まれてくることを願う。

 昨年よりもさらに充実したウィークとなったのは、多くの教職員の協力があったことももちろんだが、上述の通り積極的に時間と知恵を提供してくれた学生たちのおかげでもある。本学は2020年4月にダイバーシティセンターの開設を予定している。年に1回のイベントだけではなく、日常の中に新しく学生たちとの接点となる場が生まれることで、学生たちと教職員の距離がさらに近くなり、学生たちと共に考え歩みを進めるために、学生たちの声を聞きそれに応える回路がさらに開かれることを期待する。

 最後に、このようなウィークの実現を可能にしてくれた以下の学生たちに感謝を捧げたい。石垣桃さん、石塚莉帆さん、風本祥一さん、駒村日向子さん、久松南さん、間瀬琴美さん、どうもありがとうございました。

長島 佐恵子(ながしま・さえこ)/中央大学法学部教授
専門分野 イギリス小説、ジェンダー/セクシュアリティ論
中央大学法学部教授。英文学、フェミニズム、ジェンダー/セクシュアリティ論、クィア批評。学内外の学生や研究者、アクティビストと関わりながら、中央大学のダイバーシティ推進に携わり、性の多様性に開かれたキャンパス作りを目指す。共著『愛の技法̶クィア・リーディングとは何か』、『読むことのクィア―続 愛の技法』(共に中央大学出版部)、『LGBTをめぐる法と社会』(日本加除出版)など。