オピニオン

「みやこラボ」東日本大震災を風化させない--中大生の想いの詰まったコラボ企画

小室 夕里/中央大学法学部教授
専門分野 応用言語学・英語辞書学

1. はじめに

 本学のホームカミングデーが今週末(9月29日)に後楽園キャンパスにて開催される。毎年ボランティアセンター公認学生団体も参加し、写真展による活動報告や支援地域の物産展を行っている。岩手県宮古市にて活動している「はまぎくのつぼみ」は恒例の物産展で、想いの詰まった「みやこラボ」商品を披露する。老舗の田中菓子舗さんの「焼きドーナツ」を本学のマスコットキャラクターであるチュー王子をあしらったパッケージで販売する。この企画を中心となって動かしてきた3名の学生に彼らの活動について、そしてみやこラボにかける想いを聞いた。

ホームカミングデーで販売する商品にコラボデザインシールを貼りつけ作業中

2. 「はまぎくのつぼみ」と物産展

 はまぎくのつぼみはどうして東京における物産展を活動の中心に据えているのでしょう。

日高あきら:2016年冬、津軽石公民館で地域の方とお正月飾り作り

津久井泉実:2019年春、鍬ヶ崎学童の家にて活動中

日高あきら(文学部4年):
私たちが宮古市で活動を続ける中、「自分たちのことや被害が忘れられてしまうのではないか。」という不安の声を幾度となく耳にしました。遠く離れた東北の今を東京の人に知ってもらうにはどうしたらよいのか。その一つの答えとして、私たちはまぎくのつぼみは東京での物産展を始めました。私たちが宮古と東京をつなぐ架け橋になろう、と。
津久井泉実(法学部3年):
私たちは宮古市の様々な企業を訪問し、震災直後の様子や再建の過程について伺ってきました。震災で会社が流されたり、機械が壊れてしまったり、大きな被害を受けて会社を畳むことも考えたという企業も多くありました。けれども、毎日の生活で精一杯になってしまう状況であっても、常に他人を思いやる気持ちを忘れない、同じように困っている地域の人たちのためにできることを考え、地道な努力によって営業を再開させた企業さんに共通するこの思いを届けたいと思っています。

3. 「みやこラボ」の誕生

 なぜ今回新たにコラボ企画を行いたかったのでしょうか。

山周平(一番手前):2016年夏、岩手県宮古市田老で防災ツアーに参加

山周平(商学部4年):
物産展の目的は、商品を通して宮古市の復興状況や人々の想い、さらには東日本大震災から得た教訓を伝えることにありました。けれども、回数を重ねるに従って活動が形骸化し、商品の売り上げを還元することを第一義に考える「ただの」販売所、になってしまっていると強く感じるようになりました。団体の活動を見直す契機が欲しいと思いました。
日高
東日本大震災の被害やその後の事、私たちが現地に行って肌で感じたことを伝えるためのより強力なきっかけになると思いました。

4. 田中菓子舗の焼きドーナツ x チュー王子

 コラボパッケージに賛同くださった田中菓子舗さんは「自分の店が、高台に引っ越した方々と家が残り震災前と同じ場所に住んでいる方々とのコミュニケーションの場になってほしい。地元の方々のため、もう1度お菓子を作ろうと決意した。」と仰っていますね。

津久井
私たちは田中菓子舗さんにも何度も訪問させていただいています。常にお客さんのことを考えて仕事をされていて。他人を思って作られた商品は、どこか懐かしくあたたかさを感じます。

 田中菓子舗さんの「ドーナツ」でお願いしたいと考えたのはどうしてでしょうか。

日高
コラボする商品のターゲットを「学生」に設定したからです。物産展で、誰に宮古の魅力を伝えたいのかを考えた時に、自分たちと同年代の学生が一番アプローチしやすく、より宮古の魅力を一緒に発信してくれると思いました。学生に手に取ってもらいやすい手軽さと価格帯から商品の候補を絞り、最終的にドーナツを扱わせて頂くことになりました。いくらだったら学生が手に取ってくれるかを周りの学生や教職員に調査しながら一つ200円に決定しました。添加物が一切使用されていないのにこの値段です。

 チュー王子と宮古の市花であるはまぎくをデザインしたシール、かわいいですよね。デザインはどのように決定したのですか。

一番身近な中大生に興味関心を持ってもらいたかったので、学生に認知されていて人気のマスコットキャラクター、チュー王子を使用しました。最初、はまぎくとして伝えたいメッセージを盛り込んだところ情報量が多くなり過ぎて、「コンセプトが見えない」という指摘をもらいました。100人以上にアンケートを実施し、伝手を辿ってデザイナーの方にもアドバイスをいただき、伝えたい情報の優先順位を再度検討して、デザインを修正していきました。いただいたフィードバックと自分たちが譲れないことにどのように折り合いをつけてデザインに反映させるのかで苦労しましたが、一番伝えたいことを再認識でき、納得するものが完成しました。

左上から時計回りにわかめ、ココア、いちご、プレーン味

5. おわりに

 最後に、あらためてホームカミングデーにおける物産展にかける想いと、コラボ商品「焼きドーナツ」について教えてください。

日高
私達が伝えたいことは、東日本大震災についてだけではありません。宮古の美味しいものや綺麗なスポットなどの魅力的な部分や、現地で奮闘している企業さんの話など明るい話題もたくさんの方々に知ってもらいたいです。そして宮古に少しでも興味を持ってもらい、旅行しにいったり、ネットで商品を注文したりと、みやこラボ商品をきっかけにして宮古に繋がる方々が増えてくれることを願っています。
津久井
13時から16時30分までは中央大学後楽園キャンパス3号館1階にて販売をしています。プレーン、いちご、ココア、わかめ味の4個セット販売もあります。特にわかめ味は田老の特産品・真崎わかめを使用し、甘みの中にほんのりとした塩気が感じられ、甘いものが苦手な人にもオススメです。この機会にぜひお試しください。商品の売り上げの一部は震災遺構であるたろう観光ホテルの保全に役立てられます。

はまぎくのつぼみ、「みやこラボ」メンバー

このような学生の活動は、 GAKUVOそして学員のみなさまからの継続的なご支援により可能となっております。末尾になりますが、お力添えに心より感謝申し上げます。

小室 夕里(こむろ・ゆり)/中央大学法学部教授
専門分野 応用言語学・英語辞書学
1993年日本女子大学文学部卒業。2009年英国エクセター大学から博士(辞書学)の学位を取得。2005年より中央大学法学部専任講師、2017年より現職。欧州辞書学会、アジア辞書学会などに所属。『ライトハウス英和辞典』『コンパスローズ英和辞典』などの執筆に関わる。