オピニオン

「LGBTをめぐる社会の諸相」

2019年度連続講座開催に向けて

長島 佐恵子/中央大学法学部教授
専門分野 イギリス小説、ジェンダー/セクシュアリティ論

はじめに

 中央⼤学では、2019年度もLGBTをテーマにした連続講座を開講することとなった。「LGBTをめぐる社会の諸相」と題した今年の講座は全5回、昨年と同様に会場は後楽園キャンパスで、予約は必要なく、誰でも無料で参加できる。(講座詳細はこちら)5⽉25⽇(土)の第1回講座「LGBTと統計」開講を前に、コーディネーターの視点から、講座の概要と各回のポイントをお伝えしたい。

連続講座について

 この連続講座は、2018年度に開講して好評だった「LGBTをめぐる法と社会ー過去、現在、未来をつなぐ」の続編である。(昨年度講座の詳細はこちら)本年も、谷口洋幸氏と筆者の共同コーディネートで実施する。昨年は企業法務の実務家を中心とした「LGBTとアライのための法律家ネットワーク」と共催し、テーマを本学の強みである法律・行政に絞ったが、今年はそこからさらに社会の様々な領域での性の多様性について学び考えるため、新しく幅広いテーマを取り揃えた。

 ただし、昨年度に続き今年度の講座でも、まず基本コンセプトに置いているのは、学術と社会のつながりだ。多様なジェンダー・セクシュアリティのあり方についてそれぞれの領域で地道に蓄えられてきた研究の知見と、社会の様々な現場での取り組みが、どのようにつながってきたか、またつながりうるのか。登壇者と司会者のコミュニケーションの中で、そして参加者からの質問に応答することで、会場の皆が共に考えを発展させられる場となるはずだ。

 また、中央大学ではこの4月からダイバーシティ推進委員会が正式に発足し、2019年度の重点政策にもダイバーシティ関連の取り組みの可視化を掲げ、大学全体でのダイバーシティ推進の体制づくりに本腰を入れたところである。全5回の講座が実施される5月から12月までの間に、大学の取り組みがどのように進展するか、少しずつ報告していけることと思う。(本学のダイバーシティ推進の取り組みについてはこちら

各講座のポイント

 全5回のテーマは統計、歴史、防災、アート、そしてこども・若者となっている。どの回も、こうした講座であまり取り上げられないけれども私たちの日常に深く関係するテーマだ。

 第1回の「LGBTと統計」(5月25日、登壇:釜野さおり、日高庸晴)は、ジェンダーやセクシュアリティに関する統計をとる手法の解説や、調査の際の困難、データによって異なる意義について、実際に日本での統計調査に関わってきた登壇者から直接話を聞く機会だ。第2回(7月13日、登壇:赤枝香奈子、石田仁)の「LGBTと歴史」では、歴史社会学の視点から、過去を振り返ることで何が見えてくるのか、ジェンダーやセクシュアリティについて考える上で歴史学にどういう意義があるのかを具体的に確認する。

 夏を挟んで、第3回の「LGBTと防災」(9月28日、登壇:森あい、山下梓)は、防災月間である9月に合わせた企画だ。災害は誰をも突然襲うものだが、それがどういう経験になるかは人の立場や属性によって異なってくる。LGBTと災害を合わせて考える稀な機会として、防災や被災地支援に関心のある方にも参加していただきたい。第4回の「LGBTとアート」(11月23日、登壇:黒岩裕市、鈴木みのり、森栄喜)では、実際に表現者としてアートに携わる登壇者の作品も紹介しながら、芸術と批評、そして社会のつながりを探求していく。

 最終回の「LGBTとこども・若者」(12月14日、登壇:杉田真衣、藤めぐみ)では、社会の未来を担うこどもや若者とジェンダーやセクシュアリティの関わりと、そこから今の社会が抱える課題とは、私たちに向けられている問いかけとはどのようなものなのか、実際にこども・若者と接してきた登壇者を迎えて共に考える。

 どの講座も、LGBTを切り口に社会的に広がりのあるテーマとなっており、全回通しての参加はもちろん、興味のある回だけの参加でも、何か新しい学びが生まれる機会となるはずだ。

おわりに

 この写真は、2019年4月28日に原宿・渋谷で実施された、性の多様性を社会に伝えるイベント東京レインボー・プライドのパレードに参加した中央大学の学生・卒業生たちだ。パレード開催にあたり、最近設立された中央大学の若手卒業生の同窓会「白門一新会」を中心に、他大学も含め広く多くの大学関係者の参加を募って大学関係者フロートを作ったのだ。若い在学生や卒業生たちは、自主的に勉強会を開いたりこうした社会的なイベントに参加したり、ジェンダーやセクシュアリティに関してより公平・公正な社会を実現するために、積極的に、しかも楽しみながらアクティブに動き始めている。

 アメリカで連邦最高裁判事を務めるルース・ベイダー・ギンズバーグが若き日に手がけた性差別訴訟を描く映画『ビリーブ 未来への大逆転』(原題:On the Basis of Sex)の中で、ギンズバーグは、懐疑的な裁判官に向かって、自分たちは社会を変えようとしているのではない、社会はすでに変わっているのだから、と力強く述べる。この連続講座でも、すでに実際に社会の中で起きている変化について学び、そこからより良い未来を思い描くために、多くの方に参加いただけることを願っている。

長島 佐恵子(ながしま・さえこ)/中央大学法学部教授
専門分野 イギリス小説、ジェンダー/セクシュアリティ論
中央大学法学部教授。英文学、フェミニズム、ジェンダー/セクシュアリティ論、クィア批評。学内外の学生や研究者、アクティビストと関わりながら、中央大学のダイバーシティ推進に携わり、性の多様性に開かれたキャンパス作りを目指す。共著『愛の技法̶クィア・リーディングとは何か』、『読むことのクィア―続 愛の技法』(共に中央大学出版部)など。