桒原 彰太【略歴】
桒原 彰太/中央大学理工学部助教
専門分野 物理化学、材料科学
以前、あるテレビ番組を見ていると、外国人の方に「日本語は話せますか?」という質問をしていました。質問された方たちはどのように答えたと思いますか?多くの人が「話せるよ」と答えていました。実際話してもらうと、「アリガトウゴザイマス」や「コンニチハ」程度しか話せないのですが、それでも皆さん自信満々に日本語だって話せると答えている姿に驚いた記憶があります。逆に日本の方の場合はどうでしょうか?「英語を話せますか?」と質問したら、おそらく多くの方がこうと答えるのではないでしょうか。
”No”
グローバル化が叫ばれて久しく、その波は大学へも届いています。中央大学でもグローバル人材育成への取り組みが進められています(詳細は、中央大学HPからGO GLOBAL!に紹介されています。)。また、研究成果を発表する学会の場でも、今後英語での発表が義務となる流れになっているようです。グローバル化 = 英語ではないのですが、異なる国の人と交流を図るためには共通言語が必要であり、残念ながらそれは日本語ではなく英語です。そして、自分の考えを聴衆に届けるためには、相手を見て自らの言葉で語りかけなくてはなりません。英語原稿を見ながら話をしても、相手は何も聞いてくれませんし、何も伝わりません(国会答弁などでこの光景を良く見ますが。)。そこで、自分の頭から英語を絞り出して話す必要性に迫られます。
私の所属している分光化学システム研究室では、社会で活躍するために必須のスキルとして英語を重要視しています。会社や人材のグローバル化が進む現代では海外の方たちと交流する機会が多く、英語が必要となる機会が増えていると考えているためです。そこで分光化学システム研究室では、昼の30分の時間を使ってEnglish caféを開いています。まずはこのEnglish café の取り組みについて紹介したいと思います。
今年度から週に3回、English caféを開いており、科学に関するビデオクリップを紹介し、あらかじめ用意された質問を考える、という形式をとっています。主に修士の学生が5分程度のクリップを選び、理解するために必要な英単語の紹介と質問の作成と紹介をしてくれています。紹介されるビデオクリップは、TED EDから選ばれることが多いですが、分かりやすいアニメーションが一緒に流れます。(機会があれば一度覗いてみてください。NHKでスーパープレゼンテーションとして流されているTEDの教育版ですが、TEDに比べてとっつきやすいのではないかと思います。また、英語があまり聞き取れなくても楽しめるクリップが見つかると思います。)準備をする学生にとっては大変なようですが、紹介してもらう側にとっては内容も面白く、積極的に取り組めていると感じています。
もう一つの取り組みとして、ゼミにおける研究報告を英語で行っています。隔週になりますが、後期からは学部生も含めて英語で研究報告をしてもらい、ディスカッションも英語です。そんなことをしたら、議論が深まらないし、内容の理解も覚束ないのではないかと危惧されると思います。全くその通りで議論の内容が正しく伝わっていない場面も多いです。また学生の方も、自分が伝えたい、議論したい内容をうまく伝えることができず、もどかしい思いをしていることが多いと感じます。研究を進めるためには、日本語でのフォローを後で入れる必要もありますし、英語での議論の後に日本語で引き続き議論することもあります。手間もかかり無駄なことも多いですが、そこまで追い込まれた環境を作らないと日本の中では英語を使わないというのも、また事実ではないかと思います。独力で英語をなんとか捻り出して話を続ける、聞かれた内容に対する答えを持っているのは自分のみ、そういう真剣勝負の機会は、理系の学生の場合、研究に対するディスカッションであると考えています。こういう場を体験し続けることで、英語を使う抵抗感を取り除いて欲しいと思っています。
特に、理系の学生は、これまで英語などの文系科目というものに苦手意識を持っている人が多いです。ですので、英語を使い始めた時点では緊張もするし、嫌だなと思うことが多いと思います。しかし、自分が言いたいことを英語で言えず四苦八苦した学生も、一年(修士の場合は三年)経ち卒業する頃には英語でしっかり意思疎通が取れるまでに成長してくれています。
英語で会話というと、100%単語を聞き取り、正しい発音で、正しい文法で流暢に話さなくてはと思いがちです。しかし、日本語で会話をしているときに、すべての言葉を聞き取っているかというと、ある程度聞き取ったら内容を類推して全体の会話を想像することが多いのではと思います。何と言ったか頻繁に聞き返しますし、会話の内容に途中からすれ違いが生まれたりします。ですので、英会話もその程度の気楽な心持ちで良いのではないでしょうか。「英語を話せますか?」と質問されたら、”Yes”で良いはずです。すでにその質問の英語が分かっているのですから。そして、多くの英単語をこれまでに憶えてきたのだから、会話のための下ごしらえは既に終わっています。自分の気持ちの中の抵抗感から一歩踏み出してくれれば、会話が始まるはずです。
まずは相手の顔を見て自分の言葉で話し、会話自体を楽しめばそこから交流が生まれます。それがグローバル化の一歩ではないでしょうか。分光化学システム研究室を卒業した学生たちが、「英語を話せます!」と堂々と言ってくれることを願って、今後も取り組んでいきたいと思います。