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オピニオン一覧

中村 博

中村 博【略歴

これからはASEANをターゲットにビジネス展開

中村 博/中央大学ビジネススクール・研究科長
専門分野 流通戦略論、マーケティング戦略論

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1.少子高齢化・人口減少の日本

 日本は現在もそしてこれからも少子高齢化および人口減少が続き、国内市場は縮小の一途をたどる。実は、少子高齢化と人口減少が同時に進んでいる国は先進国の中では日本だけであり、その点では参考となる国がなく先行きは不透明である。

 少子高齢化は恒常的な労働力不足を招いており、学生にとってはうれしいかもしれないが企業経営にとっては深刻な問題である。労働力不足を補うためには、移民を受け入れる、あるいは、ロボットをフル活用することなどの方法があると思うが、いずれの方法も時間がかかる話である。一方、人口減少によって国内の需要が縮小していくのは自明であり、多くの業界や企業が将来の業績についてネガティブである。すでに、東北地方や四国地方などの地方での人口減少は深刻であり、経済は停滞している。

 このような経済環境の中で企業はどうすべきか?もっともわかりやすいのは海外進出である。とくに東アジア(中国、韓国、台湾、ASEAN諸国、インド含む)の高い経済成長率と中産階級の増加による需要増加およびAEC(ASEAN Economic Community)によるASEAN諸国の経済圏の拡大は日本企業にとって大きなビジネスチャンスである。また、インバウンド消費の増加にともない日本国内での質の高い購買体験をもつ観光客が自国に帰り日本商品の購入に結びつく可能性は高い。私は東アジアの中でも、特にASEAN諸国、特に、タイ、フィリピン、ベトナムなどの国でビジネスチャンスの可能性が大であると考えている。

2.ASEAN諸国の成長市場に注目

 ASEANに注目する理由はいくつかあるが、まず、経済成長にともなう中間層の増加と人口ボーナスが終了し人口オーナスの時期に突入する時期が遅いことに注目したい。人口ボーナス期とは人口構成比の子供が減り、生産年齢の人口が多くなった状態であり、高齢者が少なく労働力が豊富なために社会保障費が少なくてすみ、経済発展をしやすいとされる。日本の人口ボーナスは1960年ごろから始まり(高度経済成長期)、1990年ごろに終わった。バブルが崩壊した時期である。一方、人口オーナスとは人口構成の変化が経済にとってマイナスに作用する状態のことである。オーナス(onus)とは、「重荷、負担」という意味で働く人よりも支えられる人が多くなる状況である。日本では、1990年頃から人口オーナス期に入ったとされ、労働力人口が減少し、働く現役世代が引退世代を支える社会保障制度のもとでは現役の負担が重くなり、経済成長は鈍化してくる。

表-1東アジア各国(インド除く)の経済成長と訪日外国人客数

 表-1にあるように、東アジアの中でもASEAN諸国の実質経済成長率は5%前後(2012年~2014年)と高い成長率であるのに対して韓国や台湾は2%前後、日本はマイナス成長である。多くのASEAN諸国は働く人より支えられる人の比率が増加に転じる人口オーナスの時期はまだ先のことである。例えば、フィリピンの実質経済成長率は6%で人口オーナス時期は2050年である(表-1参照)。つまり、国の経済成長がこのまま持続する環境にあり今後、有望な市場となりえる。あるいはマレーシアは成長率が4.7%であり人口オーナス時期は2045年である。同様にラオスは8%、人口オーナス時期は2045年、ベトナムは6%の2035年、インドネシアは5%の2025年、ミャンマーは6.4%の2020年となっている。中国は経済成長率は7.8%と高いがすでに人口オーナス期に入っており、今後現在の経済成長率を維持できるかどうか疑問が残る。同様に台湾や韓国もすでに人口オーナス期にはいっており、以前のような高い経済成長率を達成することは難しいと思われる。

3.インバウンド需要とアウトバウンド需要

 インバウンド需要であるが、2014年度のアジアからの訪日外国人1,273万人である。また、2015年度はさらに増加し2,000万人に届きそうな勢いで増加している。その結果、訪日外国人による爆買いによって小売業、とくに下降してきた百貨店の売上は若干ではあるが上昇傾向にある。筆者が注目するのはこれらインバウンドで購入した訪日外国人客が祖国に帰り、日本商品(Cool Japan商品)を祖国で買う「外国における購買経験の追体験効果」が発生するのではないかということである。例えば、表-1にあるようにシンガポールの人口に対する訪日外国人比率は15.27%と他国と比べ高い。シンガポールに行くとわかるのだが、外食レストランを含め日本商品の人気は非常に高く、しかも、「原産国効果」も手伝って高い価格で購入されている。例えば、ラーメン店では地元のラーメンが5シンガポールドル(1ドル=約90円)前後で販売されているのに対して、日本のラーメン店の価格は10ドルを超える。日本からの食材の流通コストがかかることもあって価格設定が高くなっていると思われるが、それでも売れている。

 今後、中産階級の増加にともない中国、台湾、韓国のみならずASEANからの訪日外国人が増加することは間違いない。これらインバウンド需要にCool Japan商品やサービスのスマートでホスピタリティのある購買体験を提供することによってCool Japanのファンが増加し、アウトバウンド需要を活性化できると考える。

4.まとめ

 私の専門は流通論で、なかでも小売業および小売店に来店するショッパーを研究対象としているが、小売業の売上や利益は年々厳しくなっている。一部の企業では、東アジア諸国からの観光客の増加にともなうインバウンド需要の拡大、とくに中国観光客による爆買いで景気が一部上向いている感じがするが、爆買いが未来永劫続くわけもなく一時的な現象といってよい。今後、メーカーや小売業にとってASEAN諸国をターゲットにしたCool Japan商品やサービスのインバウンド需要やアウトバウンド需要の取り込みが生き残り戦略の鍵の一つとなってくるのではないだろうか。

中村 博(なかむら・ひろし)/中央大学ビジネススクール・研究科長
専門分野 流通戦略論、マーケティング戦略論
早稲田大学商学部卒業、経営学博士(学習院大学)
専修大学教授を経て中央大学ビジネススクール教授、現在、同ビジネススクール研究科長
専門は、流通戦略論、マーケティング戦略論
主著に『新製品のマーケティング』(中央経済社)、『マーケット・セグメンテーション-購買履歴データを用いた市場機会の発見-』(白桃書房 編著)、「ショッパーマーケティング」(日経 共著)、小売業のトップとのインタビューを「流通情報」(リーダーの戦略)に連載などがある。