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藤田 岳彦

藤田 岳彦 【略歴

国際数学オリンピック

藤田 岳彦/中央大学理工学部経営システム工学科教授
(公財)日本数学オリンピック財団専務理事
第56回国際数学オリンピックタイ大会日本選手団団長

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1 国際数学オリンピックの歴史

 国際数学オリンピックとは20才未満の大学教育を受けていない生徒たちの大会である。1959年ソビエト連邦と東欧の9カ国でルーマニアにおいて始まった。それ以降年々参加国は増えていき1981年には27カ国、1990年には54カ国が参加した。2015年タイ・チェンマイで行われた第56回大会の参加国・地域は104カ国である。いろいろな国の初参加年は、イギリス、フランスは1967年、アメリカは1974年、ドイツ(西)は1977年、中国は1985年、韓国は1988年である。

 日本の初参加は1990年で先進国の中では一番遅い参加であった。その理由は、当時の文部省の方針はゆとり教育(平等教育)を進めておりとびぬけた才能を持つ生徒たちの教育には不熱心だったのではないか? と聞いている。現在では様変わりし、日本が参加している科学オリンピックは(数学、情報、物理、化学、生物、地学、地理)と7つあり、それぞれにJST(科学技術振興機構)を通じて補助金をいただいている。なかでも日本の中での科学オリンピック参加は数学が初で日本における科学オリンピックの草分け的存在といえる。

 筆者はここ10年程度日本数学オリンピックに評議員、理事、専務理事としてかかわっており、2010年カザフスタン大会から派遣役員、2013年コロンビア大会から団長を務めており、主にこの団長の立場で国際数学オリンピックを振り返ってみる。

2 日本数学オリンピック

 日本数学オリンピックは成人の日に、JMO(日本数学オリンピック)、JJMO(ジュニア数学オリンピック、中学生以下の数学オリンピック)の予選がどちらも、12問三時間で行われる。今年の参加人数は、JMO(約3500名)、JJMO(約2200名) であり、予選通過者は、JMOが175名、JJMOは92名であった。計267名が建国記念日に行われるそれぞれの本選に進み、それぞれ金メダル(JMOは川井杯も授与)銀メダル銅メダル成績優秀者としてJMOが約20名、JJMOが約10名表彰され、さらに三月末に行われる最終選抜試験(4日間)での上位6名が代表選手となる。その6名が、毎年7月にある国際数学オリンピック(IMO)に代表選手として参加する。またこIMOにおいて全参加者のうち1/12 が金メダル、2/12 が銀メダル、3/12 が銅メダルを授与される。2日間計6問(満点42点)で行われ、6名の合計点数で国別順位も発表される。日本の過去三年間の結果は、2013年(第54回コロンビア大会)、金0、銀6、銅0、11位(97カ国(560名参加中)、2014年第55回南アフリカ大会、金4、銀1、銅1、5位(101カ国(528名参加)中)、2015年第56回タイ大会、金0、銀3、銅3、22位(104カ国(577名(男子525名、女子52名)参加)中)であった。

3 大会の実際(団長の立場から)

 よく団長は生徒が試験をやっている間に観光にいけていいですね。とか言われるのだがそんなことは全くない。かなり忙しい仕事である。生徒より3、4日前に出発し問題選定委員会があらかじめ選んだ数十問の問題集(ショートリストという)から、一日目3問、二日目3問の計6問を選ぶのである。

 その際A(代数)、G(幾何)、C(組み合わせ)、N(数論) の4分野からバランス良く、また1,2,3(2日目は4,5,6)の順番で難易度がならぶように設定する。その際似たような問題がこれまでになかったか、各国のコンテストで出題されていなかったか? などを検討する必要もある。そのプロセスはすべて民主的に行われ正式参加国はそれぞれ1票づつもっており、すべての決定をジュリーミーティングにおける相談と投票によって決めるのである。したがって6問題とその採点基準を決めるにも問題を自分で解いて感触を得ることから始めて大体4日くらいかかる。問題が決まるとまず英語圏の人たちが正確な英語になおし、それを各国語になおす翻訳作業が必要になる。その際自国に有利にならないように問題以外のことを付け加えていないかなどを各国翻訳問題を張り出すことにより相互に確認する。

 英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、スペイン語、韓国語、中国語、クメール語、アラビア語、。。。。と100カ国以上の問題がならぶ姿は実に壮観である。

 試験は、1日目も2日目も9時-13時半の4時間半であるが、両日9時半から選手の質問を受け付ける。その際も自国に有利にならないよう全員が見ている場でディスプレイに表示された質問に答える。試験が終わるとすぐ採点に入る。数学オリンピックメダリストの大学生(オブザーバーA)と協力し、採点を行うがこれだけでは終わらずここから、コーディネーション(採点交渉)に入るのである。主催者側も日本語がわからないとしても一応コピーをもとにして採点を行っており、それがこちらの採点と一致するかを6問6人すべての問題すべての選手に対して行う。これには最低2,3日かかりお互い納得するとサインして選手の得点が決まる。その後最後のジュリーミーティングで、金・銀・銅メダルのカットラインを決め次の日閉会式でそれぞれメダルが授与される。

4 日本の成績

 強豪国は、中国、アメリカ、ロシア、韓国で特に中国は近年20年の中で16回1位を取っている。

 近年の日本の成績は2009年ドイツ大会で2位、2010年カザフスタン大会で7位、去年南アフリカ大会で5位であったが、その他の年は、2003年日本大会8位をはじめ10位前後であるといえる。

 

 実は、大会参加のレギュレーションを見ると日本には少し不利の点が見受けられるのである。それは意外なようだが「四月入学」である。大会はかならず7月にあるので、諸外国の場合普通大学入学は9月で、7月では高校は卒業しているがまだ大学教育を受けていない20歳未満なのでコンテストに参加できるのである。しかし日本の場合は18歳の4月にすでに大学に入学しているのでその7月には当然参加できない。そういう意味で諸外国と比べて1歳のハンデを背負っていると言わざるを得ない。

 もう一つは実施時期が7月で日本では高校生活真っ最中なのであるが、例えば、強豪国の一つアメリカでは5月末卒業(終業)となるので6月いっぱいは数学オリンピック対策トレーニングに充てられる。実際コロラドで4週間トレーニングキャンプを行っていると聞く。韓国では4月に代表選手が決まった後、毎週末土日ソウル大学に集まってトレーニングをしている。これは過去代表選手のすべてがソウル(しかも大部分が特定の一つの中学・高校)であることでできるそうである。日本では三月末に代表選手を決めた後1回だけゴールデンウィークに代々木のオリンピックセンターで2泊3日の合宿を行い、あとは通信添削で対処しているのだが強豪国に比べてトレーニングが少し足りていないのかもしれない。とはいえ、日本でも好成績を取った生徒(例えばドイツ大会における満点獲得者)もたくさんいるが、彼らの多はく自主的にトレーニングを行っており、たとえばAOPS(Art Of Problem Solvingでは世界各国のいろいろな数学コンテストの問題が提出され皆で議論しあっている。) というサイトを利用している。

5 女子数学オリンピック

 全世界的にも女子の参加者は、男子の1割程度(例外的にウクライナのように毎年6人の代表選手の中2,3人女子がいるという国もあるが)で日本の参加25年の歴史においても代表選手になった女子はわずか2名である。近年ヨーロッパを中心として女子への数学オリンピック参加を鼓舞するためEGMO(European Girl's Mathemtical Olympiad) が2012年から始まり、日本もオープン参加が認められたため2014年から参加している。筆者は2015年ベラルーシで開かれたEGMOについても団長を務めた。女子に対する数理・科学教育の振興は日本においても重要な問題でひとつのきっかけになればよいと思っているし、実際女子の参加人数は少しづつ伸びている。

6 今後

 数学オリンピックは、2016年香港、2017年ブラジル、2018年ルーマニア、2019年イギリス、とここまで開催国が決まっている。また、2020年東京オリンピックが行われるが、その前後に2018年の情報オリンピックを皮切りにいろいろな科学オリンピックが日本で開催される。数学オリンピックは過去2003年に日本で行われたが大体20年周期で開催することになっており、まだ決定していないが、2023-2025年に日本で数学オリンピックを行う予定である。

 その際には皆さまのご協力を賜りたくよろしくお願い申し上げます。

藤田 岳彦(ふじた・たかひこ) /理工学部経営システム工学科教授
(公財)日本数学オリンピック財団専務理事
第56回国際数学オリンピックタイ大会日本選手団団長
兵庫県出身。1955年生まれ。1978年京都大学理学部卒業。
1980年京都大学大学院理学研究科修士課程数学専攻修了。
1981年京都大学大学院理学研究科博士課程数学専攻中退。理学博士(京都大学 )
1981年 京都大学理学部数学教室助手
その後 一橋大学助教授→教授、一橋大学大学院商学研究科教授を経て 2011年より現職
現在の研究課題は、確率論とその応用として金融工学、保険数理、数学教育また、現在の経営システム工学科を中心としてアクチュアリー(保険数理に関する専門職業人で数学に関する資格試験に合格する必要がある。)を育てている。
さらに、高校数学教科書啓林館の編集長として数学教育にも力を入れている。
(公財)日本数学オリンピック財団専務理事、主要著書にファイナンスの確率解析入門(講談社、2003)、弱点克服大学生の確率統計(東京図書、2010)、難問克服 解いてわかるガロア理論(東京図書、2012)などがある。