関 有一 【略歴】
関 有一/中央大学総合政策学部教授
専門分野 行政管理、行政改革
安倍内閣は地方創生を大きな政策課題として掲げている。昨年9月の所信表明演説では、地方の創生に向けて力強いスタートを切りたいと述べ、地方創生特命担当大臣には党の幹事長を務めていた石破茂氏を充てた。昨年12月には、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定された。
日本の人口は2005年から減少し始めており、2048年には1億人を割り込むと推計されている。このような状況の中で、地方の衰退を食い止めたいという政府の認識は当然であろう。
また、民間有識者からなる地方創生会議が、年齢20~39歳の女性に着目して、今後人口が大幅に減少すると見込まれる自治体が896にも上ることを示し、「地方消滅」として国民の耳目を集めたことも、危機感を醸成し、地方創生の必要性を再認識させている。
地方の活性化については、これまでいろいろな施策が講じられてきた。竹下内閣の「ふるさと創生事業」は、各自治体に1億円を配布し自由に使途を考えてもらうというもので、奇抜な使途が話題になったりした。地方への企業誘致策など各種の施策も講じられてきたし、比較的所得の低い層を対象に2万円の地域振興券が配られたこともある。
しかし、これまでの取り組みが成果を上げてきたかについては、否定的な見方が一般的なようである。ほかならぬ現内閣自体が今回の総合戦略のなかで、大局的には地域の人口流出が止まらず少子化に歯止めがかかっていないとして、府省庁・制度ごとの縦割り構造、地域特性を考慮しない全国一律の手法、効果検証を伴わないバラマキ、地域に浸透しない表面的な政策、短期的な成果を求める施策、の5つをその要因として挙げている。
現在進められている国の施策がこれらの問題を克服したものとなっているかどうかははっきりしないが、地域活性化の成功例として取り上げている徳島県上勝町や島根県海士町などの地域は、国からの補助金やアドバイスがあったから活性化したわけではないだろう。自治体関係者と住民の間で議論の積み重ねがあり、民間にアイディアを持つ人物もいて、試行錯誤の末に町おこしの花が開いたということだろう。それは他の地域が簡単にまねできるようなものではないだろうし、国が指示してできるようなものでもない。
地方の衰退を防ぐため国がいろいろな施策を考えることは当然だと思うが、国としてできること・やるべきことと、地方に任せてやってもらうしかないことは何かを見極めることが大切だと思う。
かなり以前のことになるが、財政再建団体になった福岡県赤池町の様子がテレビで紹介されたのを見たことがある。炭鉱の町だったが閉山後の住宅対策などの経費がかさみ、財政再建団体となってしまったという。この事態に地域住民が驚き、町の再建のために自分たちも協力したいと、小中学校の修理などを手伝っている様子が紹介されていた。町の運営は町長や職員の仕事だ、と任せてしまうのではなく、自分たちの町は自分たちの力で何とかするという、まさに地方自治の原点を見た思いがした。
このように地域の活性化のためには、自治体首長・職員と地域住民が、自分の地域をどうしたらよくできるか、という視点から意識をまとめていくことが大切で、そのためには自治体の仕組みづくりに住民の意思が反映しやすいようにすることも重要だと思う。
その点に関しては地方自治法の規定の緩和も行われてきた。例えば、人口を勘案した都道府県の部局数の基準は廃止されたし、地方議会の議員定数についての法定基準や上限数も撤廃された。これをさらに一歩進めて、住民参加の観点からの緩和方策も考えられてよいのではないか。地方自治法では、住民の直接請求制度として、条例の制定・改廃の請求、事務の監査請求、議会の解散請求、議員の解職請求、長の解職請求、主要公務員の解職請求などの規定がある。しかし、署名集めの要件の厳しさもあって、十分活用されているとはいいがたい。このような規定をすべての自治体に画一的に義務付けるのではなく、これを一つのひな型として、各自治体がこのひな形を参考にしながら、条例で要件を定めることができるようにしたらどうだろうか。そうなれば、住民にとって自分たちの自治体という意識は強くなるし、住民と自治体首長や職員とのつながりも強くなるだろう。
国としては、現在の交付金支給などの支援策に併せて、地域住民の自治体経営への参加意識を高め、地域の創意工夫を引き出せるようなインセンティブを盛り込んだ仕組み作りに、大いに知恵を絞ってほしいと思う。