浅岡 夢二 【略歴】
浅岡 夢二/中央大学法学部准教授
専門分野 フランス・カナダの文学、思想、哲学、セラピー論
2015年1月21日のリリース・プレスによると、iBooksにおいて配信中の電子書籍『星の王子さま』(著=サン=テグジュペリ、訳=浅岡夢二、絵=葉祥明、出版=ゴマブックス)が、同サイト内の【映画化ブック&コミック】コーナーに掲載された、ということです。アメリカにおいて『星の王子さま』が初めて映画化されたのは、1974年、スタンリー・ドーネンによってであり(実写のミュージカル)、今回の映画(アニメ)のタイトルは『リトルプリンス 星の王子さまと私』だということです。日本公開は今年の12月の予定で、http://bit.ly/15wgaZgに行くと予告編が見らます。
ちなみに、ゴマブックス版の『星の王子さま』は、amazon.co.jpでも電子書籍化されており(Kindle版)、こちらの版は、去年から今年にかけて一年以上にわたり、「フランス文学」または「フランスの小説・文芸」のカテゴリーで、ベストセラー商品ランキングにおいて、ずっと1位を取り続けてきているようです。
一方、フランスでは、Daniel Lavoie監督による映画(実写のミュージカル)が2003年にDVD化されており、2013年にはJérôme FranceとPierre-Alain Chartierによってアニメ化もされています。このアニメは24巻(1248分)に及ぶもので、タイトルこそLe Petit Princeですが、内容は原作とはまったく異なる、壮大な冒険物語になっています。
また、音声だけのCDがLe Petit Princeとして出ています。主演の飛行士を、往年の名優Gérard Philipeが演じており、たいへん素晴らしい出来なので、フランス語を勉強している人たちには、ぜひとも聞いていただきたいと思います(日本でも入手可能)。
また、これは『星の王子さま』の映画化ではありませんが、『追想』、『若草の萌えるころ』、『冒険者たち』などの佳作を撮ったロベール・アンリコ監督によって、Saint-Exupéry : La dernière mission(邦題は『サン=テグジュペリ/星空への帰還』)という映画が作られています。これは、『ヘカテ』、『キリング・タイム』などで重厚な個性を見せたベルナール・ジロドーが、7キロも体重を落として主演に挑んだという、曰くつきの映画です。ただ、日本ではVHS版しか出ておらず、しかも、残念ながら、それも現在では絶版になっています。
ゴマブックス版の『星の王子さま』が出るに当たっては、次のような経緯がありました。2007年のことです。『星の王子さま』を新訳で、しかもサン=テグジュペリの挿絵ではない、オリジナルの挿絵で出したいと願っていた私の話を聞いたある知人が、葉祥明さんに紹介して下さったのです。私は、翻訳原稿を持って、とある場所で「お話し会」を開いていた葉さんに会いに行きました。にこやかに迎えてくださった葉さんに、私は、翻訳した意図と、挿絵に関する考えをお話ししました。
すると、葉さんは、「私も、昔から、『星の王子さま』は大好きです。そのお仕事には興味がありますので、原稿を預からせていただけますか?」とおっしゃいました。もちろん、私は、喜んで原稿をお渡ししました。
その後、話はとんとん拍子に進んで、葉さんに本格的な挿絵を自由に描いていただき、その原画を思う存分に使った豪華版として出すことになったのです。しかも、担当の編集者さんは、当時「カリスマ編集長」と言われていた、飛ぶ鳥も落とす勢いのREさんでした。REさんも、葉さんと同じく、心がものすごくきれいな「永遠の少年」のような方でした。『星の王子さま』を出すのに、これほどぴったりの組み合わせはありません。葉さんが、「この仕事は、私の生涯の集大成になるかもしれない」とおっしゃっている、ということも伝え聞きました。私は、本当にわくわくして『星の王子さま』の豪華本の完成を待っていました。
ところが、葉さんの原画がそろそろ完成する頃になって、REさんが、突然、他の出版社に移籍することになったのです。
後を引き継いでくださった編集者さんは、REさんとはまったく別の方針を持っていました。葉さんがそれまで書いてくださった原画を没にして、新たにデッサンを描いていただき、普及版として出す、と言うのです。私は、豪華版を出すべく、一生懸命に掛け合いましたが、担当の編集者さんはどうしても譲ってくださいません。
そこで、泣く泣く、現行版として出すことになったのです。もちろん、私は、今の版のデッサンも、仕様も大好きで、それを出せたことをとてもうれしく思っています。サン=テグジュペリが日本語で『星の王子さま』を書いたらどうなるだろうか、と考えながら作った訳文もとても気に入っています。
でも、でも、でも……、お蔵入りした豪華版がどうしても忘れられないのです。
すでに述べたように、現在、Kindle版の『星の王子さま』がとてもよく売れています。葉祥明さん、REさん、そしてゴマブックス代表取締役社長の赤井仁様、あの幻の豪華版『星の王子さま』をそろそろ世に出しませんか。