トップ>オピニオン>「もったいない」で経済を再考(再興)する?!:PBLによるリユースの実践的研究
佐々木 創 【略歴】
佐々木 創/中央大学経済学部准教授
専門分野 環境経済学、国際公共政策
リユースという言葉はどのくらい正確に認知されているのだろうか?
リユースは製品そのものを「再使用」することを意味し、リサイクルは製品を分解し素材として「再生利用」することを指す。しかし、日本では中古品販売店が「リサイクルショップ」として定着しており、(正確にはリユースショップだが)誤解している人がまだ多い。
本稿では、リユースに関する政策動向、中央大学の取り組み、経済学的意義についてご紹介したい。
循環型社会の形成を目的にした循環型社会形成推進基本法においては、1)ゴミの発生抑制(リデュース)、2)リユース、3)リサイクル、4)熱回収、5)適正処分の順に優先されるべきと定められている。
ただし、日本の廃棄物処理の歴史を俯瞰すると、現実に直面してきた課題に対応するため、政策は5)適正処分→4)熱回収→3)リサイクルの順に立案されてきた。したがって、リデュースやリユースを促進する個別法は今のところ制定されていない。
こうした中で、2012年4月に閣議決定された第四次環境基本計画において、「リユースに係るビジネスの市場につながるような環境を整備し、ライフスタイルの変革を目指す」ことが初めて言及された。これと並行し、2010年度から環境省により「使用済製品等のリユース促進事業研究会」[1]が開始され、筆者は研究会委員として関わっている。
同研究会では、モデル事業の取組の効果や課題の整理及び課題への対応策の検討等を行うことで、今後の使用済製品等のリユースに関する施策等に活かされる予定である。
中央大学のファカルティ・リンケージ・プログラム(FLP)[2]の環境プログラムで筆者は、日本初のリユースを実践的に研究するゼミを運営している。
具体的には、PBL(Project Based Learning:課題解決型学習)を用いて、卒業生の不用品を新入生の必需品にするマッチング・イベントとして、「リユース市」を八王子市と連携し、昨年度初めて実施した[3]。環境サークルや大学生協が主体となった同様の企画は数多くあるが、行政と大学が連携した事例は日本初の取り組みであり、各種マスコミからも取材を受けるなど注目されている。
PBLを用いているため、リユース市を実施するまでの八王子市への企画提案、環境省、民間企業等のヒアリング、中央大学当局との交渉、実施後の分析・結果報告なども(教員はアドバイスするだけで)全て学生主体で実施しており、1年間のゼミ生の成長には目を見張るものがある。
今年度は、八王子市だけでなく、日野市、多摩市とも連携することで、中央大学に通う一人暮らし学生をほぼカバーできる規模で実施する。さらに、環境省の使用済製品等のリユースに関するモデル事業に採択された[4]。同モデル事業に大学が参画することも、無論、日本初となる。今年度の実施には、卒業生からの不用品回収、ボランティアの募集など在校生からの協力も不可欠であり、詳細は中央大学リユース市のホームページをご覧頂きたい[5]。
リユースは経済学でどのように解釈できるのか?
これまでリユース促進に対して、メーカーや小売業から新規の需要が抑制されると反対の声が上がってきた。しかし、大手の家電や書籍の量販店が中古品も新品も取り扱うことで、中古品から新品への新規需要が生まれるなどの相乗効果により、売上が増加する事例が散見されるようになっている。
リユース促進は、大量生産→大量消費→大量廃棄(リサイクル)を前提としていたフロー経済から、中古品を長期使用するストック経済への転換を意味する。これは今世紀の課題である資源制約の一助になる可能性を秘めている。また、長期間のデフレ経済下で安価な新品を短期使用することが定着し、「もったいない」の希薄化を見直す契機になると考えられる。
通常、中古品市場は第1利用者が「不要だけどまだ使える」と考える使用価値と第2利用者が「買っても使いたい」という商品価値の間にギャップが生じる。したがって、使用価値がある不用品の多くは売却できず、結果としてリユースされずに廃棄されているのが現状である。上述した本学のリユース市は、このギャップを埋める効果を測定することも、環境省モデル事業の中で期待されている。
その他にも、近代経済学が前提とする「個人間の効用比較の不可能性」はリユースにも該当するのか、リユースによりコミュニティが再生され社会関係資本は蓄積されるのか、など経済学を再考する課題をリユース研究は有しているだけでなく、リユース促進により修理やリフォームなど新規需要も創出し経済を再興する可能性もあろう。
しかし、リユース経済学の研究は緒に就いたばかりなのである。