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佐藤 博樹

佐藤 博樹【略歴

ワークライフバランス支援の新課題:仕事と介護の両立支援が重要に

佐藤 博樹/中央大学大学院戦略経営研究科教授
専門分野 人的資源管理

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仕事と介護の両立支援が重要に

 企業として社員が介護の課題に直面しても仕事と介護の両立が可能となるように支援することの重要性が高まっている。理由を説明するとつぎのようになる。

 第1に、従来も介護の課題に直面する社員が見られたが、今後は企業が雇用する社員の中で介護の課題に直面する社員の人数と比率が高まることが確実視されていることによる。団塊の世代が、2025年を過ぎると70歳代後半層となり、要支援・要介護の状態となる者の比率が高まり、その結果として団塊の世代の子どもの世代、つまり団塊ジュニア層が、親の介護の課題の直面することによる。企業の社員の年齢構成をみると、団塊ジュニア層の比重が大きいため、その結果として社員の中で介護の課題の直面する社員の割合が高まることになる。

 第2に、企業として、社員の雇用機会を少なくとも65歳までは確保することが法律上も求められたため、今後は介護の課題を抱える社員を多く社内に抱えることになることがある。もちろん社員にとって介護の課題は、企業との雇用関係の有無とは関係ないものであるが、企業による社員に対する両立支援は、基本的に社員を雇用している期間に限定されることによる。

 第3に、介護の課題に直面する社員が増加するだけでなく、従来よりも介護負荷や介護の課題に直面する期間が長くなる社員が多くなることがある。団塊の世代と比較すると、団塊の世代のジュニア層は、兄弟数が少なく、単身者が多いことや既婚者では夫婦ともに就業している共働き世帯の割合が従来よりも多いことによる。さらに親の世代の寿命の伸長の結果、社員が介護の課題の直面する時点の年齢が高くなることも関係する。高齢期の社員による老親介護である。こうした傾向は、今後ますます強まると考えられる。介護負荷が高く、介護に直面する期間が長くなる可能性が高い事例を取り上げると、夫婦共働きで、かつそれぞれが一人っ子で、夫婦でそれぞれの親4人の介護に直面することになる社員や、未婚で一人子の社員が、一人で親2人の介護の課題に対応する社員などをあげることができる。

 以上のように、今後ますます社員の中で介護の課題に直面する人数や割合が増加するだけでなく、社員一人一人の介護負荷も大きくなることが確実視されているのである。

取組が遅れている両立支援

 仕事と介護の両立支援は、企業の人材活用において緊急の取り組み課題であることを指摘した。しかし、仕事と介護の両立支援に取り組むことの必要性や重要性を認識している企業は少なく、その結果、仕事と介護の両立支援に取り組んでいる企業も現時点では一部に留まっている。

 仕事と介護の両立支援の必要性などを企業が十分に認識していない背景には、社員が直面している介護の課題が潜在化していることにある。40歳代後半あるいは50歳代以上の社員を雇用している企業であれば、介護の課題がある雇用者の比率を当てはまると、親が健在である社員の中の1割程度は、親の介護の課題を抱えていることになろう。しかしそうした企業においても、介護休業や介護休暇を取得する社員が少なく、また人事セクションや職場の上司などに介護の課題があることを伝えていない社員が多いことがある。介護休業や介護休暇の取得状況からは、社員の介護の課題を把握できず、社員が直面している介護の課題が、顕在化せずに潜在化しているのである。言い換えれば、介護の課題に直面した際に、会社や上司に課題を伝えずに、会社や職場の支援なしに一人で仕事と介護の両立を図ろうと努力している社員が多いのである。その結果、両立が難しくなり、仕事への意欲を低下させたり、最悪の場合は離職を余儀なくされたりすることにもなる。たとえば、我々の社員調査によると、介護に関して相談した人(複数回答)を調べると、「勤務先」をあげた者は1割にしか過ぎない。他方、同調査によると、介護の課題を抱えていることを上司や同僚に知られることに抵抗感を感じている者は3割台に留まり、それほど多いわけではない。抵抗感はないものの、そうした課題を会社や職場の上司等に伝えにくい状況があること、あるいは課題を伝えても会社や上司からは支援を期待できると考えていないことなどがあろう。

 企業としては、仕事と介護の両立支援の前提として、まず社員の介護の課題を迅速に把握できるように、社員が介護に直面した際に、そのことを会社や上司に伝えやすい環境と仕事と介護の両立支援の体制整備が不可欠となる。それと合わせて、仕事と子育ての両立支援との違いを踏まえて、仕事と介護の両立の基本的な「心構え」を、社員が介護の課題に直面する前に提供することが求められる。

佐藤 博樹(さとう・ひろき)/中央大学大学院戦略経営研究科教授
専門分野 人的資源管理
1953年東京生まれ。1981年 一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。1981年雇用職業総合研究所(現、労働政策研究・研修機構)研究員、1983年法政大学大原社会問題研究所助教授、1987年法政大学経営学部助教授、1991年法政大学経営学部教授、1996年東京大学社会科学研究所教授、2014年10月より現職。
著書として、『人材活用進化論』(日本経済新聞出版社)、『職場のワーク・ライフ・バランス』(共著、日経文庫)、『パート・契約・派遣・請負の人材活用(第2版)』(編著、日経文庫)、『ワーク・ライフ・バランス支援の課題』(共編著、東京大学出版会)、『介護離礁から社員を守る』(共著、労働調査会)など。
兼職として、内閣府・男女共同参画会議議員、内閣府・ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、経産省・ダイバーシティ企業100選運営委員会委員長、厚生労働省・イクメン・プロジェクト顧問など。