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オピニオン一覧

植野 妙実子

植野 妙実子 【略歴

男女共同参画社会とアファーマティブ・アクション

植野 妙実子/中央大学理工学部教授
専門分野 憲法、フランス公法

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女性差別撤廃条約の意義

 日本国憲法第14条1項は、「法の下の平等」を定め、そこには、性別による差別の禁止も明示されている。また第24条は「家族生活における個人の尊厳と両性の平等」について定めている。第13条には平等原則の前提となる「個人の尊重」も定められている。しかしながら日本で実際、男女平等が問題となったのは、1979年12月に国連で女性差別撤廃条約が採択され、日本のそれへの署名、批准を通してであった。女性差別撤廃条約は、その前文において男女の伝統的な固定的な役割分担の廃止を謳っており、基本的に妊娠・出産以外の差異を男女間に認めない、という考え方をとっている。社会的責任も家族的責任も男女双方が担うことを明らかにしており、妊娠・出産における女性の保護は当然であるが、家事・育児は男女双方が負うべきものとしている。男女の伝統的な固定的な役割分担を前提としては男女平等は成立しないことを認識するものである。また法律上の平等の問題をとりあげるのみならず、差別的な慣行の廃止も考えている点で事実上の男女平等の確立をめざすものでもある。さらに平等確立の方策としてアファーマティブ・アクションを認めている。女性差別撤廃条約は、単なる宣言ではなく、批准国に実際上の差別解消の効果を問い、一定の拘束力ももったことから、日本もにわかに男女平等の実質的な保障へ向けて歩み始めたのであった。

男女共同参画社会基本法の成立

 その後、1995年に北京での第4回世界女性会議において、女性の地位向上とエンパワーメントの促進をはかることが課題として認識された。ここで北京宣言と行動綱領が採択されたが、女性の人権は普遍性をもつ人権であることが明示され、自らのセクシュアリティに関する事柄を管理する権利、女性の経済的自立の重要性、また女性の権利と平和との関係などが認められている。ここから特に女性に対する暴力の根絶、男性と同等の正当な労働の評価の確立が着目された。これを受けて、日本では1999年男女共同参画社会基本法、2001年DV防止法などが成立している。男女共同参画社会基本法により、政府は男女共同参画基本計画を策定して、男女共同参画社会の形成の促進を図ることとなった。

 2010年12月、第三次男女共同参画基本計画が閣議決定された。これは2020年までを見通した長期的な政策の方向性と、2015年度までに実施する具体的な施策を記述するものである。そこには、経済社会情勢の変化等に対応して重点分野を新設し、実効性のあるアクション・プランとするため、それぞれの重点分野に「成果目標」を設定し、2020年に指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする目標に向けた取組を推進し、女性の活躍による経済社会の活性化や「M字カーブ問題」の解消も強調している。15ある重点分野の第一は、「政策・方針決定過程への女性の参画の拡大」であり、政治、司法を含めたあらゆる分野で「2020年30%」に向けた取組、クォータ制など多種多様な手法によるポジティブ・アクションの検討、が掲げられている。

日本の女性をめぐる状況

 ところでOECDの教育に関する調査では、大卒以上の女性の就業率について加盟34カ国中日本は31位で69%、女性の能力が社会で十分生かされていない国であることが示されている。高学歴女性の就業率が高い国は、スウェーデン、ノルウェー、デンマークなど育児支援の充実している北欧が目立つ。また、世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数(経済、教育、保健、政治の各分野のデータから作成)では、136カ国中、日本は105位を示した(2013年)。政治分野における女性の割合や女性管理職の割合の低さがこの順位に反映している。ここでの上位国は、アイスランド、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンとなっている。各国の議会で作る列国議会同盟の調査によると189カ国中、日本は、国会議員(衆議院)の女性比率は8%で127位となっている(2014年)。1位はルワンダ、地域別では北欧が上位を占めていた。

アファーマティブ・アクションの活用

 そこで、2020年に政治の分野で30%の女性比率を達成するためにはどうしたらよいかが問題となる。現在では女性議員を増やすために多くの国で何らかの形のアファーマティブ・アクション、なかでもクォータ制をとっていることが示されている。このような政治分野におけるクォータ制としては主に3つあり、議席割当制、候補者クォータ制、政党による自発的なクォータ制があげられる。議席割当制とは、憲法または法律のいずれかにより議席のうち一定数を女性とする制度で17カ国で導入されている。候補者クォータ制とは、議員の候補者名簿の一定割合を女性が占めるようにすることを憲法または法律のいずれかにより定める制度で、34カ国で導入されている。政党による自発的なクォータ制とは、政党が党の規則等により議員候補者の一定割合を女性とすることを定める制度で52カ国で導入されている。しかし、一定数や一定割合を女性に割り当てることを憲法や法律で定めることは、男女平等を目的とするとはいえその手法自体が平等原則に反しないかが問題となる。そこで、政党による自発的なクォータ制が最も無理なく導入しやすい制度ではないかということになる。実際、女性議員割合が45%のスウェーデン、39.6%のノルウェー、32.8%のドイツ、いずれも政党による自発的なクォータ制によって女性議員の数を増やしている(2010年の数値)。

日本における課題

 しかし、このような政党による自発的なクォータ制を日本でも導入できるかというと、いくつかの課題があるように思われる。第一に、スウェーデン、ノルウェー、ドイツいずれの国も一党から導入し、徐々に導入する政党が増えるという経緯をたどっているが、すべての政党が導入するにいたるまで約20年を要している。あくまで自主性にまかせ機が熟すのをまつには長い年月が必要となる。日本の場合は、何らかの形で全政党が導入するような強制的な措置もしくは誘導的な措置が必要に思われる。第二に、スウェーデン、ノルウェー、ドイツも単に女性議員の割合が増えただけでなく、同時にジェンダー主流化をはかり、女性が働きやすい環境作りを行っている。家族的責任を男性も分担し、女性議員として働きやすいからこそ女性議員がふえている。これをふまえると日本でも、育児支援や介護支援などの政策の充実が同時に必要である。第三に、議員になりたいという女性を増やさなければならない。そのためには議員職というものが、より良い政策を作って社会に貢献する、魅力ある仕事であるということが認識されるようでなければならない。第四に、数合わせだけで女性を出すようなことがあれば結局女性の実力がいかされず、反対に女性の評判をおとしめることにもなりかねない。日頃から女性議員候補者を育てる仕組も必要である。最後に、スウェーデン、ノルウェーは選挙制度において比例代表制、ドイツは小選挙区比例代表併用制を採用している。比例代表制は、クォータ制の採用になじみやすいが、日本のように比例代表制だけでなく小選挙区制などを併用している場合、どのように効果的にクォータ制をとりいれるかも大きな課題となるであろう。

*内閣府男女共同参画局『男女共同参画白書 平成23年版』の他、関連サイトを参照した。

植野 妙実子(うえの・まみこ)/中央大学理工学部教授
専門分野 憲法、フランス公法
東京都出身。中央大学法学部法律学科卒業後、中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了、後期課程満期退学。
中央大学理工学部専任講師、中央大学理工学部助教授を経て、中央大学理工学部教授 (1993年~)。
中央大学大学院法学研究科後期課程担当教授(2004年〜)、中央大学大学院公共政策研究科教授(2004年〜)
2006年フランス エックス・マルセイユ第3大学にて法学博士取得、2008年から2010年まで中央大学高等学校校長、2009年から2013年まで中央大学大学院公共政策研究科委員長をつとめる。

主な著書
編著『法・制度・権利の今日的変容』(中央大学出版部・2013)
  『フランス憲法と統治構造』(中央大学出版部・2011)
  『21世紀の女性政策』(中央大学出版部・2001)
単著『Justice,Constitution et droits fondamentaux au Japon』(LGDJ・2010)
  『憲法二四条 今、家族のあり方を考える』(明石書店・2005)
  『憲法の基本-人権・平和・男女共生』(学陽書房・2000)

 毎年、フランスのエックサンプロバンスで開かれる国際憲法裁判学会に日本の憲法裁判の報告者として出席。現在の研究テーマは「フランスの人権保障と裁判制度」である。