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曲田 統

曲田 統 【略歴

子どもとLINE――大人たちは何を考えるべきか――

曲田 統/中央大学法学部教授
専門分野 刑事法学

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 以前、子どもの世界におけるいじめに言及した。今回は、その時に述べることができなかった問題を取り上げたい。それが、LINEにおけるいじめの問題である。

閉じられた世界としてのLINE

 近時、スマートフォンをもつ子どもも多くなってきた(小4~6の16%;中学生の21.3%;高校生の51.1%: 2013総務省調査)。そして、LINEというソーシャルメディア(インターネットを使用したコミュニケーション・ツール)を使い、仲間だけで(閉じられた世界で)文字による会話をする子どもの数も増えてきている。LINEを含めたSNSは、非常に便利なコミュニケーション・ツールであり、社会的に有用な手段であることは確かである。しかし、ソーシャルメディアは、人間関係上の悩み・問題を新たに生じさせている。

 LINEは、今や小学生にとっても身近なツールになっている。これを使用すれば、仲間と瞬時に連絡を取り合うことができる。仲間内だけで好きなように文字会話を手軽にすることもでき、便利この上なし、というわけである。しかし、LINEはその事業者がやり取りの監視をしていないため(電気通信事業法が「通信の秘密を侵してはならない」と定めていることをその理由としている(毎日新聞2014年03月31日東京朝刊参照))、いかに不穏当なやり取りがそこで繰り広げられても、何らチェックが及ばない。この「外の目にとまらない」という特性は、うざい・きもい・死ねといった言葉が心理的に容易に使用される危険性をはらむ。実際、こういった心ない言葉を特定のターゲットに浴びせて攻撃するという手のいじめや、気に入らない仲間をメンバーからはずすという手法のいじめが、常套手段となっている。最近重宝されているLINEは、不適切な使い方によって、いじめを行う格好の場ともなっているのである。閉じられた世界というLINEの特性を逆手にとり、執拗でえげつないいじめを密かに行い続ける子どもが少なからずいることを、大人たちは深刻に受けとめなければならない。 

 いじめにこそ発展しないまでも、既読スルーをしたとの烙印を押されることを過度に恐れ、深夜になっても延々とLINEを使い続ける子どもも少なくない。既読スルーをしたとして揶揄されることになれば、LINEのメンバーから外され、リアルの世界でも無視などの報復を受けうることになる。自分がそのようにならぬよう、子どもたちは、悲しいかな、せっせせっせとLINEで文字会話をし続けるのである。

 このような状況を異様といわず何と言おうか。子どもたちは自分たちでは気づいていないかもしれないが、LINEというツールに完全に踊らされ、そのシステムによって苦しめられている。

対応策

 このような状況下で、周囲の大人はどうすべきか。子どもたちのために、思い切った手段の投入を真剣に考えるべきではないか。それが、合議を経た上でのLINEの使用禁止措置である。学校・自治体・行政区単位等で、たとえば小学生等を対象に、LINEの禁止を真剣に検討すべきである。ちなみに、兵庫県多可町は、7月から午後9時以降「LINE(ライン)」などのスマートフォン向け無料通話アプリを使ったやり取りを控えるよう呼びかける運動を、町を挙げて展開すると発表している(毎日新聞 6月19日(木)21時8分配信)。勇気ある取り組みであり、歓迎すべきである。

 ところで、禁止という提案をすると、「禁止するのではなく、適切な使い方のレクチャーこそが重要だ」との反論が即座に提示される。しかし、そのような悠長なことは言っていられないということを、私たち大人は、今の子どもたちの不安定で危うい現実の世界を直視して、しっかり認識しなければならない。LINEの効用を優先する考えは、そこに適切なチェック機能(介入機能)が保証されていない以上、到底支持できない。明日にも起こりうるいじめの防止・子どもたちの保護こそ最優先である。子ども達の心身の安全よりも、経済効率を優先する社会的風潮は放置されるべきでない。

禁止することの意味

 禁止という手段の有効性はどこにあるか。それは、直接的には、子どもたちをLINEから遠ざけることができ、その分だけいじめの機会を奪うことができる点にある。また、既読スルーと揶揄されることを恐れ深夜までLINEを使い続けるということも少なくなる。

 さらに、間接的効果として、使用しない子どもを「正道」と位置づけることが可能となる。禁止すれば、たとえば学校が禁止しているからということを「口実」にして、親は正面から、LINEの使用を子どもに禁じることができる。子ども自身も、なぜLINEを使わないのかと友人から責められたとき、禁止されているからだということを合理的理由として挙げ、その要求をはねのけやすくなる。

 禁止されていない現状では、LINEを使わないという態度を強く示すことが出来ない。だから、しぶしぶでもLINEのメンバーに入らざるをえなくなる。こうして、いじめられるリスクを負うとともに、いじめる立場に立つ可能性をも背負うことになっていくのである。

おわりに

 LINEを使用しないと強く言える環境を大人が提供すること、そしてLINEの使用なしに友人関係を保てる状況を保証すること、これらこそ、LINE禁止の狙いである。利便性に富むツールを子どもから奪うには、覚悟と勇気が必要となる。現代社会における大人たちの心のあり方が問われているといえよう。

曲田 統(まがた・おさむ)/中央大学法学部教授
専門分野 刑事法学
東京都出身。1992年中央大学法学部卒業後、同大学院法学研究科刑事法専攻博士後期課程単位取得。2003年札幌学院大学法学部助教授、2007年中央大学法学部准教授を経て、2010年より現職。研究テーマは、共犯理論の再検討、刑罰の本質・正当性の探究など。研究業績として、「死刑制度は保持されうるか」法学新報118巻7・8号、「教唆犯の従属性と従犯の従属性」刑法雑誌53巻2号など。