トップ>オピニオン>学生たちによる実践的な国際協力の学習:フェアトレード普及活動を通じて
林 光洋 【略歴】
林 光洋/中央大学経済学部教授
専門分野 開発経済学
私の周囲には、国際協力、開発協力に興味・関心を持つ、積極的で外向き志向の学生たちが相当数います。学部のゼミおよび中央大学独特の学部を越えた学習プログラム、ファカルティー・リンケージ・プログラム(以下、FLP)の国際協力プログラムのもとに設置されたゼミに参加している学生たちは、国際協力や途上国の開発分野について、教室の中での学習を越え、教室の外の実践的な学習の場を求めて活動しています。
たとえば、私の学部ゼミとFLPゼミの学生たちは、3年次の丸1年間をかけて、途上国の開発に関する研究プロジェクトに取り組みます。研究対象国と研究テーマの選定から、研究計画書の作成、アポイントメントの取得、宿泊・交通の手配、2週間前後の途上国での現地調査、200ページ前後の研究論文(英語論文)の執筆まで、すべてを学生たちが準備し、実行します。その研究結果と経験を使いながら、4年次には、訪問先の学校紹介等で周囲の支援も仰ぎますが、自分たちの力で、1年間6校前後の中学・高校を訪ね、生徒たちに特別授業を行なっています。
また、彼らは、2009年と2010年の2回、国際協力機構(JICA)が、大学生と若い世代の社会人に国際協力を身近に感じてもらい、何らかの形でかかわってもらうことを目指してJICAの地球広場(当時は広尾)で開催した「学生だって、卒業したって国際協力」という200人規模のイベントの企画・運営の手伝いをしました。2011年は、「学生だって、卒業したって国際協力」が開催されませんでしたので、「国際協力の日」(毎年10月第1週目の土日)に日比谷公園で実施された「グローバルフェスタ」にJICA学生支部として参加しました。企画を立て、テントを出して、さまざまな大学の学生たちが実際に行なっている国際協力活動を掲示板で紹介し、学生団体間同士の交流促進に努めました。
今回は、このように外向きで国際協力を志向する中央大学の学生たちが自主的に行なっているフェアトレードの普及、啓発・啓蒙活動を紹介させてもらいます。
フェアトレードという考え方や取り引きが日本では十分に認知されるにいたっていませんので、まずはそこから説明することにしましょう。フェアトレードとは、一般に、先進国の団体・企業が開発途上国の生産者と直接的な関係を形成し、農産物(コーヒー、紅茶、チョコレート、カレー・ペースト等)、衣類、手工芸品、雑貨等を適正な価格で、継続的に購入することを通じて、生産者の経済的自立を促し、各種問題(貧困、ジェンダー、環境等)の解決に寄与するような取り引きのことです。フェアトレード商品を購入する先進国の消費者たちは、国際協力に貢献し、途上国の生産者に思いを馳せたり、南北格差を意識したりする機会を得ることができます。欧米に比べてフェアトレードの認知度が低い日本でも、最近、フェアトレード商品を扱う非政府組織(NGOs)や民間企業が少しずつ増えてきています。
2007年度にFLP林ゼミに入ってきた2年生の学生5人が、前期授業の終了間際になって、フェアトレードに関連した活動をしてみたいと言ってきました。「積極的に挑戦してみてください」と励ましたところ(励ましただけですが)、彼らは、夏休みに入ると準備を始め、勉強会も定期的に開いて必要な知識・情報を獲得し、11月の白門祭(学園祭)で、フェアトレード・カフェおよび雑貨店を出店し、フェアトレードと児童労働の分野で有名なエース(ACE)というNGO団体から幹部を招いて講演会とパネルディスカッションを無事にやり遂げました。学生たちはこの2007年度の試みを1回限りで終わらせたくないと思い、翌2008年度の初め、FLP国際協力プログラムの中に「フェアトレード学生委員会(FACT:Fair Trade Chuo University Team、以下FACT)」を設置してもらって正式な学生の団体・組織として活動をスタートさせました。
そのようにして設立されたFACTは、FLP国際協力プログラムの履修生が中心になっていますが、中央大学の学生であり、フェアトレードに興味・関心さえあれば、FLPの履修者であるかどうかに関係なく、また学部、学年に関係なく入会可能で、実際にFLP履修者でない学生も多数いて、大いに活躍しています。
FACTは、中央大学の学内外にフェアトレードを普及、啓発・啓蒙することを目的に掲げていますが、そのためには、当然ながらメンバーの学生たち自身がより深くフェアトレードを理解している必要があります。そこで当初より、勉強会の定期的な実施を基本的な活動に据えてきました。フェアトレード関連の文献を輪読したり、特定のテーマを決めて報告しあったりしています。
この勉強会に加えて、2007年度以降、白門祭におけるフェアトレード・カフェの出店、講演会やパネルディスカッションの開催を主要な活動としています。白門祭の時期を中心に、初回のACEをはじめ、これまで第三世界ショップ(日本でフェアトレード取引の老舗の1つといわれているNGO団体)、ピープル・ツリー(日本の代表的なフェアトレード企業)、ベン&ジェリーズ(フェアトレード・ココアを使用したアイスクリームを販売する民間企業)等のフェアトレード団体・企業からゲストを招いて、講演会やパネルディスカッションを開催し、中央大学内でフェアトレードの啓発・啓蒙に努めてきました。
7年目、13回をかぞえる中央大学生活協同組合とFACTのフェアトレード・フェア
(2014年5月26-30日開催)
FACTのメンバーは、中央大学の学生や教職員に、より身近なところでフェアトレード商品に触れてもらい、フェアトレードのことを知ってもらいたいという思いから、中央大学生活協同組合(以下、生協)に対して、フェアトレード商品を取り扱ってもらえるよう2007年の冬にリクエストを提出しました。生協は、FACTの希望に沿い、2008年6月に第1回目のフェアトレード・フェアを開催する機会を与えてくれました。
それ以降、生協は、毎年、春(5月あるいは6月)と秋(11月)の2回、それぞれ1週間ずつフェアトレード・フェアを行なっています。つい先日も、5月26日からの1週間、生協の特設コーナーで、13回目をかぞえるフェアが開催されました。FACTメンバーの学生たちは、ボランティアとして、発注商品の選定、商品の飾りつけ、フェアトレードの説明といった分野で関与し、生協とコラボしています。昼休みを中心に、特設売り場で待機し、フェアトレードに興味・関心や質問がありそうな学生、教職員に対しては、説明をしたり、疑問に回答したりしています。
FACTは、これら学内の活動だけではなく、学外でもフェアトレードの啓発・啓蒙活動を行なっています。講演会で話をしてくれたフェアトレード団体・企業等からの依頼で、国際協力セミナー、世界フェアトレード・デーの特別イベント、他大学のセミナーにおいて訪問授業をしたり、貿易ゲームを行なったりしています。貿易ゲームは、いわゆるロール・プレイング・ゲームと呼ばれるもので、複数のチーム(国)に分かれて貿易収入を競ってもらうという貿易取引の疑似体験ゲームです。各チーム(国)の技術、資本・設備の賦存状況を異なった状態にしてゲームをスタートさせ、それら生産要素の豊富な先進国と不足する途上国の間の貿易取引に内在する格差を参加者に感じてもらおうというものです。さらにFACTオリジナルの「フェアトレード団体」もこのゲームに登場させ、フェアトレードの効果や役割も理解してもらえるように設計し、フェアトレードの啓発・啓蒙につなげる努力をしています。
今回は、FACTという団体を作り、学内外でフェアトレードの普及、啓発・啓蒙活動を通じて、実践的に国際協力を学んでいる、私の周囲にいる中央大学の学生たちを紹介しました。彼らには、フェアトレードの問題点や限界も理解してもらったうえで、引き続き自発的に、自主的に、フェアトレード関連の活動を発展させ(たとえば、フェアトレード商品を扱うNGOとの協力関係強化、勉強会のオープン化による参加者拡大)、より多くのことを学んでもらいたいと願っています。