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曲田 統

曲田 統 【略歴

いじめと犯罪

曲田 統/中央大学法学部教授
専門分野 刑事法学

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 最近になってやっと、いじめの一部は犯罪であるとはっきりと指摘されるようになってきた。いじめは看過できない行為だとの認識の共有を促すとともに、警察との連携を深め、被害児童生徒をきちんと救っていこうという狙いがそこにはある。その狙いは妥当である。ただ、よりダイレクトに事実を指摘する必要があるように思われる。すなわち、いじめのほんの一部が犯罪にあたるというわけではない。実のところ、いじめのかなり多くが犯罪行為としての実体をもっているのである。この認識の共有が求められる。

 では、どのようないじめが、どのような犯罪行為にあたりうるのか。例は多数に上るが、以下ではスペースの関係で、20の例のみを挙げる。

(なお、本稿は、法律学的議論を展開するものではないから、犯罪の成否をめぐる要件論および要件充足論は捨象している。)

いじめの前段階

 いじめは突如としてなされるのではない。いじめの前段階においては、嫌がらせレベルの緩やかな攻撃がなされるのが通例である。しかし、攻撃しやすいターゲットを見定めようとする(様子見の)意図のもと、①すれ違いざまに、わざとぶつかる、②挨拶に見せかけて、強く肩をたたく、③みんなの前で馬鹿にする、などの行為がなされることもしばしばである。こういった行為は、いまだ継続性がなく、加害者・被害者の関係性も固定的ではないため、いじめとして位置づけがたい側面があるものの、しかし、行為の実態としては犯罪性をすでに帯びている。

 すなわち、①・②は暴行罪にあたる行為であり(最高2年の懲役/刑法208条)、怪我をさせれば傷害罪となる(最高15年の懲役/刑法204条)。相手の肌が赤く大きく腫れた程度でも傷害罪となりうる。③は侮辱罪にあたりうる行為である(拘留又は科料/刑法231条)。

身体的暴力を内容とするいじめ

 ④プロレスごっこだと言って技をかける、ということがよくなされる。相手をさせられる方は乗り気ではない。しかし、拒否すれば他の攻撃を受けかねない。そのためしぶしぶ相手をする。事実、誘う方が一方的に技をかけ、誘われる側は受け身一方となる。そこに対等関係はない。このような状況における技かけは、典型的ないじめであるとともに、暴行罪を構成する(最高2年の懲役/刑法208条)。怪我をさせれば傷害罪となる(最高15年の懲役/刑法204条)。

 殴る蹴るまでいかなくても、暴行罪にあたる行為はある。たとえば、⑤髪を引っ張れば、これも暴行罪である。⑥髪を切る行為も暴行罪。その際けがをさせれば傷害罪となる。

 また、⑦かばんやペンなど、物を相手に投げつける行為も暴行罪である。⑧物を体の近くに投げても、暴行罪である。この場合、物が相手の体に当たったかどうかは問題とならない(いずれにしても暴行罪)。

 このように、物理力を使って人の身体の安全を脅かしさえすれば、暴行罪を構成することになるのである。

 ⑨相手がいやがっているのに、やらなければただじゃおかないなどと言って、強いて虫などの異物を口に入れさせるといったいじめも現にある。これは強要罪にあたる(最高3年の懲役/刑法223条)。これにより、相手が体調を崩せば、あわせて傷害罪となりうる(最高15年の懲役/刑法204条)。

精神的暴力を内容とするいじめ

 ⑩うざい、キモい、死ねなど、自分が言われれば傷つくことを、他人に対しては平気で言い放てる者がいる。こういった侮蔑的な言葉を多くの人が耳にする状況下で発すれば、侮辱罪を構成することになる(拘留又は科料/刑法231条)。本人の耳に入り精神疾患を引き起こしたとなれば、そのつもりはなかったとしても、過失傷害罪という犯罪にあたりうる(30万円以下の罰金/刑法209条)。最近は、ウェブサイトに、侮辱的な言葉、悪口、根も葉もない噂を書き込むという事例が増えてきている。これらの行為も、侮辱罪、場合によっては名誉毀損罪(最高3年の懲役/刑法203条)を構成する。ウェブサイトへの侮蔑的発信は、被害者にとって殊更に打撃の大きいものである。小学生低学年のうちから、SNSにおける不用意な発言が犯罪となりうることを、大人たちは伝えていかなければならない(もちろん、犯罪だからやめよという法的アプローチだけでなく、他者を傷つけることを気持ちよしとしない心根を育む教育的アプローチが重要である)。

 ⑪嫌がらせとして、相手の持ち物を壊す者がいる。これは器物損壊罪にあたる(最高3年の懲役/刑法261条)。

 ⑫たとえ壊さなくても、かばんに泥を詰めるとか、激しく汚すなどすれば、それもまた器物損壊罪にあたる。

 ⑬さらに、上履きを隠すなどの隠匿行為もまた、器物損壊行為にあたる。隠されたため使いたいときに使えないというのは、壊されて使えなくなったことに類似する。よって、破壊しなくても隠せば、器物損壊罪にあたるのである。

 ⑭毎日、購買部に買い物に行けと命令されつづける被害生徒がいる。そこにはすでに強固な強弱関係があり、命令される生徒はもはや嫌と言えない状況にいる。そのような命令は、強要罪を構成する(最高3年の懲役/刑法223条)。⑮命令に従わなかった相手に、「いい度胸しているな。放課後楽しみにしていろ」などと脅しをかければ、それだけで脅迫罪を構成することになる(最高2年の懲役/刑法222条)。

金銭にからむいじめ

 ⑯人のかばんからその小遣いを盗めば、窃盗罪となる(最高10年の懲役/刑法235条)。鉛筆や消しゴムをとっただけでも、もちろん窃盗である。

 ⑰金や物は、脅されて巻き上げられることも少なくない。暴力が用いられることもある。弱い者がねらわれるのが常であり、繰り返しなされることも多い。脅したり暴力をふるったりして金や物を差し出させる行為は、恐喝罪にあたる(最高10年の懲役/刑法249条)。脅しや暴力の程度が甚だしければ、より重い罪の強盗罪となる(最高20年の懲役/刑法236条)。

 ⑱もう小遣いはないと言っている被害生徒に、親の金を持ってくるよう指示するなどして、際限なく金を差し出させるケースもある。この場合、加害生徒は直接に被害生徒の親の金を盗ったわけではないが、それでも窃盗罪となる。

性的ないじめ

 ⑲嫌がるのに無理やり下着姿・裸にして笑いものにするなど、強制わいせつ罪にあたる行為などである。このような行為は、女子が女子に対して行う場合も少なくない。そこにわいせつ感情は伴っていなくとも、強制わいせつ罪を構成することになる(最高10年の懲役/刑法176条)。

 ⑳卑劣さ・凶悪さの極まったものとして、次の記事を引用しよう。
 「女子生徒が手引きして男子生徒に集団レイプをさせるのも珍しくない。ある女子高校生が別のクラスの女子に「先輩(男子)の家に遊びにいこう」と誘われた。 訪ねていくと、数人の男子生徒と女子生徒が待ち構えていて、その場で輪姦される。ターゲットになるのは、決まって性格がおとなしい子だ。手引きした女子生徒は横で眺め、そこにいる生徒たちは、携帯で一部始終を録画する。こんなことは決して珍しくないという。」(AERA 2013年10月7日号より)
 子どもの世界での集団強姦(最高20年の懲役/刑法178条の2。手引きした女子も同罪となる)。大人ばかりでなく子どももまた、現実にしっかり目を向けなければならない。

意識しなければならないこと

(1)被害児童生徒が増えたり、被害の程度が大きくなったりということを傍観しているわけにはいかない。可能な防止策を積極的に講じていく必要があるが、そこで重要となるのは、子ども・大人の意識改革である。

 これまでは、「いじめ=犯罪未満」という漠然とした認識が一般的であった。しかし、先述のように、それは間違っているのである。多くのいじめが犯罪にあたりうるのである。この事実を理解し、いじめという行為の重大性・反社会性・残虐性をしっかり認識する。これが、子どもにも大人にも分け隔てなく求められることである。

(2)ただ同時に、冷静な物の見方も失ってはならない。

 いじめる側の子どもは、しばしば心の闇を抱えている。人の心の痛みを想像できる心のアンテナを持ち合わせていない子どもも多い。

 なぜか。そのようになったのは、その子自身のせいなのか。そうでないと答えるなら、その子をただ責めるだけの対処は的を外しているということに気づくであろう。大人たちは、どうすれば他人の心の痛みを想像する力・共感する力を子どもたちに十分持たせることができるか、常に真剣に考えなければならない。そのために有効な家庭・社会環境のあり方や、加害児童生徒との関わり方などについて、大人たちが長期的視座に立って責任をもって議論しなければならない。いじめに加担する子どもたちを責めるだけという短絡的な対処に傾注せぬよう留意が必要である。

(3)いじめは自己防御としてなされることが少なくない。すなわち、いじめに加担しなければ自分がターゲットになりかねないと感じた子どもが、逆にいじめる側に回るという現象である。

 このような理由からいじめ側に回る(回らざるを得ない)子どもの心理は、大人の正論で簡単に否定できるものではない。子どもの世界における戦々恐々とした闇に、大人たちも気持ちを向けてみる必要がある。深い理解と厳しい対応とが噛み合ってこそ、解決の出発点に立つことができるのである。

おわりに

 なぜいじめをするのだろう。多くの人がそう言う。しかし、子どもの世界は大人の世界の投影でもある。大人も自分たちの世界を振り返ってみる必要がある。

曲田 統(まがた・おさむ)/中央大学法学部教授
専門分野 刑事法学
東京都出身。1992年中央大学法学部卒業後、同大学院法学研究科刑事法専攻博士後期課程単位取得。2003年札幌学院大学法学部助教授、2007年中央大学法学部准教授を経て、2010年より現職。研究テーマは、共犯理論の再検討、刑罰の本質・正当性の探究など。研究業績として、「死刑制度は保持されうるか」法学新報118巻7・8号、「教唆犯の従属性と従犯の従属性」刑法雑誌53巻2号など。