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冨塚 嘉一

冨塚 嘉一 【略歴

会計基準の国際的統一化に直面して

冨塚 嘉一/中央大学アカウンティングスクール(専門職大学院国際会計研究科)教授
専門分野 会計学

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IFRSへの統一化をめぐって

 各国の会計基準をIFRS(International Financial Reporting Standards, 国際財務報告基準)へと一本化する動きがみられるが、これに対して、日本では賛成論と反対論が交錯している。賛成論は、ビジネスのグローバル化にともない、ボーダーレスな経営が展開されているので、企業の財政状態や経営成績を測定する尺度も統一化し、国際的な比較可能性を高める必要性を強調する。反対論は、そうはいっても国ごとに法律、文化、歴史など違うので、それを無視して統一的な基準を押し付けても適切な基準とはならないとする。現在のところ、日本はIFRSをすべての企業に強制的に適用(アドプション)するのではなく、任意適用のみを認めており、実際に導入しているのは20社程度である。もっとも、日本の会計基準も、IFRSに近づけるコンバージェンス(収斂)の方向で適宜改訂されているので、IFRSとの大きな違いは解消されつつある。

IFRSのめざすところ

 IFRSは、世界共通の会計基準であるために、単一で高品質な会計基準の確立をめざしている。「高品質」とは、ビジネスの実態をできるだけ的確に反映できることを意味している。そもそも会計とは、たんなるおカネの計算にとどまるものではなく、経済活動を映し出すための仕組みであり、そこで作成される財務諸表(決算書)を見てさまざまな利害関係者(ステークホルダー)が意思決定をし、その結果として、経済資源が合理的に配分される。IASB(国際会計基準審議会)は、そういった理念のもとで、IFRSの開発・改訂に取り組んでいる。ところで、「ビジネスの実態」を表すとはどういうことだろうか。身近な例として、「減価償却」について考えてみよう。

減価償却の会計的意義

 減価償却とは、固定資産の使用にともない、経済資源(ストック)としての経済価値が徐々に消費されて、フローとして費用化される現象であり、それを描き出す会計的手法が減価償却方法である。具体的には、毎期一定額を費用とする定額法、帳簿残高に対して一定率で費用とする定率法、使用量に応じて費用とする生産高比例法などがある。いずれにしても、まずはストックとして認識される資源の取得原価を確定し、その耐用年数または使用可能総量と残存価値を推定するなどして、毎期の減価償却費を算定し、会計処理する。

 減価償却の会計的意義は、上記の会計方法から一つを選んで規則的、継続的に適用して減価償却費を計上することにより、期間損益計算を適正に行う点にあるとされている。このような説明の基礎には、ドイツ流の動態論という考え方があり、最近では、アメリカの会計概念フレームワークの視点から、収益費用観とも呼ばれている。

 ところで、適正な費用配分計算を通して適正な期間損益計算に貢献するとしても、その結果としての帳簿残高は、貸借対照表上の資産としての価値を表現しているといえるのであろうか。このような疑問に対しては、従来の動態論あるいは収益費用観では、会計の主目的は適正な損益計算の確保にあり、貸借対照表は期間ごとの損益計算を結び付ける「連結環」としての機能が期待されるので、規則的で継続的な計算の結果として残高を記録すれば十分とされていた。

 これに対して、財政状態を適切に表す貸借対照表自体の存在価値をもっと尊重して、その資産、負債、純資産(資本)をきちんと表示しようとする考え方が強まってきている。これは、収益費用観と対比させて資産負債観と呼ばれており、IFRSやアメリカ会計基準の基礎にある考え方としてしばしば強調される。これは、フロー(資源の増減)よりもストック(資源のあり高)に注目する視点であり、リース取引やオプション取引のオンバランス化、金融商品の公正価値測定、減損会計などに反映されているようにみえる。減価償却の場合、極端に言えば、資源の継続的な減少(フロー)を計算するよりも、固定資産の期末残高(ストック)を公正価値で測定すればよいとの結論もありうるが、これはまだそれほど多くの支持を得ていない。

 実際のところ、IFRSはいくつかの減価償却方法からの任意の選択適用を認めるのではなく、その固定資産の経済価値が消費されるパターンをより良く反映する方法を選択すべきとする。大型の固定設備の場合、いくつかの重要な部品に分かれるとすれば、それぞれの耐用年数に応じて別々に減価償却を行うコンポーネント償却を規定している。耐用年数にしても、あくまで見積りであるから、物理的耐用年数のみならず経済的耐用年数も考慮して、毎期末に見直すことを求めており、こうしたきめ細かいルールを通して、ビジネスの実態を反映させようとする。つまり、資産の期末残高(ストック)が財政状態をよく表すためには、フローとしての減価償却費を適切に計上する必要があり、したがって、資産の期末残高と期中の費用の把握とが表裏一体となって、ビジネスの実態が適切に表現されるという考え方といえる。

IFRSへの対応として

 とかく、収益費用観から資産負債観へといった標語が一人歩きして、IFRSやアメリカ会計基準の考え方はすべて資産負債観に立つとする風潮も見受けられるが、その実質は、ビジネスの実態をより良く反映するための会計方法をめざしていると考えた方が自然であり、わかり易い。IFRSへの統一化の動きに賛成するにしても、反対するにしても、この点を押さえておく必要がある。ビジネス自体がグローバル化、ボーダーレス化しているのは事実であるので、その実態を表す会計方法を精緻化するための基準開発は、いずれにしても必要である。日本の基準設定関係者もこれまでの経験・蓄積を生かしてこの活動に積極的に関与し、また、研究者もその研究成果の提案によって貢献することが期待される。

冨塚 嘉一(とみづか・よしかず)/中央大学アカウンティングスクール(専門職大学院国際会計研究科)教授
専門分野 会計学
慶応義塾大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得。中央大学商学部教授を経て、CGSA(中央大学専門職大学院国際会計研究科)開設とともに本研究科教授。博士学位(会計学)。元税理士試験委員。主な著書に、『どうなってる!? 国際会計』[編著]中央経済社。『会計が変わる-企業経営のグローバル革命』講談社。『会計認識論』中央経済社などがある。