トップ>オピニオン>日越関係:「東遊(ドンズー)」と「南遊(ナムズー)」
緒方 俊雄 【略歴】
緒方 俊雄/中央大学経済学部教授
専門分野 マクロ経済学・生態経済学
(写真1)ファン・ボイ・チャウ
まず、12月9日、駐日ベトナム大使館のド・バン・チュン(Do Van Trung)参事官による「ベトナムの経済発展と日本の関係」と題した講演会が8号館の大教室で開催され、参加者が300人を上回る大盛況でした。今年(2013年)は、日本ベトナム友好年(日本ベトナム外交関係樹立40周年)として、さまざまな側面について評価が行われています。チュン参事官は、最初にベトナムという国の概要の説明から始めてくださり、朱印船貿易時代にまでさかのぼり、現在でもホイアンに日本町や日本橋が保存されその町並みが歴史遺産になっていること、また1986年のドイモイ(刷新)政策導入とともに、日本からのODAのおかげで安定した経済発展を遂げていること、そして教育システムの改革により人材育成を促進し、日本への留学(明治時代の「東遊(Dong Du:ドンズー)運動」)がいま見直されているとのことでした。TBSテレビ(注2)やNHKBS1(注3)でも東遊(ドンズー)運動の推進者「ファン・ボイ・チャウ(Phan Boi Chau)」(写真1)の人間像が紹介されています。今後、日越関係は引き続き、GMS(大メコン河流域諸国開発(Greater Mekong Subregion))においても、重要な役割を果たすことを期待されています。
(写真2)ゲアン省ファン・ボイ・チャウの生家(記念館)にて
(写真3)経済学部「グローバル・フィールド・スタディーズ」(南遊:ナムズー)
12月10日、中央大学経済学部が今年度から海外研修の単位認定科目とした「グローバル・フィールド・スタディーズ」による活動報告会が開催されました。緒方研究室では、ゼミ生たちがファン・ボイ・チャウの東遊(ドンズー)精神(写真2)を学び、ベトナムの国立大学や政府研究所における日越合同ゼミ(写真3)や「日越友好の森」合同植林活動を実施し、さらに現地大学生や地元住民の協力を得てフィールド調査を行い、その成果を報告しました。私は、日本人がベトナムから学ぶこうした活動を「南遊(Nam Du:ナムズー)」と呼んでいます。緒方ゼミ環境班は、ベトナムの「生態村(Lang Sinh Thai)」と日本の里山を事例として取り上げ、生態系と経済系の共生の視点から日越環境保全活動の拡充策を展開しました。また地域開発班は、ベトナムでの社会調査から安全・安心の食料を確保する方法を米国のCSA(Community-Supported Agriculture 地域支援型農業)を参考に、ベトナムでのVACモデル(混合型循環農業)の適用による安価で安定した農産品の供給システムを提案し、来賓として出席されたベトナムの共同研究者、留学生、一般学生との意見交換が活発に行われました。これはまさにベトナムから日本への留学「東遊(ドンズー)」と日本からのベトナムでの研修「南遊(ナムズー)」とを融合したグローバルな人材育成システムと言えるでしょう。
(写真4)現地「生態村」人民委員会と日越共同研究者
12月11日、中央大学経済研究所(環境と経済研究会)は国際シンポジウムを開催し、文部科学省科学研究助成に基づく日越共同研究の成果を発表しました。シンポジウムの司会進行は、経済研究所の松谷泰樹客員研究員が務め、初めに研究代表の筆者が社会的共通資本や社会関係資本の概念を包含した生態経済モデルに基づく「グリーン経済とエコビレッジ(生態村)」と題した基調講演を行い、続いてベトナム天然資源環境省研究所(ISPONRE)副所長のグエン・テ・チン(Nguyen The Chinh)教授が国連「リオ+20」の「グリーン経済」に基づき「ISPONREとグリーン戦略」を発表しました。同研究所は、ベトナム政府天然資源環境相の諮問機関であり、現地「生態村」に関する日越共同研究(写真4)の成果は、ベトナム政府の環境保全政策に対する検討課題として取り上げられています。
続いての報告は、中央大学で博士学位を取得されたハノイ国民経済大学(NEU)のグエン・チ・タン・トウイ(Nguyen Thi Thanh Thuy)教授によるもので、「ベトナムにおける生態村モデルと環境保護法の発展」と題し、ドイモイ政策に伴う乱開発を抑制するための環境保護制度設計の経過報告でした。さらにISPONREの若手研究員ライ・ヴァン・マイン(Lai Van Manh)氏は、「ベトナムの生態村(Lang Sinh Thai)の特徴」の中で、北部山岳地域、紅河デルタ地域、沿岸砂地など、それぞれの異なる生態系に応じた「生態村」の特徴を紹介してくれました。また生態経済研究所(Eco-Eco)のホアン・ラン・アイン(Hoang Lan Anh)研究員による「生態経済研究所とエコビレッジ(生態村)」と題する報告では、同研究所が指導してきた「ベトナムのエコビレッジ(生態村)」の実態が紹介されました。
最後に、経済学部の原山保准教授は、日越共同研究による「生態村」社会調査の結果を総括してくれました。日越共同研究者が生態村全世帯を対象とする悉皆調査として現地農家を直接訪問し、収集した多数の社会調査票の分析から「生態村」における地域コミュニティの社会関係資本と幸福度が相関していることなどの実態を解明することができました(注4)。
上記6人の報告の詳細は経済研究所『研究会報』に掲載される予定です。日越関係を深めていくなか、両国の「共同研究に基づく東遊・南遊」を推進することは、グローバル人材育成の進展に大きく寄与するものと期待しています。