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阿部 正浩

阿部 正浩 【略歴

働き方はこれからどう変わるのか

阿部 正浩/中央大学経済学部教授
専門分野 労働経済学

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日本人の働き方は多様化している

 いま、私たちは様々な働き方を選択することが出来ます。正社員・正職員として働くことも出来るでしょうし、パートタイマー・アルバイト、契約社員や嘱託、あるいは派遣労働者などのいわゆる「非正規雇用者」として働くことも出来ます。

 総務省統計局『労働力調査(詳細集計)』(平成25年7~9月期平均)によると、企業などに雇用されている人は5205万人いました。このうち正社員・正職員は3295万人で、残りの1908万人は非正規雇用者でした。雇用されている人の3人に一人以上は非正規雇用者として働いているのです。さらに、前年同期の平成24年7~9月期平均と比べると、正社員・正職員は32万人ほど減少している一方で、非正規雇用者は約79万人も増えています。1980年代前半の非正規雇用者の割合は7人に一人程度でしたので、この30年間で正社員・正職員以外の働き方が増えてきたことがわかります。

 非正規雇用者の内訳をみると、パート・アルバイトが1327万人、派遣労働者110万人、契約社員・嘱託393万人、その他78万人となっており、非正規雇用者の7割はパート・アルバイトです。非正規雇用の代名詞のように扱われている派遣労働者は6%ほどに過ぎません。また、非正規雇用者の約3割(611万人)が男性で、残りの7割(1297万人)が女性です。

多様化の理由① ―雇われる側の理由―

 なぜ正社員・正職員は減少し、非正規雇用者は増加しているのでしょうか。それには大きく分けて、雇われる側の理由と雇う側の理由が考えられます。

 まず雇われる側の理由を考えてみましょう。これには積極的な理由と消極的な理由があります。

 積極的な理由としては、労働時間や日数を柔軟にして働きたいために非正規雇用者を選択していることが挙げられます。たとえば家事や育児の傍らに働きたいとか主婦や勉強と両立させてアルバイトをしたい学生のように、働けるのは1日に2、3時間だけとか、週2、3日だけとか、そういう希望の人々もいます。こうした人たちは正社員と同じ働き方では働けませんので、非正規雇用を選択しているのです。

 他方で、消極的な理由もあります。それは、正社員として働きたいけれども勤め口が見つからないので、仕方なく非正規雇用者として働いているというものです。1990年代後半からの日本経済はしばしば失われた10年と言われますが、新規学卒就職市場も冷え切りました。就職氷河期です。この時期の学卒者の中には望んでいた仕事に就職できず、非正規雇用者として止むを得ず働いた人たちがいます。これらの人々は後に正社員に転職したり、同じ職場で正社員に転換したりする人もいますが、少なからずの人たちが非正規雇用者のまま働いて年齢を重ねています。

 厚生労働省の『平成22年就業形態の多様化に関する総合実態調査』によれば、非正規雇用者の4割程度が積極的理由で、そして同じく約2割が消極的理由で非正規を選択したとされています。

多様化の理由② ―雇う側の理由―

 一方、企業側にも非正規雇用者を雇う理由があります。

 まず、産業の高度化の影響があります。小売業や飲食店、あるいはサービス業などはもともと非正規雇用者を活用してきた産業です。これらの産業では業務の繁閑の差が大きく、それに併せて労働需要が変動します。正社員だけでは労働力が不足する時に、非正規雇用者を活用しているのです。産業の高度化で第三次産業の就業割合が高まり、非正規雇用者が増加しています。

 また、正社員に比べて比較的安い賃金で雇えることも非正規雇用者を企業が増やしている理由でしょう。経済のグローバル化が進展し、製造現場を中心に労働市場もグローバル化しています。中国や東南アジアの労働者の安い賃金比べて国内の賃金が高ければ、国内の生産拠点は競争力を維持できません。競争力を維持するために、非正規雇用者を多く雇うようになりました。

 さらに、技術革新も影響しています。情報通信技術を中心とした急速な技術革新は、熟練を必要としない仕事を生んでいます。従来は組織内で人材を育成して熟練を形成しないと仕事に就けないことが多かったのですが、未熟練者でも就ける仕事が増えれば人材育成の必要性は減ります。正社員ではなく、非正規雇用者を企業は雇っても不都合はなくなったのです。

これからの働き方

 日本社会では少子・高齢化が進展しており、労働力人口は減少していきます。女性や高齢者がこれまで以上に就業する機会がますます増えると予想されますが、現在の正社員と同じ働き方では家庭生活や健康と仕事を女性や高齢者が両立することは難しいので、多様な働き方が増えていくでしょう。また、今後も技術革新は進んでいき、これまで人手で行われてきた仕事がますます機械に代替されると予想されます。機械には出来ない仕事をする高度な能力を必要とする仕事のニーズが高まると同時に、機械を補助して行う仕事も増えるでしょう。私たち働く側も、そして企業側も、今後ますます多様な働き方に直面することになると思われます。

阿部 正浩(あべ・まさひろ)/中央大学経済学部教授
専門分野 労働経済学
1966年、福島県いわき市生まれ。1995年、慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。2003年、慶應義塾大学博士(商学)。(財)電力中央研究所、一橋大学経済研究所、獨協大学経済学部を経て、2013年から現職。専門は労働経済学、計量経済学、経済政策。現在、厚生労働省「労働政策審議会」委員、厚生労働省「政策評価に関する有識者会議」委員、厚生労働省「雇用政策研究会」委員、内閣府「仕事と生活の調和連携推進・評価部会」委員などを兼務。主な著作に、第49回(2006年度)日経・経済図書文化賞および第29回(2006年度)労働関係図書優秀賞を受賞した『日本経済の環境変化と労働市場』(東洋経済新報社)がある。