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中野 智子

中野 智子 【略歴

地球温暖化問題にどう向きあうか

中野 智子/中央大学経済学部教授
専門分野 地球科学、気候学

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IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書の概要

 今年(2013年)9月に「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:以後IPCCと略)」の評価報告書が6年ぶりに公表された。2007年に第4次評価報告書が公表された際には、地球温暖化に関する知識を広め警鐘を鳴らしたという功績により、アル・ゴア米元副大統領とIPCCがノーベル平和賞を受賞した。今回の報告書は比較的静かに受け止められているが、この6年の間にも研究・データは蓄積され、より精度の高い将来予測が盛り込まれている。

 IPCCには、気候変動の自然科学的知見を扱う第1作業部会、影響・適応・脆弱性を評価する第2次作業部会、地球温暖化の緩和策を扱う第3作業部会の3つの作業部会があり、今回は第1作業部会の報告書がIPCC総会で承認された(第2作業部会については2014年3月に、第3作業部会については同年4月に報告書が公表される予定である)。

 第1作業部会報告書は、過去に観測されたデータから「気候システムの温暖化については疑う余地がない」と述べている。世界平均地上気温は1880~2012年の期間において0.85℃上昇し、世界平均海面水位は1901~2010年の間に19cm上昇した。海洋上部(0~700m)の水温が上昇していることはほぼ確実であり、極域の氷床や山岳氷河の縮小も世界中で起こっている。こうした温暖化をもたらした要因に関しては「人間活動が主な要因であった可能性が極めて高い(95~100%の確率)」と判断している。また気候モデルシミュレーションによる将来予測は「温室効果気体の継続的な放出は、さらなる温暖化と気候システムの変化をもたらす」という警告を発している。今世紀末の世界の平均気温および平均海面水位は20世紀末の値と比べて、温室効果気体の増加が小さい場合で0.3~1.7℃および26~55cm、増加が大きい場合では2.6~4.8℃および45~82cm上昇すると見積もられている。降水パターンの変化も予想され、現在湿潤な地域では極端な降水が増加し、一方、乾燥している地域ではさらに乾燥化が進むと予測されている。このように、第5次評価報告書は従来にも増して、地球温暖化問題の深刻さを示す内容となっているのである。

「地球温暖化=地球の破滅」ではない

 経済学部で「地球科学概論」や「環境科学」といった講義を担当しているが、学生と話をする中でいつも気になることがある。「地球温暖化をなぜ防がなければならないのか?」という質問に対し、少なからぬ学生が「地球が破滅すると困るから」、「人間以外の動物が絶滅するのはかわいそうだから」と答えるのである。

 地球の環境は過去数十億年の間、大きな変動を繰り返し、現在よりもずっと寒冷な時代もあれば温暖な時代もあった。例えば、およそ1~2億年前の中生代は、大気中の二酸化炭素濃度が現在の数倍に達し、地球の平均気温が現在より10~15℃も高く、地球上のどこにも氷床が存在しない時代であったと考えられている。このように現在よりもずっと温暖な時代においては、その環境に適応できた生物が繁栄をほこっていた。恐竜がまさにこの例である。つまり、二酸化炭素の濃度が増えても、気温が上昇しても、地球の破滅を心配する必要はない。しかし、現代の人間の生活という点からみると、気温の上昇やそれにともなう環境の変化は生存の危機につながるような重大な問題といえるのである。つまり、地球温暖化問題は地球の問題ではなく、人類の問題であるということをまず認識する必要がある。

地球温暖化問題にどう向きあうか

 前述の「なぜ地球温暖化を防がなければならないのか?」という問いに対する私の答えは、「この先も人間が健康で快適な生活を続けるため」というものである。20世紀の後半に「成長の限界」が叫ばれ、環境問題が顕在化してから久しい時間がたつが、その間も人類は豊かな生活を求めてひた走ってきた。「エコ」という言葉がはやっているが、現実問題として、多くの人間は一度手にした豊かさや便利さを失うことはできないであろう。

 IPCCの評価報告書によると、このまま人間活動による温室効果気体の排出が続けば、将来地球の気候と環境が大きく変化し、人間の生活基盤が損なわれる恐れがある。このため、国連気候変動枠組条約(地球温暖化防止条約)が締結され、温室効果気体の排出削減に向けた国際的な取り組みが続けられてきた。しかしながら、温室効果気体の中でも最も大きな効果を持つ二酸化炭素の排出は、現在の経済活動の根幹をなす化石燃料の燃焼とリンクしているため、対策はなかなか進まないというのが現実である。先進国と途上国の溝は深まる一方であり、新興国による二酸化炭素の排出は増加の一途をたどっている。地球全体での二酸化炭素排出削減を実現するためには、中国やインドといった新興国の排出をいかに抑えていくかが鍵となるが、先に豊かさを手に入れた先進国に新興国の経済発展を制限する権利はない。ここで解決策として期待したいのが、デカップリングという考え方である。これは経済成長と二酸化炭素排出を切り離す(decouple)という意味で、OECD等によって提唱された持続可能な発展の一つの概念である。同じ規模の経済活動でも資源やエネルギーの使用量を減らし二酸化炭素の排出を抑えようというわけだが、この様ないわゆる省エネに関しては、日本は非常に高い水準の技術を持っており、今後こうした技術を活かして世界に貢献していくべきであろう。「地球にやさしい」などという言葉でごまかすことなく、地球温暖化は人類の未来にかかわる問題であると認識し、実効性のある方策を講じていきたいものである。

中野 智子(なかの・ともこ)/中央大学経済学部教授
専門分野 地球科学、気候学
北海道出身。1990年北海道大学理学部卒業。
1992年北海道大学大学院環境科学研究科修士課程修了。
1995年北海道大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)(北海道大学)。
首都大学東京都市環境学部助教、中央大学経済学部准教授を経て2011年より現職、現在は自然の中での二酸化炭素循環に興味を持ち、モンゴルの半乾燥地域の草原を対象として研究を行っている。日本農業気象学会、アメリカ地球物理学連合などに所属。