トップ>オピニオン>日本の優れた環境技術は、なぜ海外で売れないのか?
佐々木 創 【略歴】
佐々木 創/中央大学経済学部准教授
専門分野 環境経済学、国際公共政策
民主党前政権下の「日本再生戦略」においても、自民党現政権下の「成長戦略」でも日本の優れた環境技術を海外展開することが掲げられている。これに伴い、経済産業省や環境省等によって、環境関連ビジネスの海外展開に関する研究会や実証事業等が数多く実施されている。私は前職のシンクタンク研究員において、関連する政府間対話の支援や環境関連ビジネスの事業化に携わり、現在でも経済産業省や環境省の関連事業に関わっている。これらの経験から、日本の優れた環境技術が海外で売れない要因について、専門分野である環境経済学、国際公共政策の視点から考察したい。
各種の研究会や実証事業の報告書には、「途上国では環境関連法が遵守されてないから」とか「途上国の市民の環境意識の向上が不可欠」、「途上国では知的所有権保護が徹底されず模倣品が流通する」など、日本の環境技術が海外で売れない要因を途上国側に求める記述が散見される。
しかし、仮にその通りだとしても、途上国市場において同じ土俵で勝負しているはずの欧米企業どころか韓国や中国の環境企業にさえ、日本企業が後塵を拝している理由にはなり得ないであろう。したがって、日本側の参入戦略に売れない要因があるはずだ。
一般に、ビジネスマッチングはニーズ(技術が欲しい)とシーズ(技術を持っている)の摺合せが必要である。ただし、環境分野におけるニーズとは、通常、1)環境技術を使うユーザーと、2)その環境サービスを利用するカスタマーに分かれている。つまり、日本側の環境技術シーズと1)と2)の3つの領域が重なった技術を導出するための入念な市場調査が求められる。このマッチングは他のビジネスと比較して、先行事例が少ないため困難になることが多い。
さらに、この市場調査の多くは途上国側にニーズが顕在化していないため、「なぜ環境技術によって環境改善を図らなければならないのか」と理解してもらうタフな交渉が必要だ。さらに、うまくニーズを顕在化できても、「日本の環境技術は高いスペックであるが価格も高い」と交渉が頓挫することも頻繁に起こる。
省エネルギーやリサイクル技術によりコスト削減に資するビジネスマッチングができたとしても、その投資効率は数%、高くて5%もあれば、低金利に慣れてしまった日本企業は途上国でも売れると判断する。しかし、途上国の実質金利は環境設備の投資効率よりも高いため、現地企業は生産設備などの別の投資を選択してしまう。途上国の実質金利が低下するには、まだ時間を要するであろう。したがって、核となる要素技術は日本から輸出するにせよ、パイプなどの関連設備は現地調達することによってコスト削減し、初期投資を下げ、途上国の実質金利と同等以上に環境設備の投資効率を上げることが求められる。
日本の環境技術が海外で売れない要因は、日本の環境企業の問題だけに留まらない。
日本国内の環境関連市場に目を転じれば、環境サービスの提供者(=環境技術を使うユーザー)の多くは行政である。対して、途上国の環境市場で先行している欧米や中国・韓国では、官民連携(PPP:public-private partnership)により、民間企業による環境サービス提供が主流になっている。
つまり、日本では環境サービスのノウハウの多くは、行政内に蓄積されている。したがって、PPPにより環境インフラを整備しようとする途上国市場に日本企業が参入するためには、行政との連携が不可欠となることが多い。また、途上国の環境関連法の執行能力を向上させる上でも、行政との連携は肝要となる。
この点は、各種の研究会でも指摘されており、2012年から「元気が出る援助」を標榜している国際協力機構(JICA)も政府開発援助(ODA)において、官民連携を推進する方向性が示された。
しかし、行政との連携だけでは十分とはいえない。私は途上国の環境プロジェクトを調査・研究している中で、欧米の援助機関が自国の環境関連企業との連携だけでなく、大学研究者も交えてプロジェクト形成の初期の段階から産学官連携で取り組んでいることを目の当たりにしてきた。また、海外の国際学会で欧米の環境関連企業がスポンサーとなり、援助国と途上国双方の政府関係者、企業、研究者が同じセッションで発表し、自らのプロジェクトがどれだけ環境改善に効果があるかをアピールし、横展開につなげていた。このような産学官連携の環境プロジェクトは、日本ではほとんどないといって良い。
持続可能な社会を構築するためには、持続可能なビジネスを創出することが不可欠な要素である。日本の優れた環境技術を海外展開し途上国の環境改善することは、グローバル経済社会において、Win-Winとなるはずだ。そのためには、産学官連携によるグローバル環境ビジネス展開が今後より一層必要となってくると考えている。