トップ>オピニオン>コンビニは元気で、デパートに活気がでないわけ-経済空間の視座から-
石川 利治 【略歴】
-経済空間の視座から-
石川 利治/中央大学経済学部教授
専門分野 応用経済学
これまで経済活動の立地や都市体系を理論的に分析してきています。昨今の各種産業の立地的変化を概観しますと理論分析の結果と比較的良く符合し、いくつかの事柄を首尾よく説明できそうに感じ筆を執ったしだいです。
日頃利用する小売経営を取り上げ、なぜコンビニは元気で、デパートには昔の活気がないのかを簡潔に説明し、都市体系の在り方に話題を展開したいと思います。
小売経営をコンビニ、スーパーそしてデパートに大きく分けましょう。それぞれ次の特徴づけができます。コンビニの扱う財は低価格で、利用者は主として利便性から商品を購入します。コンビニ店舗間の距離はかなり短いといえます。スーパーでは日用品や食材などが中心に品揃され、利用者は定番となっている商品を購入し、店舗間距離は比較的長くなります。デパートでは高価格の財やブランドを有する商品が多く販売され、利用者は価格に気配りしながら商品に対する好みを最大限重視し購入商品を選択します。店舗は顧客密度の高い商業地区では複数併存しますが、それ以外では店舗間の距離はかなり長くなります。
これらの特徴の相異は各分野における小売経営間の競争様式の違いに関連しています。すなわち、あるコンビニ経営が価格を1円下げ、品揃を1単位増やすという変更を予定する場合、競争相手も同様な変化をすると予測し変更を実行すると考えられます(レッシュ型競争様式)。スーパー経営では競争相手は何も変化させないと予測し価格や品揃水準を変更します(ホテリング-スミシーズ型)。デパート経営は価格と品揃水準の変更を行う場合、競争相手は逆方向の変化を行うと予測すると想定されます(やや奇異に感じられますが、グリーンハット-オータ型と呼ばれます)。各様式で小売経営間における競争が進展してゆくと、各経営が折り合う均衡状態がそれぞれ生じ、その状態は各分野での典型的特徴をよく表現することになります。
交通機関の整備などにより生じる運賃率の断続的低下が各分野の小売経営へ与える影響を競争均衡下でそれぞれ分析すると次の結果をえます。すなわち、運賃率の低下により、
これらの結果は興味深いもので、低下する運賃率の作用に関して次の結論が導出されてきます。
一口に競争といっても性格がかなり異なるわけです。なお、ここでは詳しく論じませんが、地域の人口密度が低下すると上記の各種経営に必要とされる市場地域はそれぞれ拡大します。したがって既存の各種小売経営の内いくつかが地域から退出することになります。当然ですが、人口減少は各種の小売経営数を減らし、消費者の買い物距離は伸び地域経済にとって大きな問題を引き起こします。
かつて大都市には多くのデパートが立地し、比較的大きな都市では2つほどみられました。経済社会が発展し交通機関が整備されるにつれ、各デパートはより広い市場地域を必要とするため大都市ではデパート数が減少し、中都市ではデパートが消失する事態になりました。大都市では生き残ったデパートが規模を拡大し、消費者の多様性選好の傾向に助けられ、その賑わいを維持することが可能です。しかし、中都市のデパートは同規模都市にある競争者と大都市のデパートとの競合で苦戦し退出する危険性が高く、比較的外的条件の悪い都市のデパートから退出することになりました。
中都市のデパートは周辺地域における商業活動の代表的役割を果たしてきており、その消失は中都市の小売機能を低下させ、都市全体の経済活動を衰退させることに繋がります。このことは都市体系を大きく変えることになります。すなわち地域から中都市が消え、大都市と小都市で都市体系が構成され2極化するわけです。
中都市の衰退は工業立地の変化にも起因していますので、少なからざる中都市の経済的基盤は揺らいでいると思われます。中都市の衰退により2極化された都市体系は経済効率面からは支持されますが、地域社会全体を考慮した健全性の視点からは必ずしも望ましいとは言えません。地域活性化の観点から中都市を復活させる経済的基盤の形成が急がれます。