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中村 博 【略歴】
中村 博/中央大学ビジネススクール教授
専門分野 マーケティング
近年、かつての小売業のエースであった百貨店やGMSなどの大型店の業績が伸び悩む中で、オンラインによるネット・ショッピングが急速に成長しています。今日、誰でも一度は楽天やアマゾンなどのネット・リテーラーから商品を購入した経験があるのではないでしょうか。アパレルや書籍、家電、化粧品などネットで購入される割合が高くなってきています。日本最大のネット・リテーラーである楽天はすでに売上が一兆円を超えました。また、日本のアマゾンも公表はされていませんが2012年度の売上は約7,000億円に達し、1兆円の売上に達するのは時間の問題です。ちなみに、百貨店の高島屋の売上は約8,000億円ですから両企業とも大手小売業の仲間入りをしていることになります。また、その成長度合いは他の小売業態を大きく凌駕しています。
その成長要因は、ロングテール商品を扱い、品揃えの幅に制限がない(幅広い品揃え)、常に他のネット・リテーラーの価格をロボットがチェックしており、最も安い価格で販売する、そして、顧客の情報探索や購入履歴をデータベース化することによって得られるビッグデータから最適な商品を推薦するレコメンデーション機能の充実や迅速で低コストの配送サービスを実現するロジスティククス機能などがネット・リテーラーの成長を支えています。
また、食品でも他の商品に比べるとまだその割合は低いですがスーパーマーケットやコンビニエンス・ストアがネットによって注文を受けて宅配をしてくれるようになってきています。まだまだ、黒字化しているネット・スーパーは少ないようですが、イトーヨーカ堂のネット・スーパーがようやく黒字化したと言われています。
今やネット・ショッピングの売上高はすでにホームセンターやドラッグストアの総売上高とほぼ同じ規模であり、百貨店の総売上高約7兆円を上回りました。しかも、成長度合いは高くコンビニエンス・ストア業態と同じ程度です。ネット・ストアは小売ライフサイクル上の導入期を経て成長期に突入しており、これからの小売業態の主役になることは間違いありません。
さて、一般に買物をする時に我々は店内外を問わず購入する商品の情報を探索し、そして、気に入ったブランドを購入します。これまでリアルの店舗に来店し、店内で情報探索をし、ブランドを購入してきました。最寄品では約70%の商品が店内で情報探索され、購入をするという調査結果があります。
しかし、インターネットやスマートフォンの普及で購入の方法が激変しています。例えば、家電はヤマダ電機などの量販店で商品を確認し、実際の購入はその店舗のネット・ショッピングで購入するあるいは、アマゾンで安く売っていればアマゾンから購入するといった買い方をする消費者が増えてきています。あるいは、化粧品を百貨店の化粧品売り場で試してみて、よければネットで購入するといった購買経験をもつ消費者は増加しています。このようにリアル店舗で商品の情報を探索し、ネットで購入をすることを「ショールーミング化」と言います。「ショールーミング化」は、価格競争を激化させる可能性がありますし、また、競合店舗と同じ商品を品揃えしているとショールーミング化されるのでプライベート・ブランドなど自社のオリジナル商品の増加を促すことになります。ナショナル・ブランドのメーカーにとっては重要な課題となります。
また、ネットで商品の情報探索をしてリアルの店舗で購入をするあるいは、ネットで商品の注文を行いリアル店舗で商品を受け取るといった買い方も増加しています。このような買い方を「O2O」と言っています。例えば、O2Oを利用したプロモーションにYahooとSoftbankが実施しているウルトラ集客というサービスがあります。これはYahooのトップ画面にサンプリングされる商品が掲載され、関心をもった消費者がその商品をクリックするとQRコードがスマートフォンに送付され、そのQRコードを店舗に設置されている読み取り機に読ませるとサンプルの引き換え券がもらえる。その引き換え券と店舗に陳列されている商品をレジにもっていくと無料でその商品が買えるという仕組みです。サンプルの引き換え券は読み取り機が設置されている店舗のみでもらえるので、店舗のお客さんを増やすことにつながるわけです。
このように、今日消費者は欲しい商品をいつでもどこでも購入できるようになってきました。これを「小売のシームレス化」と呼ぶことにします。「小売のシームレス化」が普及する中で、小売業にとってネットを中心としたITへの対応が適切にできない小売業は3年から5年以内に淘汰されるでしょう。
重要な点は「小売のシームレス化」の時代にはリアル店舗およびネット店舗に来店する消費者の購入履歴データやネット内の情報探索データあるいはソーシャル・メディアへの書き込みデータなどのビッグデータが入手できるようになってきた点です。これらのデータをどのように企業経営に活用していくか、とくに、これらのビッグデータを分析し売上を増やすことのできるデータ・サイエンティストの役割が重要視されてきています。データ・サイエンティストの絶対数は世界的に不足しており、今後、人材の確保やその教育が急務となってきています。