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宮野 勝

宮野 勝 【略歴

2012年衆院選結果の一つの見方

宮野 勝/中央大学文学部教授
専門分野 社会情報学、社会調査法、政治社会学

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 数日前に衆院選があった。2012年12月16日の第46回総選挙である。詳細な分析は今後の諸研究を待たねばならないが、今回の衆院選結果のうちで特に注目している点を、選挙の一つの見方として、示してみる。主なテーマは、1)自民党は本当に勝ったのか、2)「第3極」に「風」は吹いたのか、3)棄権者は選挙結果に影響したのか、4)民主政治の将来、という4点である。

1)自民党は本当に勝ったのか?

 結果に関して「自民圧勝」という見方が少なくないようだ。しかし実は選挙の勝ち負けを論じるのは簡単ではない。選挙における勝ち負けの「基準」が不明確だからである。たとえば1998年参院選は、自民党が「大敗」したと言われ、選挙後に橋本総理が退陣した。しかし、総議席数では1995年参院選と「大差ない」ともいえる結果(46名が44名に)であったわけで、「大敗」か否かは比較される基準(たとえば事前の期待の高さ)次第である。

 今回の衆院選は、自民党が480議席中の294議席(61.3%)を獲得しており、全体の議席数で大きく過半数を超えたという意味では、自民党の 「圧勝」であった。とりわけ小選挙区では237議席(79.0%)を獲得している。

 これに対して比例選の結果は、自民党は議席率で31.7%・得票率では27.6%であった。これらは、自民党は(今回は比較第一党ではあったものの)、「大敗」とされた前回2009年衆院選の比例選の議席率30.6%・得票率26.7%とほぼ同じ結果である。得票率・議席率ともに三分の一にも届いておらず、自民党は比例選では「民意」を得ることに失敗したと言えるだろう。

 小選挙区選では「圧勝」だが比例選では「大敗」とすると、果たして自民党は勝ったのか負けたのか。通例の見方は、安定多数の議席を取ったという観点から「圧勝」とみるわけだが、「比例選は直接的に政党に対する民意を反映している」と考えることもできるわけで、「民意」という点では比例選を無視するわけにはいかない。今回の選挙結果は、全体としては自民党の単純な勝利とはいえない。

2)「第3極」に「風」は吹いたのか?

 今回の選挙で注目された「第3極」は、結局は「乱立」し、有権者は戸惑ってしまって「風」は起きなかったという見方もある。どの勢力を「第3極」とするか異論がありうるが、ここでは、「維新」と「みんな」と「未来」と解釈しておこう。

 さて、結果としての投票率が大きく下がったことは、組織票が相対的に少ないであろう「第3極」には不利な選挙になったと思われる。しかし、それにもかかわらず、比例選だけで見ると、「維新」と「みんな」の得票を合わせただけで29.1%になり、自民票を越えている(「図1」参照)。自民党に投票した有権者よりも、「維新」プラス「みんな」に投票した有権者の方が多かったということは、大変なことである(「未来」まで加えるとさらに増えて34.8%になる)。図1を見る限り、選挙の結果、「第3極」が第1極になり、自民党が第2極、民主党が第3極になったとも言える。

 比例選で見る限り、「第3極」全体としては、かなりの「風」が吹いていたと言えるのではないか。投票率が低い中で「第3極」が全体としてこれだけ票を伸ばしたことは、驚きに値すると考えている。「新党疲れ」とか「新党離れ」と言われ、新しい政党に対する警戒感も強い中での得票であり、既成政党に対する失望の大きさを物語っているように私には見える。

図1:2012年衆院選の比例区得票数より

3)棄権者は選挙結果に影響したのか?

 投票率は59.31%で、前回の2009年総選挙と比べて約10%下がり、「戦後最低」であった。もっとも、1996年衆院選が59.65%、2003年衆院選が59.86%であり、これらとほぼ同じともいえる。投票率が10%下がるということは、有権者数でいうと約1000万人が投票から棄権に変わったということを意味している。これもまた大きな数字である。

 これらの人々が投票していたら、と想像することは、思考実験として興味深い。棄権者には政党支持なしの人が多いと推測され、マスコミ各社の出口調査の支持なしの人の投票行動を見ると、(そして「第3極」が300小選挙区で統一候補を立て、有権者の「戸惑い」を減らすことに成功していたら)全体の議席の配分もどうなっていたかわからなかった(それが望ましい結果だったかどうかは立場によるとして)可能性がある。

4)民主政治の将来

 「素晴らしい」政治家や政党が並んでいれば、『老子』の桃源郷のように、有権者はのんびりして政治に無関心でも、生活を謳歌できる。しかし「民主政治」はそのような制度ではない。有権者の言動が様々な形で政治に反映されていく。棄権も言動の一つであり、好むと好まざるとに関わらず、私たちは政治の中で生きている。有権者は、既成政党や新党に失望することもできるが、彼らに期待しつつ「育てる」こともできる。財源の裏付けがないなど「実現可能性が低い公約」を掲げる政党に票を入れない、などによって「公約」の質を高めることも可能である。有権者全体としての応答が、日本の民主政治の将来を大きく左右する。

 筆者は、年代別投票率に注目しているが、2012年選挙については、まだ明らかではない。明るい選挙推進連盟のHP(http://www.akaruisenkyo.or.jp/070various/071syugi/693/ 2012年12月21日閲覧)に、第31回以降の衆院選について年代別投票率が掲載されている。これによると、1996年・2003年の投票率が低かった2回の衆院選では、20歳代の投票率は平均約36%(70歳以上の投票率は平均78%)である。投票率が高かった2005年・2009年の2回の衆院選では、20歳代の投票率は平均約48%に上昇した(70歳以上の投票率は平均84%)。今回はいかがであろうか。

 国の将来を見据えた、若者を大事にする政治を期待しているが、若い人の投票率が低いと、選挙に勝たなければならない政治家は、高齢者を向いた政策を大切にするようになりかねない。多くの若者が選挙に参加する仕組みを作り出すことも、日本の政治の大きな課題であろう。

宮野 勝(みやの・まさる)/中央大学文学部教授
専門分野 社会情報学、社会調査法、政治社会学
神奈川県出身。1952年生まれ。1975年東京大学法学部卒業
1982年東京大学大学院社会学研究科博士課程中退。(社会学修士)
北海道大学文学部助手、東海大学文明研究所専任講師、
中央大学文学部助教授を経て、1994年より現職。
現在の研究課題は、社会意識・政治意識(特に、政治や選挙に関連する世論、財政に関する世論など)と、社会の在り方のとの関係の解明である。
また、主要著書に、『選挙の基礎的研究』(編著)中央大学出版会 2009年 などがある。