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トップ>オピニオン>「被災地の子どもたちにクリスマスカードを届けよう!」の参加型支援と新たな取組み

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田中 拓男

田中 拓男 【略歴

「被災地の子どもたちにクリスマスカードを届けよう!」の参加型支援と新たな取組み

田中 拓男/中央大学名誉教授
専門分野 国際経済学、開発経済学、国際経営論

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参加型支援の広がり

 昨年のクリスマスの頃には、世界中から寄せられた美しいクリスマスカードの山に埋もれて感謝と感動の時間を過ごしていました。その凄い状況を読売新聞のカメラマンも熱心に写真に収めていました。みなさんご協力ありがとうございました。今年のクリスマスには、昨年届けた宮城の子どもたちに加えて、悲惨な原発事故によって非常に辛い思いをしてきた福島の子どもたちにもみなさんからの慰めと応援のクリスマスカードを届けたいと思っています。

「国境を越えて心と心をつなぐクリスマスカード“メリークリスマス&ハッピーニューイヤー”」
送り先住所:〒963-8004福島県郡山市中町14−18 尚志高等学校 杉原長次様宛
(英文).To MR. CHOJI SUGIHARA  SHOSHI HIGH-SCHOOL
14-18 Nakamachi , Koriyama-City、FUKUSHIMA Pref.. JAPAN 963-8004

 1万8千人を超える尊い命を奪った東日本大震災の激しさに世界中の人々が驚愕・悲嘆し、大々的な緊急支援活動に取り組みましたが、その後も多くの人々は、自分に何かできることがないか、と被災地のことを深く案じていました。まさにその時に私たちからカードの呼びかけを受けたので、熱い共感・支援の波紋は凄い勢いで世界中に広がっていきました。そして、48カ国から3万通弱のクリスマスカードが届けられ、甚大な被害を受けた宮城県の小中学校106校の生徒全員に届けることができました。

 長年国際協力の問題で参加型開発を取り上げてきましたが、今回の活動を通じてもっとも深く心に残ったのは、「知行情意」の参加型支援による大きな力でした。地球規模の大災害が起こった時には、地球市民一人一人が自分個人の問題として積極的に被災地の支援活動に参加し、それぞれの強い意志と深い智恵と温かい心を込めてすぐに行動に取りかかるのです。そこには地球市民の共通した価値観である、人間の命をもっとも大切な宝としてお互いに思いやり助け合うという基本的な理念がしっかり根付いているようです。

 世界各地からすばらしいアイデアによる主体的な活動が伝えられています。私の日本文を中国語、イタリア語、ロシア語、スウエーデン語など現地の言葉に翻訳してすぐにネット上で流したり、震災時に行った災害支援ボランティア活動を再開してカード書きのイベントや支援活動の場を持ったり、市当局の幹部も同席させて記者会見を開いたり、また、これは海外で何もできない自分たちが率先して取組むべき活動であったと反省しながら、情報網をフルに使ってカード集めに奔走したり、その活動は他人から依頼されたものではなく自らの強い思いとアイデアで主体的に参加するという意欲・熱意に溢れていました。国内でも、ある知事は「おれが書く!」とすぐに連絡を入れてくれ、そのすばらしい決断力・共感力・行動力に圧倒されましたが、幕末の志士阪本龍馬が被災地への応援団長になって扇子を振り上げている絵など、ユニークなお国柄を表したアイデア抜群の知事カードが次々に届いて大感動でした。西本願寺、総持寺、長谷寺などからは心の籠った慰め励ましの「色紙」を頂戴し、亡くなられた人々へのよい供養にもなりました。

被災地の子どもたちの意識変化と贈る側の防災意識の向上

 被災地の小中学校は、当時まだ大混乱から完全に立ち直っていない様子で、カードの贈り主へ子どもたちから直接返事は書けないことを心苦しく思いながら、カードを受け取った子どもたちの喜びと感謝の気持ちなどを記した校長からの丁重な礼状が次々に届きました。そして、子どもたちは、今度は“仲間と困難を乗り越えて、皆様の恩に応えられる、支える人になりたい”と前向きな気持ちになっているようで、非常に嬉しい知らせです。カード展示場で、ハンガリーの学校に行って直接カードを集めて来たスタッフに対して、子どもがどうしたらお姉さんのような人になれるのかと質問してきました。どうしてと聞くと、「こんな風に、見知らぬ自分たちに、世界中の人が声をかけてくれて、助けて、励ましてくれて。だから、私もいつか世界のどこかで困ってる人を助けられるようになりたいんです」と。ここから地球社会のために働く国際協力の有為な人材が生まれる契機になることを期待しています。

 学校全体で大量のカードを書いて送ってくれた小学生たちは、その後自主的に校内放送を通じてみんなのお小遣いを集め、被災地の子どもに渡して欲しいと結構な資金を持ってきました。最近大地震の迫る危険性が度々具体的に報道され、防災教育の重要性・必要性が指摘されていますが、ただ教室の中で防災の話を聞くだけでなく、自分の体を動かして実際に大きな被害にあった仲間の子どもたちに対してカードを書いたり行動することで、防災に向けた意識がより明確に子どもの心の中に定着すると考えられます。今度のカード書きはそのための良い契機になったそうです。

福島市民の孤立感とクリスマスカード展示会

 福島市民の意識調査では、8割の人が、福島は外部世界から孤立している、また、子どものことが非常に心配、と回答しています。今年の活動では、日本中、世界中の人々の暖かい連帯の心をこんな福島の親子にもっとよく知っていただくために、クリスマスカードの展示会を長期間に県内各地で数多く開催することにしました。特に常時子どもたちが集まっているイベント・展示用大規模施設「福島市子どもの夢を育む施設 こむこむ」とは、副市長のご協力を得てカード展示のイベントを共催することになり、海外からの美しいカードの展示保存も考えています。多くの人々の協力を重ねてお願いします。

田中 拓男(たなか・たくお)/中央大学名誉教授
専門分野 国際経済学、開発経済学、国際経営論
和歌山県出身。 1937年生まれ。 1961年慶応義塾大学経済学部卒業
1963年慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。
1967年慶応義塾大学経済学研究科博士課程単位取得
その後、中央大学経済学部助手・専任講師・助教授・教授を経て
2002年~2006年中央大学大学院経済学研究科委員長
2008年定年退職、中央大学名誉教授
現在の研究課題は、国際経済の諸問題ですが、特にアジア・アフリカの貧困削減問題を取り上げ、コミュニティ開発問題など、アジアの実地のケーススタディを通じて開発戦略を幅広く考察している。主要著書に、『開発論;心の知性 ~社会開発と人間開発』(<中央大学出版部>2006年)などがある。