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上林 靖子

上林 靖子 【略歴

発達障害をもつ子どもの通級支援に期待

上林 靖子/中央大学文学部教授
専門分野 児童・思春期精神保健学、発達障害学

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 今日の特別支援教育は、2007年4月に施行された改正学校教育法の下で出発しました。この骨格の大枠は、「特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議」(平成13年10月~平成15年3月)の最終報告に基づいており、引き続き4年にわたる全国規模での試験事業が、中央指導で展開されました。私はこの調査研究協力者として協議に加わり、その後、千葉県での支援教育システム作りにも協力し、児童精神科の臨床に携わったり、この流れに、強い関心を寄せ続けてきました。

特別支援教育の理念:共生社会の基盤として

 特別支援教育は、児童生徒一人ひとりの教育的ニーズを把握し、適切な指導と必要な支援を行うと謳っています(特別支援教育の推進について(通知)19文科初第125号、平成19年4月1日)。対象となる障害は、従来の特殊教育の対象であった障害に、知的な遅れのない発達障害(ADHD、学習障害、自閉症)が加わり、障害のある子が自立してゆくための教育であると明記されています。

 この前書きは「特別支援教育は、…障害の有無やその他の個々の違いを認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形成の基礎となる…重要な意味を持っている。」と共生を掲げています。前段では障害児教育として位置づけていますが、その先に共生社会を目指す観点に立っており、新しい時代への歩みを感じさせられました。近年では、家族の病気、失業や貧困、両親の不和などの環境要因にも配慮して支援している例に出会うようになっています。

発達障害をもつ子どもの学校生活――通級による指導を中心に――

 特別支援教育が施行されて5年、このシステムづくりはモデル事業を展開させながら、研修・啓発を繰り返して進められ、予定通り、とにかく施行に至りました。ここでは通級による指導の実態とその課題についてふれることにします。

通級指導教室への期待、校内通級で拡がる支援

 文科省の調査によると通級指導教室を設置している学校数は、年々増加しています。平成23年度の調査結果では過去3年間に25.5%の増加です(平成23年度通級による指導実施状況調査結果について 初等中等教育局特別支援教育課)。公立小・中学校の設置校の割合をみると、9.6%、およそ10校に一校という実状が見えてきます。通級児を自校通級か、他校通級かの通級形態別に見ると、自校通級が42%、他校通級が53%です。設置校に在籍する子どもは、利用しやすいが、非設置校に在籍する子どもには利用しにくいことを物語る数値です。支援教育の利用可能性にはこのような格差があることはしばしばメディアでも取り上げられ、早急な対応が求められているところです。

 通級指導教室は校内通級の子どもにとっては時として、困難な状況に直面したときの自己をコントロールできる場としての機能も果たすこともあります。設置校の方が、障害に対する支援が日常的にも受けやすいので、わざわざ区域外から就学していることもしばしば耳にすることがあります。

通級指導教室へのニーズは高まる

 発達障害の出現率は、最終報告には6.3%とされていますから、どの学校にもいると認識されるものです。実際には、支援教育が始まって、気になる子どもは増えています。その要因は様々ですが、教育的ニーズについての認識が教師に浸透してきていること、就学前に気づいて発達支援センター等で相談をうけてきた、幼稚園保育園にも専門家が巡回するシステムがあり、就学後にも支援継続を期待されるなどもあります。複数の領域の教育的ニーズを持ち合わせているなど、障害診断基準にも、見直しが求められている状況もあります。通級指導を希望しても待機のまま1年2年と過ごしている子どもも出ています。実態として、通級指導が必要な児童数、そのための指導教師をどのように養成するのかなど問題は山積です。

児童期からの指導に期待する

 私が、児童期に通級による指導が大きいと感じるのは、以下の3点からです。

① 子どものソーシャル・スキルの実践的学び、あるいは補充的な学習が自尊心を育むことに繋がる。
② 後の青年期の自己認識に肯定的な影響をもたらすと期待できる。
③ 共生社会の実現にむけて、定型発達の子どもたちにとっても、障害理解のための体験として意味を持つと思われる。

 この稿をおこしながら、私はクリニックで出会った沢山の子どものことを思いうかべました。何人かの成人した人、大学生、高校生など、まだまだ自立までにはいくつもの壁にぶつかるであろうと思われます。それでもここまで歩んで来られた背景には、その子の目線からの指南役を根気よく果たしてきた親御さん、理解者となり得た教師、地域の仲間がいます。児童期早期に発達障害に気づき 早期からの療育を受け、身につけたスキルが、彼らの暮らしやすさの基盤となることを期待して止みません。

上林 靖子(かんばやし・やすこ)/中央大学文学部教授
専門分野 児童・思春期精神保健学、発達障害学
1967年東京医科歯科大学医学部卒業後、70年より国立国府台病院小児科非常勤医師、72年より同病院精神科非常勤医師。その後国立下総療養所医員と埼玉大学教育学部非常勤講師を併任し、国立国府台病院医員(精神科)、国立精神衛生研究所児童精神衛生部室長、国立精神・神経センター精神保健研究所児童思春期精神保健部長、千葉大学教育学部非常勤講師を経て02年より中央委大学文学部教授。医学博士(千葉大学)。主な著書に、『発達障害の子の育て方がわかる!ペアレント・トレーニング (健康ライブラリー) 』、『AD/HDとはどんな障害か―正しい理解から始まる支援 』等がある。