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トップ>オピニオン>コンピュータ支援3D内視鏡で「がん」に立ち向かう

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鈴木 寿

鈴木 寿 【略歴

コンピュータ支援3D内視鏡で「がん」に立ち向かう

鈴木 寿/中央大学理工学部教授
専門分野 サイバネティクス

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「がん」に立ち向かう

 「がん」を患っても外科手術すればよい。外科療法以外にも放射線療法や化学療法がある。それで抑え込めなくとも延命はできる。さらには緩和ケアもある。「がん」を患ったからといって人生終りというわけではない。長年蓄積され日進月歩の多様な治療方法が、現代にはある。ひょっとすると一病息災のほうが長生きできるかもしれない。「がん」にもいろいろあるが、概ね他の病にくらべて、かなりの時期までQOL(生活の質)は高いという。

 逆に、それゆえ「がん」には気付きにくい。だから「がん」検診は大切だ。命を全うしたければ「がん」検診を受けるべきだ。あらゆる厄病から逃れ得るわけではないが、しかし不意に襲ってくる何かを避けることはできる。もう十分生きてきたなどと、うそぶくものではない。生かされていることに素直に感謝し、自身がこの世でなすべきことを考えよう。

周囲の理解があれば活動できる

 細胞がプログラムされた終末を迎えるのは、生き物がその形を保つための必定であり、ゆえに、プログラムがまれに暴走するのも宿命だ。人はどれほど健康的に生活しようと「がん」を患うリスクを負っている。だから、私に憐れみなど要らぬ。

 ただ、後遺症が残ることはある。私が貯蔵器官の胃の半分を失ったこと自体は、大したことではない。問題は、胃の出口の弁を失ったことだ。食べ物がそのまま腸に降りていくと、急に血糖値が上がり、次にインスリンが出て、今度は急に血糖値が下がる。脈拍が上がり、体温は下がり、なぜか暑いと感じる。ああ、気持ち悪い。ふらつく。ダンピングは辛い。しかし、慣れてくるものだ。適切なタイミングでバナナをとれば回復する。頭脳を使っていると、急に意識が飛びそうになることもあるが、バナナさえあれば問題ない。周囲の理解があれば、問題ない。憐れみは要らぬが、外からは見えない障害を理解してもらえれば、それで良い。体の一部を失えば特有の障害が残る。他の「がん」も大なり小なり似たようなものだろう。

 それでも、「がん」を患ったからといって活動力は衰えぬ。むしろ、日常の時間が凝縮されて感じられるようになる。私は、この世で、いったい何ができるだろうか。そうだ、わが学生と共にコンピュータ支援3D内視鏡をつくろう。人生観を変え同時に生きる喜びも与えてくれた憎き「がん」を支配するための、有益な道具を、この世に創り出そう。

コンピュータ支援3D内視鏡があれば

 双眼実体(顕微)鏡を覗き込んだり眼鏡を装着するような、3Dデータを生成しない従来の左右画像並行伝達方式の立体内視鏡とは対照的に、もしコンピュータ支援3D内視鏡が実現できれば、本質的には入出力の独立性に由来するさまざまな長所が生まれる。

【広視野】 立体視可能領域は、内向き配置された左右の撮像素子への入射光軸が交差する点付近に限定されず、平行配置された左右の撮像素子間の共通視野全域に及ぶ。

【技巧不要】 両眼視差による立体感を増すべく極力手前を撮影すると共にやや寄り目で観察するといった従来の左右画像並行伝達方式におけるような技巧は、不要。

【出力汎用性】 出力部に、どのような方式の3D表示装置も利用可能。

【任意視点】 入力時の視点とは独立に、出力時に任意視点からレンダリング可能。一斉に多人数が各自の任意視点から観察可能。

【奥行加工性】 3Dデータを加工することにより、奥行感や凹凸を強調するための奥行方向の部分的拡大が自在にできる。検査や手術において凹凸は重要な手掛りをもたらす。

【計測性】 3Dデータから直ちに対象物表面の任意の二点間の距離がわかる。

【データ統合性】 対象物表面の3Dデータが実時間で生成できる一方、CTなどの事前採取された対象物内部の3Dデータとも統合可能。

【導入リスク低】 双眼実体(顕微)鏡を覗き込んだり眼鏡を装着するなど観察時に二者択一的に3D表示装置を利用しなければならない制約からは免れ、従来の内視鏡へのオプションとして利用可能。

協力企業あるいはライバルを求む

 生きるためにはお金が必要だが、お金のためだけに生きたくもない。とりあえず、手元のお金で「がん」の治療を受けられたので、あとは、拾った命でせいぜい研究を進めてみよう。協力企業を求む。あるいは、協力が無理なら企業で独自開発しては、どうだろう。情報は開示する。人類の敵「がん」へ立ち向かうのは、誰がやっても良いのだ。

本当にできるのか

 どなたも検索エンジンから「コンピュータ支援3D内視鏡」と入力し、試作物を見て欲しい。非現実的な話では、ない。

鈴木 寿(すずき・ひさし)/中央大学理工学部教授
専門分野 サイバネティクス
宮城県出身。1983年大阪大学基礎工学部生物工学科卒業。1985年同大学院基礎工学研究科物理系専攻生物工学分野博士前期課程修了。1988年同機械工学分野博士後期課程修了。工学博士(大阪大学)。大阪大学基礎工学部助手、東京大学工学部助手・講師、九州工業大学情報工学部助教授、中央大学理工学部助教授を経て1999年より現職。現在の研究分野はサイバネティクス(人工頭脳学)、人工知能(AI)、およびロボティクス(ロボット工学)。主要著書に『知識情報処理の基礎-Cによる多値論理処理-』(培風館、1999年)がある。