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影山 義光

影山 義光 【略歴

自然体験のすすめ

影山 義光/中央大学法学部教授
専門分野 体育学・野外運動・野外教育

自然体験とは

 自然体験とは、自然の中で行われる活動体験の総称なので、登山、ハイキング、自然観察、お茶の野点からご来光体験まで、野外でのありとあらゆることが入ってしまいます。親世代は、当然自然体験を経験している事柄が多いと思われますが、祖父祖母の時代よりは少なくなっていると思われます。現代の子供の自然体験は、どうでしょうか。東日本では、放射能汚染の問題もあり、ますます子供たちの自然体験が少なくなる傾向が顕著となるでしょう。虫を触れない、魚を釣ったことがない、木登りをしたことがない人々が多くなる社会は、自然環境に対して、疑似都市環境のような不自然な環境を求めようとします。自然環境に積極的に関心を寄せる雰囲気は、マスコミを通じて大きくなっていますが、バーチャル的な自然環境をイメージ的に思うだけでなかなか直接体験に繋がらないように思われます。五感を通じて、自然を感じることは人生を豊かにすること思います。自然体験の中でも、散歩を兼ねた自宅周辺の自然観察は、手軽にできる運動も兼ねた自然体験です。さあ!身近な自然観察にでかけましょう。もちろん交通事故やスズメバチなどに対する安全管理は大切ですが、都会であっても公園や街路樹そして庭木なども季節によって変化して行きますし、野生生物のタヌキやアオダイショウなどと偶然の出会いがあったり、おもしろいものです。私も京王線調布駅北口で小さなハヤブサの一種チョウゲンボウを見たり、東京の赤坂見附の交差点の上を悠々と飛翔するオオタカと思われる猛禽類を見かけました。身近な通常の自然を知ることによって、温暖化や異常気象などの自然環境の厳しい変化も感じ取れるかもしれません。学生と行っている自然観察をご紹介します。

中央大学での自然観察

 中央大学校内で、春と秋にハイキングの授業で自然観察をしています。校内林は、コナラ、クヌギ、シデ類の炭材林が中心です。春には、絶滅危惧種に指定されているキンラン、タマノカンアオイ、エビネを筆頭にチゴユリ、フタリシズカ、ギンラン、オカタツナミソウ、ヤマユリの新芽、和菓子の楊枝で有名なクロモジ、サワフタギ、山菜のヤブレガサ、東北地方では山菜のウルイとして有名なギボウシなどが観察されます。校内の自然観察を始めてから、18年ぐらいになりますが、1週間ほど春の開花が、早くなっていると感じています。秋には、ヤマモミジの紅葉がきれいですが、その木々の周りには、実生の小さいモミジが多数観察されます。また、葉の落ちた枝の間には、カラスやキジバトそれにクモの巣で作られた小さなシジュウカラの巣も観察できました。

クヌギ

キンラン

ギンラン

タマノカンアオイ

エビネラン

多摩川での野鳥観察

 近くの多摩川では、聖蹟桜ヶ丘の駅から多摩市の交通公園まで、野鳥の観察ハイキングを春と秋に実施しています。多摩市の交通公園のすぐ下流で、中央大学の南を流れる大栗川が多摩川に合流しています。聖蹟桜ヶ丘の関戸橋では、チョウゲンボウが観察でき、アオサギ、ダイサギ、チュウサギ、コサギ、トンビ、そしてカワウの大群は頻繁に近年観察できました。ハヤブサも一度観察しました。前日に仕留めたコサギを食べに来ていました。里山の鷹で有名なオオタカは、多摩市交通公園で度々観察されています。観察時には、カラスに囲まれ枝にじっとしていました。過去に、オオタカが大栗川にいたヤマセミを捕らえ食べてしまったそうです。ツバメは、2種類観察でき、普通のツバメとイワツバメがいます。秋には、南に飛び立っていませんが、夏には多摩川の河原がツバメの大群のねぐらになっています。大栗川には、カワセミが営巣しており、度々ダイビングして小魚を捕える姿を学生と観察しています。晩秋には、カモ類が多くシベリアから飛来してきます。

ダイサギ

コサギ

アオサギ

トンビ

ネイチャー・スキー(スキーでの自然観察)

 ネイチャー・スキーは、戸隠高原で実施しています。2m以上もある積雪の銀世界の中、テレマーク・スキーをはいて、越水が原や森林公園の一帯を自然観察しています。冬は、雪の上に動物達の足跡が残り、真っ直ぐ一直線に足跡が続くキツネ、ちょっと左右にトボトボと揺れるタヌキ、点々と綺麗に二つの足が並行するテン、胸でかき分けたラッセルの雪の溝の中に、大人の足跡と子供の足跡がつくニホンザルなど他の季節では、観察することができない動物の生態が身近に見られます。また、冬だけしか行けない氷の張った鏡池の真中や藪が深くて積雪期だけしか行けない樹齢約700年と言われているミズナラの大木にも、触れることが出来ます。

キツネの足跡

タヌキの足跡

ウサギの足跡

ネイチャー・スキー

樹齢約700年のミズナラ

フィールドづくり

 授業では、身近な自然に関心を寄せてもらおうと聴覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚の五感を働かせ感じる自然「感察」入門という考えで実施しています。ですから色々な自然物を聞き、見て、香りをかいで、味わって、触って感じて欲しいと思っています。最終的には、自分のフィールドを作ることができ、自分でコース作りができるようになれば幸いと思います。そのフィールド作りの観点として、歴史的観点、地理的観点、動植物的観点などを考慮に入れて欲しいと思います。また、その観点に加えて春、夏、秋、冬の季節を加味すると多くのバリエーションが出来ると思います。そして、その土地の豊かな自然や人々、そしてその自然と人間の相互の関係が、色々な観点から感じられるよう願っています。

運動の目安

 自然観察をしながら毎日の運動の目安として、1分間の心拍数を計測することをお奨めします。最大の運動強度は、220-年齢=最大心拍数の式で簡易的に推定されます。ですから50%の運動強度ですと心拍数を最大心拍数の50%でよいということになります。年齢が仮に40歳とすると最大心拍数は1分間に180拍ですから、50%の運動強度ですと1分間90拍でよいことになります。初めは、50~60%の運動強度を体感しながら、10分から20分ゆっくりとウォーキングしてみてください。徐々に慣れてきたら60分間で、60~70%に運動強度を目安に上げれば、トレーニングとしては充分です。準備体操やクーリングダウンも忘れずに、自分の体調を考えながら、天候なども十分考慮して実施してください。週2回以上12週間続けると体重の減少や循環機能の向上などの効果が現れると研究報告があります。運動しながら、自然観察をして行くと身近な日本の季節が美しく移り変わることが分かると思います。自然を楽しみながら、健康維持・向上の一助にしてください。

影山 義光(かげやま・のりみつ)/中央大学法学部教授
専門分野 体育学・野外運動・野外教育
1954年茨城県生まれ
1981年筑波大学大学院体育研究科体育方法学専攻(野外教育)修士課程修了(体育学修士)
1998年より2000年まで、アメリカ合衆国オレゴン州オレゴン大学のOutdoor Pursuits Programで在外研究
2003年より現職
研究論文:大学キャンプ授業の参加学生の自己概念と孤独感の変化、野外運動研究、日本野外教育学会、2001年、5[1]pp.49-59
テレマーク・スキー滑走中の歪み分布 -テレマーク・ターンとアルペン・ターンの違い-スキー研究、日本スキー学会、2007年、4[1]pp.1-13