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トップ>オピニオン>「被災地の子どもたちにクリスマスカードを届けよう!」キャンペーン

オピニオン一覧

田中 拓男

田中 拓男 【略歴

「被災地の子どもたちにクリスマスカードを届けよう!」キャンペーン

田中 拓男/中央大学名誉教授
専門分野 国際経済学、開発経済学、国際経営論

「クリスマスカード」のお願い

 3月の大震災で一万人を越える多大な犠牲者を出した宮城県を中心に、被災した子どもの心をみんなで暖め、励まそうと思って、世界中の仲間に励ましの「クリスマスカード」(Xmas cards from friends around the world)をお願いしています。今被災地は復興に向けて着実に進んでいますが、被災者の心のケアが深刻な課題になっています。子どもの心にも、あの大津波に対する強烈な恐怖感が深く刻まれており、再び寒い冬がめぐってくると、厳しい寒さの中で悪夢に襲われる子どもが多くなるのではないかと、先日訪ねました小学校・中学校の校長先生が非常に心配していました。そんな時、遠くの見知らぬ人からいただいたクリスマスカードを見ていると、私たちはまだ見捨てられていない、という感動で心が温められ、仲間と一緒にこの悲しみを乗り越えて明日への希望・夢をしっかり描いていこうと、前向けの姿勢が出てくるそうです。是非一人でも多くのみなさんに暖かい心の協力をお願いしたいのです。送り先住所は次の通りです。

〒985-0802、宮城県 七ヶ浜町吉田浜 字野山5-9
七ヶ浜町 災害ボランティアセンター  星 真由美 様(少年少女達へ)
(注;英文の場合には; 〒985-0802 NOYAMA 5-9, YOSHIDAHAMA, SHICHIGAHAMA-CHO,MIYAGI-PREF. JAPAN
SHICHIGAHAMA-CHO Saigai-Volunteer Center,
Mrs. MAYUMI HOSHI (TO BOYS & GIRLS)

 初めて被災地を訪問したとき、あたり一面に全ての家屋敷が完全に破壊されつくされ、名残の土台しか残っていない浜辺の町並み跡に立っていると、夕方の空に美しい大きな虹が架かっていました。そこは美しい白浜の広がる有名な海水浴場だったのですが、地元の方もこんな大きな長い虹は珍しいと一緒に空を見上げて感動していました。この荒涼とした被災地に世界中の人々の熱い思いが注がれている。この空に架かる虹は、その人々の思いを被災地の人々に届ける橋になる。この大きな美しい橋を渡って、世界中の仲間から「クリスマスカード」が届けられる。そう思ったとき、「クリスマスカード」のキャンペーンが始まりました。

鎮魂と復興を願う「畠千春ピアノリサイタル」

 このキャンペーンと同時に、被災地の七ヶ浜国際村ホールで、「畠千春ピアノリサイタル」を開催します。地元の被災者と、3月以来被災地に入って献身的に活動されてきた若いボランティアの方々をお招きして、多くの犠牲者に対する鎮魂と、来年に向けて一日も早い復旧復興をともに祈る場にしたいと願っています。

 被災地の子どものことを常に暖かい心で案じながらも、遠距離のためにこの会に参加できない国内外の仲間たちがいっぱいいますが、彼らと祈りをともにするために、届けられたクリスマスカードを国際村ホールの広いロビーで展示し、一部は会場の子どもたちに手渡されることになっています。貴重な心のこもったカードは、その後に被災地の学校にボランティアセンターを通じて配られます。その後、カードの編集・製本をしてすべての被災地の学校の図書室に寄贈する計画も進んでいます。

 今年のクリスマスは、特別なクリスマス、大震災で犠牲になられた人々を悼んで、世界中で鎮魂のミサ曲が演奏されると思います。ピアニスト畠千春は、鎮魂ミサ曲「レクイエム」の作曲者フォーレの下で長年一緒に演奏活動を続けていた先生から、直接親しく指導を受けられた孫弟子です。コルトーの愛弟子たちから受け継いだ美しい音と確かな構成に定評があります。

イベントの基本理念と基本戦略

 このような企画に取り組むきっかけは、私の長年の研究課題と密接に関係しています。

 ある意味で、今までの研究教育の延長線上で今回の取組みがあるといっても過言ではないです。

 イベントは、「地域に根差し、世界に開かれた」精神、すなわち、地域に深く根差して、家族、近隣、さらに、地域コミュニティの人々の間で、共感・協働・相互扶助の絆をいっそう太くしていく。同時に、外部の世界にも自由に柔軟に開かれ、日本の他の地域の人々、さらに、世界中の人々との強い友情の絆を大切にしていく、イベントはそういう基本理念にたっています。

 具体的な基本戦略には、「復興に向けた三本の矢」の集まりを目指しています。すなわち、被災地の人々、支援する国内の仲間(災害ボランティアなど)、日本を支援する世界中の仲間、この「三本の矢」を束ねて一同に会し、悲しみを乗り越えて復興の来年を迎えられるように、共にクリスマスの祈りを捧げる場になることを期待しています。このような長期的な視点にたって被災地の復興を考えていると、我々の企画も3年程度の継続が不可欠になります。

貧困国の「コミュニティ開発」と仲間の協力

 長年私の研究テーマは、アジア・アフリカの貧困削減問題で、特に「コミュニティ開発」に焦点を当ててきました。開発に当って、まず地元の人々が自助努力をすることが不可欠ですが、そのためにはリーダーを中心にして村人が、相互に共感・協働・相互扶助の絆の精神を育むことがもっとも重要な課題です。東北の被災地はこの面ですばらしい「富」が蓄積されております。地元の人々の秩序だった共感・協働。相互協力なしにここまでの復旧はありえません。他方、災害ボランティアの人々を地元では「宝」と呼んでおり、復興作業の不可欠な人材になっています。さらに、国内の人々や海外の人々からの大変な支援(義捐金や義捐物資)も忘れてはなりません。

 国際協力による貧困国支援は、地元の人の参加型プロジェクトでより大きな成果があがっていますが、外部からの継続的な支援協力も不可欠です。地域を越え、国境を越えて心の絆をしっかり結びつけながらともに生きようとする、国内外の人々の継続した努力が、長い目で見て貧困国の着実な発展につながってきます。文部科学省のGPに選ばれた取組みですが、私たちFLP「国際協力」のゼミでは、このような大きな枠組みの中で学生と一緒に現地に入って実地の開発戦略を考え、次々に新しい構想を提案してきました。

 大震災からの復興も、基本的に地元コミュニティの開発課題であり、地元と外部(国内と海外)との心の絆を深めながら、どのように具体的に連携協力するかが最も重要な課題になります。今回のイベントはその中でも、地元の未来の発展を担う希望の種の子どもたちに焦点をあて、悲しみに打ちひしがれている心をみんなで暖め励まそうとするものです。

 子どもたちがこの深い悲しみから立ち上がり、元気に未来に向けて生きていこうと強い気持ちになってくれないと地元の復興発展は期待できません。その意味で国内外から届けられる皆さんのカード、励ましの言葉は、コミュニティ開発の中で中核になる貴重な力を生み出すものです。

田中 拓男(たなか・たくお)/中央大学名誉教授
専門分野 国際経済学、開発経済学、国際経営論
和歌山県出身。 1937年生まれ。 1961年慶応義塾大学経済学部卒業
1963年慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。
1967年慶応義塾大学経済学研究科博士課程単位取得
その後、中央大学経済学部助手・専任講師・助教授・教授を経て
2002年~2006年中央大学大学院経済学研究科委員長
2008年定年退職、中央大学名誉教授
現在の研究課題は、国際経済の諸問題ですが、特にアジア・アフリカの貧困削減問題を取り上げ、コミュニティ開発問題など、アジアの実地のケーススタディを通じて開発戦略を幅広く考察している。主要著書に、『開発論;心の知性 ~社会開発と人間開発』(<中央大学出版部>2006年)などがある。