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オピニオン一覧

長島 佐恵子

長島 佐恵子 【略歴

中央大学でのハラスメント防止啓発に向けて

長島 佐恵子/中央大学法学部准教授
専門分野 イギリス小説、ジェンダー/セクシュアリティ論

はじめに

 中央大学には学内でのハラスメントに対処するためのハラスメント防止啓発委員会という組織があり、私も一委員としてハラスメントによる被害を出来るだけ減らすために働いています。委員会は、実際のハラスメント事案への対応に加えて、講演会や研修の企画なども手がけており、その一環として毎年秋にハラスメント防止啓発キャンペーンを開催しています。2011年度も10月10日から14日までが多摩キャンパスのキャンペーン週間となりました。

ハラスメント防止啓発キャンペーン

 ハラスメント防止啓発キャンペーンの目的は、教員や職員、そして何よりも学生に、ハラスメントの防止について身近に感じ、考えてもらうことです。そこで、メッセージを学生に広く届けるために、学生の有志団体NHP(Non Harassment Project)が委員会とともにキャンペーンの企画の段階から関わり、一週間にわたる図書館下でのギャラリー展示、趣旨に賛同したサークルなど学生団体による中央ステージでの日替わりのパフォーマンス、そしてNHPのメンバーが寸劇を行うフォーラムシアターの三本柱を作り上げていきます。2011年度はデートDV(恋人同士の間での身体的、精神的な暴力行為の問題)とセクシュアルマイノリティ(性の多様性とそれへの無理解や偏見の問題)をテーマとし、展示での情報提供と寸劇による問題提起をあわせて行いました。

大学でのハラスメントと防止啓発活動の意義

 一般に、このようなキャンペーンの効果は即座に測れるものではありません。しかし、フォーラムシアターの観客に記入してもらったアンケートを見ると、かなりの人数から劇を通じて初めて身近な問題としてハラスメントを考えたというコメントがありました。裏を返せば、これだけハラスメントという言葉が身近になり、多くの人が概念としては一定程度理解していると思われる現在でも、具体的にハラスメントを自分の問題として考えたことがない人がかなり多いということでしょう。そして、小さなきっかけを与えられれば、様々な形で自分が当事者となる可能性に気づき、状況の改善への一歩につなげられるということでもあるかもしれません。(ちなみにこのアンケート結果は、一般の学生が等身大でリアルな劇を作り演じるという手法を見事に活かしているNHPメンバーの力量による部分が大きいことも書き添えておきます。)

 大学とは、様々な立場の学生、教員、職員たちが日々同じ空間で様々な活動に取り組んでいる場です。構成員の幅の広さ、多様性という点で、非常に複雑な組織であるといえるでしょう。したがって、人間関係における利害の対立や考え方の不一致、ずれなど、常に摩擦が生じる可能性があります。そこで、その摩擦がハラスメントかどうかを判断するだけでは問題の解決につながりません。誰が黒か白かではなく、たとえ関わるすべての人がグレーであっても、何かの摩擦が生じ傷つく人が存在し、そのために本来なら皆が発揮できるはずの力が十分に発揮できていないという状況があるなら、対策が必要になります。ハラスメントについての議論でよく見られる「ここから先はハラスメントかもしれないがここまでなら大丈夫だろう」という考え方を見直し、「リスクのある行為がどこまでなら許されるのか」ではなく、リスク(および実際の被害)自体をきちんと見つめることを求める、とも言えるでしょう。一人一人が当事者として、どうしたらこの大学をより良い場所に出来るのか、キャンペーンなどの啓発活動がそのように考えるきっかけとなってほしいと考えています。

今後に向けて

 このように真摯に取り組んでいるキャンペーンですが、いくつか課題もあります。第一に、学内で十分に周知できていないという問題です。現状では、ハラスメントにすでに興味と一定の理解のある人は展示に足を止め、フォーラムシアターに足を運んでくれますが、それ以外の人にはなかなかイベント自体が認識されていません。あまり興味を示さない人にこそ足を運んでほしい、というジレンマも含め、今後どのようにしてより多くの人に参加してもらうかは検討課題です。もう一つは、キャンペーンでの気づきをどう発展させていくかです。せっかく考えるきっかけを得た人たちがまた「ハラスメントは遠い世界の関係ないこと」という「日常」に戻ってしまわないために、何が出来るのか考えていく必要があるでしょう。

 前述の通り多様な人が所属する大学という場で、ハラスメントをゼロにするのは現実的に難しいでしょう。むしろ、ハラスメントが問題になる可能性はどこにでもあり、その当事者となることも決して特殊なことではないということ、その上で、もしそのような事態になったときにはその重みを受け止めて解決策を探ること、つまり一人一人が自覚を持つことで被害を減らしていくことが防止啓発活動の目標です。

 学生の学修と成長を目標とするという点で、大学において教職員と学生は同じチームで同じ目標に向かっています。そのチーム内のどこかで流れが滞っている時、ハラスメント防止啓発委員会が間に入ることで客観的な視点が得られ、風通しが良くなることもあります。何か問題が起こっていると感じたときに、学生も教職員も閉じられた関係の中で悩まずに相談ができることを知ってもらうため、それぞれの学生にとって一度だけのかけがえのない学びの機会をより充実したものとするため、これからも防止啓発の活動を続けていきます。皆様にも、次年度以降のキャンペーンに足を運んでいただき、ご意見をいただけますよう願っています。

長島 佐恵子(ながしま・さえこ)/中央大学法学部准教授
専門分野 イギリス小説、ジェンダー/セクシュアリティ論、クィア批評
東京都出身
1994年東京大学文学部卒業
1997年東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了
2000年ヨーク大学(英国)修士課程修了
中央大学法学部専任講師を経て2008年より現職
現在の研究課題は、主に20世紀前半の英国の小説におけるジェンダー/セクシュアリティにまつわる表象分析
専門分野はイギリス小説、ジェンダー/セクシュアリティ論、クィア批評