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折田 正樹

折田 正樹 【略歴

日本からみた英国
―イギリス・ウィーク開催に当たって―

折田 正樹/中央大学法学部教授
専門分野 国際法

イギリス・ウィークの開催

 英吉利法律学校として創設された中央大学は、英国とは歴史上特別の関係にあり、本年度のインターナショナル・ウィークにおいて英国がテーマとして取り上げられたのは大変有意義なことだ。 10月17日から21日までの間に、講演会、シンポジウム、映画会、バグパイプ演奏等が予定されている他、生協では英国グッズが販売され、英国食も賞味できる。 学生、教員に英国をより身近に感じてほしいと思う。

 本学着任前40年間の外交官生活の中で、英国で合計7年間生活し、2001年から4年までは大使を勤めた私にとっても英国は特別な国だ。英国政府、議会、大学、マスコミ、経済界、文化等関係の多くの英国人と接する機会があり、彼らと種々のことにつき話し合い、共同作業を行うことができた。

英国の重要性

 現在日本では、外国というと米国とか中国等の新興国へ大きな関心が向けられている。 もちろんこれらの国との関係は日本にとって重要だ。 しかし、世界の中で政治経済面の米国の圧倒的地位が相対的に低下し、多極化、無極化とも称される状況になりつつある中で、各国が協調して歩んで行かなければならない現在、英国のような国の日本からみた重要性について再認識する必要があるのではないかと思う。

 英国はかつての大英帝国の時代と異なり、今は大国とは言えないかも知れない。人口は日本の半分、経済規模は米中日独に続いて世界第5位である。 しかし、産業革命を最初に経験し、議会制民主主義、福祉制度等を発展させた多くの経験をもつ英国は、国連安保理常任理事国、欧州の中の有力国であるだけでなく、英連邦等を通じて世界的ネットワークを築いており、依然として国際社会で大きな発言力と存在感を有している。 英国は、欧州連合の一員として欧州諸国と密接な関係をもつとともに、日本と同盟関係にある米国とも「特別の関係」にあると言われるような関係をもっている。 NGOの分野でも、英国は、赤十字社発足の地であり、また、オックスファムのような民間団体は世界的に活躍している。

国際関係における日英関係

 最近では、10年前の9.11国際テロ発生以降、国際テロへの対応、アフガンの問題、イラクの問題等を含め、日英の協力関係は深まった。日英とも、基本的には米国と協力しているが、米国とすべてにつき意見が一致しているわけではない。時として日英ともに米国の政策に違和感をもつことがあるが、この違和感が日英で似通っていることについては、英国政府、議会議員、知識人と話し合っていて強く意識するところである。一国行動主義を取りがちな米国、複雑な事象についても明確に白黒をつけがちな米国とどう向き合って行くかは、日英双方とも考えなければならないことであり、米国の政策に欠けていることをどのように米国に伝えて行くかは日英双方にとって重要なことである。また、両国ともに、大陸から離れた島国として、日本はアジア、英国は大陸欧州とどのような関係を構築するのかの問題についても日英間に共通の要素がある。

日英共通の課題

 成熟した市場経済制度を有する民主主義国家として、日英には多くの共通の課題があり、相互に学ぶことができる。

 英国に勤務していた間にも、日本から多くの政治家や関係者が英国を訪問し、英国の制度について学ぼうとしていた。国会での党首討論、小選挙区制、マニフェスト等は英国から学んだものと言って良いであろう。英国は、伝統の積み重ねの上に、現在の民主主義の基盤となる観念を生み出し、議会制民主主義を発展させてきた。他方、ある時点である制度ができても、それで完璧であるとは考えず、人間のなすことだから間違えもあるかも知れないと絶えずみている。良く引用されるチャーチルの有名な言葉に「民主主義は最悪の政体だ。だが、他のやり方とくらべればましだ。」があるが、一つの事柄を絶対視せず、発想が柔軟で異なる視点から可能性を追求するようなところは日本として学んで良い点ではないだろうか。昨今も、英国内では小選挙区や二院制の問題点についての議論がかなり行われている。

 経済面においても、日英はともに、安定した国際的な経済秩序を目指しながら、新興国のめざましい発展に対応しつつ、先進経済国として経済成長戦略をどのよう組み立て、財政再建を図るのか等の問題に取り組んでいる。英国は1970年代には「欧州の病人」とい言われるほどに経済が停滞した時期があり、現在も厳しい経済状況にある。日本も「失われた10年」或いは「20年」の経験をしている。東日本大震災については、英国からも多くの支援があったが、英国は、原発事故の問題を含め、日本がどのように復興をして行くのかを大きな関心をもってみている。

 また、両国ともに福祉制度、教育制度をどのように改革し、維持していくかが重要な課題となっている。大学教育については、英国も日本と同様に大学の大衆化から生じる問題、授業料値上げを含む財政上の問題を抱えているが、英国では、リベラル・アーツを重視し、幅広い知識と個人の思考能力を高め、国際性をもった知的エリートを育てようという意識が極めて高い。また、それぞれの大学が個性を発揮するためにはどうすれば良いかの議論も盛んである。

日英間の知的交流

 以上のような諸問題について、日英間で知的交流を推進して行くことは日英双方にとって有益であるだけでなく、国際社会に対する知的貢献をすることにもなるのではないだろうか?

 「イギリス・ウィーク」が、日本にとって、また、中央大学にとって、英国がどのような重要性をもつのかについて考える機会になってほしいと思う。

折田 正樹(おりた・まさき)/中央大学法学部教授
専門分野 国際法
東京都出身。1942年生まれ。1965年東京大学法学部卒業。同年外務省入省し、英国オックスフォード大学留学。
その後2004年に退職するまでの間、国内では、条約局、アジア局等勤務の後、総理大臣秘書官、条約局長、北米局長を歴任、海外では、英、ソ連、仏、米で勤務の後、在香港総領事、在デンマーク大使(在リトアニア大使兼任)、在英国大使を歴任。退官後も政府の国連改革担当特使(欧州担当)等を勤めた。2007年より現職。国際法を担当し、法学部、大学院、専門職法科大学院で勤務。大学での勤務の傍ら(財)世界政経調査会国際情勢研究所所長として、他の審議員と議論の上、時々の重要な国際問題について内閣に対し答申を行っている。