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オピニオン一覧

下田 僚

下田 僚 【略歴

自他の心に向き合う―臨床心理士

下田 僚/中央大学文学部教授
専門分野 臨床心理学

臨床心理士って何だろう?

 臨床心理士という言葉には聞き覚えがあっても、それは何かと尋ねられると「何だろう?」ということになる向きがまだまだ多いのではないでしょうか。臨床心理士とは、一言でいえば心の専門家です。臨床心理学という学問に基づく知識と技能、さらには研ぎ澄まされた感性を用いて人間の心の問題に取り組むスペシャリストです。我が国においては、心の問題に取り組む職種に対して、心理相談員、心理カウンセラー、心理療法士など様々な名称がつけられており、学会や民間団体など、これまた様々な組織が資格を認定しています。そうした中で、臨床心理士は文部科学省所管の(財)日本臨床心理士資格認定協会が実施する試験に合格し、認定を受けることで取得できる心理臨床家、心理専門職の資格です。

 ちなみに(財)日本臨床心理士資格認定協会は、臨床心理士資格認定試験の受験有資格者を養成する大学院(通称、臨床心理士養成指定大学院)の認定も行っています。臨床心理士養成指定大学院には、第1種指定大学院、第2種指定大学院、専門職大学院の3種類があります。同財団は、専門職大学院の認証評価機関としても文部科学省から認定されています。

 臨床心理士が心の専門家として行う専門行為は、援助対象者(クライエントと呼びます)について詳しく知るための心理アセスメントと、実際の援助としてのトリートメントが2つの大きな柱です。心理アセスメントは面接や様々な心理検査を駆使して行われます。トリートメントとは実際の援助としての面接、カウンセリング、心理療法などを施行することを指します。そして何よりも臨床心理士という仕事の特異性は、クライエントの方々の心に向き合うことによって、いつも自らの心にも向き合うことが求められること。自他の心の変化と成長が促される稀有な生業です。臨床心理士が稼働する職域としては、医療・保健、福祉、教育、産業・組織、司法・矯正、個人・法人開業などがあります。昭和63年度から始まった資格認定による臨床心理士の累計合格者数は現在2万3,000人を越えています。

東日本大震災と臨床心理士

 この度の重積的な大震災は、ある意味において先の戦争に匹敵するほどの国民的なトラウマ体験を私たち日本人の心にもたらしました。災害の発生直後から、多くの臨床心理士が様々な形で被災者・被災組織の援助に関わってきています。臨床心理士の職能団体である(社)日本臨床心理士会は、(社)日本心理臨床学会とともに、被災された方々に対して広く心のケアを提供することを目的として、3月23日に「東日本大震災心理支援センター」を開設し、支援に当ってきています。

 我が国の臨床心理士は、これまで阪神淡路大震災や中越地震などの震災および様々な風水害といった大規模自然災害や犯罪被害などが起る度に、被災者や被害者の方々、ご遺族の方々の支援に試行錯誤しながらも真剣に、そして地道に関わってきた経験とノウハウを蓄積してきています。こうした蓄積が、この度の震災には大いに役立っているのです。

中央大学は臨床心理士養成指定大学院?

 この問いに対する答えをご存じの方もまた少ないでしょう。実は、答えはYes!なのです。中央大学大学院では、平成19年度の文学研究科心理学専攻博士前期課程臨床心理学コース入学者から、臨床心理士養成第2種指定大学院の認定の適用対象となっています。昨年度、本学大学院修了者にとっては臨床心理士養成指定大学院としての認定後初めてとなる臨床心理士資格審査が行われ、2名の合格者がありました。本年度もまた何人かの合格者が出ることでしょう。中央大学には、「實地應用ノ素ヲ養フ」という高邁な建学精神があります。臨床心理士の養成も、こうした精神を具現化する本学の取り組みのひとつなのです。

心の問題は現実的な問題でもあります

 心の問題というと、何か曖昧で漠然としているため、つかみどころがないと思われるかもしれません。でも案外身近で現実的な問題でもあるのです。震災というトラウマ体験については上述した通りです。また例えば、我が国の大学生の死因の第1位は自殺です。自傷行為や自己破壊的な行動も目にします。近年ではピアスやタトゥがファッションになっていますが、過剰なものは自傷行為としての病理的な意味合いが強いものも珍しくありません。薬物やアルコールなどへの依存の問題もあります。心の問題を一切抱えていない人というのは、いないかもしれませんね。

下田 僚(しもだ・りょう)/中央大学文学部教授
専門分野 臨床心理学
1950年新潟県に生れる。1976年国際基督教大学大学院教育学研究科博士前期課程修了後、法務省心理技官、開業臨床心理士等を経て、2005年中央大学文学部に着任。
最近の主な論文として、「学校臨床場面における認知行動療法―クライエントのニーズに応じた援助の組み立て―」『教育学論集』第53集(2011)、「臨床心理面接における料金の意味」『教育学論集』第51集(2009)、「非行に走る子どもたちと表現教育―心理臨床パラダイムからの一考察―」『人間と教育』第62号(2009)、「スピリチュアル・エマージェンスとしてのクンダリニーの覚醒をみた事例―トランスパーソナル心理学からの知見を援用したカウンセリング―」『こころの健康』(日本精神衛生学会誌) 第21巻 第2号(2006) などがある。