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オピニオン一覧

鈴木 博人

鈴木 博人 【略歴

親権法ならびに児童福祉法改正

鈴木 博人/中央大学法学部教授
専門分野 家族法・児童福祉法

2011年家族法関連の法改正

 第177回通常国会では、家族法分野に関連する重要な法改正が行われた。非訟事件手続法・家事審判法の改正と児童虐待防止に関する民法・児童福祉法の改正がそれである。ここでは、後者の民法・児童福祉法の改正について述べてみたい。

 「民法等の一部を改正する法律」は、2011年4月28日に衆議院本会議において全会一致で可決され、5月27日には参議院本会議で同じく全会一致で可決された。今回の改正は、民法と児童福祉法を中心とした改正であるため、議論された内容を詳しく勉強しようというときには、法務省の法制審議会の議事録、その前提となった「児童虐待防止のための親権制度研究会」の報告書および議事録(株式会社商事法務ホームページで公開されている(http://www.shojihomu.co.jp/jidou-gyakutai.html新規ウインドウ)。)、厚生労働省社会保障審議会児童部会児童虐待防止のための親権の在り方に関する専門委員会報告書「児童の権利利益を擁護するための方策について」ならびに専門委員会の議事録、衆参両院の委員会審議議事録を参照する必要がある。

 今回の改正ついては、その内容を逐一検討する紙数の余裕はないが、改正結果が改正を必要とした理由に即したものであるかどうかは検討しなくてはならない。たとえ国会(立法府)が全会一致で可決したものであろうと、法制審議会がその道に精通した識者を集めて取りまとめたものであろうと、検証する必要がなくなったわけではない。

権利の過剰制限問題

 そもそも今回の改正は、当初提起された問題に対応する解答を与えたのだろうか。

 児童虐待防止のための親権制度研究会報告書は、それ自体読みにくい(わかりにくい)構成になっている。この報告書を読むと、いくつかの事例が、従来の制度では対応に苦慮するものとして挙げられている。例えば、医療ネグレクト(注意してほしいのは、医療ネグレクトで最も問題になるのは、親は愛情をもって子の世話をし親子の結びつきもしっかりしているのに、宗教上の理由等で当該の治療行為にだけは同意しない場合である。生活全般にわたって子を放置しているなかで治療も受けさせないというのは、医療に限定されないネグレクトそのものである。)や施設入所中・里親委託中あるいは一時保護中の児童に関して、施設長や里親あるいは児童相談所長が児童の福祉にとって必要な措置をとろうとしても親権者が同意しなかったり、不当な主張をしている場合が示されている。これに対して、従来は例えば医療ネグレクトの場合、治療行為に同意しない親について親権喪失請求を行い、あわせて親権者の職務執行停止と職務代行者の選任を申立て、選任された職務代行者が必要な治療に同意して、治療が終了すれば親権喪失請求を取り下げてしまうという形で対処することが行われていた。これは、権利制限は必要な限度で最小限のものでなければならないという、いわゆる比例原則(相当性の原則)に反する、権利の過剰制限という批判があった。改正法は、この問題提起に対して、親権の一部制限ではなくて、2年を限度とする一時停止制度を導入している(そもそも民法834条の親権喪失と同法834条の2の親権停止とではどのような法律効果の違いがあるのかという疑問はすでに青山学院大の許末恵教授から出されている)。しかし、時間を区切ったとしても親権全体が制限されることには変わりはない。権利の過剰制限という状態は何も変わっていない。

司法ネグレクト

 過剰制限を避け、親権制限の段階化を図るためにとられている手法は、比較法的に見ると、親権の一部制限である。これは日本民法が親権の内容を居所指定権・懲戒権・職業許可権というように個別に規定していることとも整合性をもつ親権制限のあり方である。あるいは、子の携帯電話の契約等については、裁判所による同意代行(同意補充ともいう)を制度化することによっても対処可能であり、またこの場合には親権を大幅に制限する必要も生じない。これらの点は今回の改正では採用されなかったが、その原因のひとつに裁判所の体制・能力があるとしたら、国民の裁判を受ける権利が、この国では十分に保障されているのかという話にもなる。司法ネグレクト問題である。

別居・離婚時の子と親の面会交流

 今回の改正法は、児童虐待に関連するという限定がついているものの、実は児童虐待に直接関連しない重要な条文も、しかも報告書や議事録をみるかぎり、きちんとした議論を行わないまま、平成8年(なんと15年前の)法制審議会の民法改正案要綱試案の内容で改正が行われている。民法766条の父母の離婚後の子の監護に関する条文である。とりわけ近時活発に議論されている面会交流について、この15年間の議論の蓄積を考慮せずに、またしっかり議論された形跡なく、面会交流についても協議事項に加えるのみでは不十分どころか、これにより改正したのだということで今後長期間にわたって改正が行われないことになると、今回の改正は、この点については行わないほうがよかったということになりかねない。

鈴木 博人(すずき・ひろひと)/中央大学法学部教授
専門分野 家族法・児童福祉法
中央大学法学部法律学科卒業。中央大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。茨城大学助教授を経て2002年より現職。また、中央大学大学院法務研究科教授、ミュンスター大学客員教授を歴任。
研究テーマは、親子福祉法の日本とドイツの比較法研究。家族法、とりわけ親子法分野の諸制度を児童福祉制度との連携を企図した総合的な制度として構築することを提案している。代表的な著作に『子どもの福祉と共同親権 別居・離婚に伴う親権・監護法制の比較法研究』(共著/日本加除出版)