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西端 則夫

西端 則夫 【略歴

世界の食料価格高騰と食糧暴動

西端 則夫/中央大学経済学部特任教授
専門分野 国際開発論、国際協力論、プロジェクトマネジメント論

マラウイ在任中の青年海外協力隊員の教え子から一通のメール

 南部アフリカ マラウイから数日前に一通のメールが届いた。

 彼女は3年前に私のゼミを卒業しリクルート社で3年勤務し、当初の計画通り今年の6月中旬に青年海外協力隊員としてマラウイ国に赴任したばかりである。『マラウイ全土で大規模なデモが発生し、現在はJICAドミトリーで足止めを食っています。街では死者が出るほどの暴力行為を起こすというのはマラウイでは非常に珍しくミニバスや長距離バス等の交通網にも影響が出ています。また、最大のドナーである英国がマラウイから撤退したり、最大の輸出品である煙草の輸出量が激減、暗いニュースが続いています……。デモの背景を正確に分析出来ないが……、アフリカ大陸の小国で起きている現実を報告したくて……。』 メールの内容は概ねこのようなものであった。マラウイは独立以後政治的にも長く安定した農業国で援助関係者の間では「愛のマラウイ」とまで言われるほど穏やかな社会であった。今回の事件は、生活苦を緩和して欲しいという市民のささやかな請願行動であったのだ。 ここのところの、ガソリンや食糧の価格が急激に高騰しており、当然の帰結として一部の外国資本スーパーを除き、物とハードカレンシーが市場から消え現地通貨(クワッチャ貨)が軟化する。私もナイジェリア時代に3回のクーデターを経験しているので市民の暮らしがどれほど劣化しているかは想像に難くない。1日一回の食事を家族と分け合って食べている状態である。

食料と燃料の急激な価格上昇とその背景

 FAOによれば、1980年初頭よりおよそ25年間は世界の食料事情はマクロ的には健全であったと言いうる。然るに、2006年より世界の主要食糧品価格が上昇し、2007年・2008年には主要食糧価格がコメで217%、小麦で136%、メイズで125%、大豆で107%それぞれ上昇している。同時に、ガソリン・灯油価格も吊られて上昇し、市民生活を直撃することとなった。例えば、石油価格の上昇、2003年にはバレル30ドルの原油価格が2年後には2倍の60ドルとなり、更に2年後の2008年には140ドルにまで上昇。石油価格の上昇は過剰流動性による投機的性格を有しているが価格が短期に鎮静するかどうか不明である。そして、原油価格の上昇は、農薬・肥料、農業用機械などの価格を上昇させた。これが代替エネルギーの生産に結びついた。原料は主としてトウモロコシとサトウキビである。主食食糧に回るはずがアルコール生産にまわったおかげで途上国の食料事情にひいては穀物価格に影響していると考えられる。さらに、小麦、大豆、米、調理用植物油などの代替穀物価格の上昇をもたらした。こうした状況が2008年以降今日まで先鋭的に進行してきた。

 世界人口増大が食糧価格を上昇させたわけではなく、中国やインドなど新興国の登場による食の質の転換、穀物が畜肉タンパク質に転換することも食糧価格を上昇させる要因の一つである。 また、必ずしも科学的に証明されているわけではないが、地球温暖化など気候変動が多くの地域で凶作をもたらし世界の穀物需給を逼迫させていることも食糧価格急騰の主要な要因であろう。

開発途上国の食糧暴動

 ブルキナファソ、コートジボワール、カメルーン、セネガルなど西アフリカ諸国、南アフリカ、ザンビア、マラウイなどの南部アフリカ諸国、エジプト、イエメン、バングラデシュ、パキスタン、ウズベキスタン、スリランカ、メキシコ、ボリビア、そして近年ではチュニジア、リビアなどのマグレブ諸国にあって食糧暴動が生起している。価格がやや高値であっても安定していれば騒動にはなりにくいが数か月間のうちに50%前後以上の燃料と食糧の価格変動が始まると人心は定まらない。所得の低い、或は無所得の多くの市民には生命を維持する希望が持てなくなるのである。そして、この食糧暴動はいとも簡単に政治暴動と化す。このような環境の中で食料輸出国は輸出規制をかけ、ブロック化した動きを見せはじめている。戦間期の貿易構造の歪みから世界は何を学んだのだろうか。

食料安全保障と今後について

 世界の食料価格の変動により日本でも今月(7月)以降には乾麺、パン、小麦粉など数百品目の値上げが想定される。私達は世界の食料安全保障を如何に実現するか、そして地球人口68億人のうち食料獲得困難な20億人の人々の生命を如何に守るべきかはまさに人類史的課題である。アフリカ諸国にあって国民の生命を守るには、農業生産性を高めることを可能にする政府制度の能力向上、教育と農業基盤の改修・構築、特に灌漑技術の改良、品種改良など地道な努力が急務であろう。また、生命維持に不可欠な食糧価格を操作しうるような市場環境を整備し、少なくとも食物市場への投機的行動を規制するような合意が強く望まれる。

参考文献
  • Cereal prices hit poor countries新規ウインドウ, BBC, February 14, 2008.
  • Kenzo HEMMI, Recent World Food Situation with Reference to Japan’s Food and Agricultural Policies, MACRO REVIEW,Vol.21,No.1, 1-10, 2008
  • Mulat Demeke, Guendalina Pangrazio and Materne Maetz,
  • Initiative on Soaring Food Prices: Country Responses to the Food Security Crisis: Nature and Preliminary Implications of the Policies Pursued Agricultural Policy Support Service, Policy Assistance and Resource Mobilization Division, FAO,
  • Financial speculators reap profits from global hunger, www.globalresearch.ca新規ウインドウ
  • 江端菜々子氏メール報告(西端ゼミFLP2008年卒業 青年海外協力隊員 マラウイ在任中)

(注)「食糧」と「食料」は前者はコメ、麦、メイズ、キャッサバなどの主食穀類を、後者は食品全般を指す意味で区別している。

西端 則夫(にしはた・のりお)/中央大学経済学部特任教授
専門分野 国際開発論、国際協力論、プロジェクトマネジメント論
1947年4月23日兵庫県生まれ。
1981年英国ブラッドフォード大学院修了。1983年オランダエラスムス大学社会科学研究所博士課程単位取得退学。国際協力機構(JICA)で32年間勤務ののち、東京外国語大学大学院客員教授を経て、2004年4月より中央大学経済学部特任教授に就任。経済学部、総合政策学部、大学院で国際開発論、演習などを担当。
稲城市第4次長期総合計画審議会会長、稲城市教育委員会市民大学講座講師、NPO法人JADE-緊急開発支援機構理事、JICA外国政府要人研修指導者、ジェトロアジア経済研究所「アフリカ研究会」専門委員などを歴任。海外勤務経験:在ナイジェリア日本国大使館、モンゴル国外務省。