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オピニオン一覧

末延 吉正

末延 吉正 【略歴

ジャーナリストという名のテレビタレントが日本を滅ぼす!?

末延 吉正/中央大学経済学部特任教授
専門分野 ジャーナリズム論、政治コミュニケーション論

2011年、地底深く沈んだ日本に脱出口の光は見えるか!!

湾岸戦争従軍記者時代の筆者
燃え盛るクウェートの油井の前で

 目指すべき国家像を紡ぐことなく混迷する政治と薄っぺらな評論を繰り返すメディア……、成長が止まり、社会の連帯感が消え、希望をなくした成金国家の末路そのものと形容せざるを得なかった2010年の日本の姿は、本当に醜いものでした。若者に働き場を提供できず、小銭を持った大人は刹那的な快楽を求める、そうした暗い世相を見るとき、戦後の大量生産大量消費型経済という工業化の中で、アジア唯一の優等生として過ごした日本の「政官業+メディア」の癒着型の終焉、護送船団国家の統治システムから新しいシステムへの移行をためらった国家の終焉を見る思いでした。2011年、旧来型システムを完全に崩壊させ新たな統治システム構築に向けた挑戦を始められるか、それが問われる年になります。2006年ノーベル平和賞に輝いたバングラデシュの貧困農民のためのグラミン銀行の例を持ち出すまでもなく、最近注目のソーシャルビジネス(社会的起業)という発想も新しい社会の萌芽です。よき伝統を守りながら大胆に発想を転換して挑戦してみたいものです。正月恒例の箱根駅伝、体力を消耗しおそらくは痙攣しているであろう体を必死に動かし、追撃する拓大を振り切って6位でゴールした中大アンカー、塩谷潤一選手(理工学部2年 八千代松蔭高出身)の頑張りをテレビで観戦し、最後まであきらめずに頑張りぬく姿に感激し、小さな感動を覚えました。今年初めての講義は1月8日のFLP末延ゼミ(政治とジャーナリズム研究)で、授業のあと、高幡不動の居酒屋で新年コンパを行いました。4月から参加する新ゼミ生13名を含む40名の学生たちの笑顔の語らいに、不安の中で将来の夢を考え続けた遠い昔の自分を思い出していました。失われた20年の長期停滞から抜け出せず右肩下がりの経済という時代にあって尚、若き友人中大生たちに「夢多き未来を」と、こころで念じながらコツコツとできることから始めよう、年初の決意です。

政治リーダーは、メディアに媚びることなく信念を持って語れ!!

 今年4月は、統一地方選挙の年です。前半戦の4月10日は東京都など13都道県知事選、44道府県議選、5政令指定市長選、17指定市議選が、後半戦の24日には全国233の市区町村長選と730の議員選挙が行われます。地域の政治リーダーを選ぶ地方選挙こそ成熟した民主主義国家の基礎をなすものとして重要なのですが、投票率は1950年代の80%以上から下がり続け2007年には50%台まで落ち込んでいます。この投票率の落ち込みにこそ戦後の経済成長一辺倒、霞ヶ関官僚主導によるひもつき補助金支配政治、中央集権の護送船団型日本の異形を見る気がします。小選挙区制導入で国会議員の選挙区が小さくなったことなどから、市区長村の政治リーダーから中二階を跳び越して国会議員に歩を進める人も増えています。次世代の国家レベルの政治リーダーを発掘するという意味からも今回の統一地方選に大いなる興味を持って参加したいものです。首都圏から良質なローカル放送枠の情報番組が消えたままですが、「公共機関」であるテレビ各局の発想の転換と奮起を期待しています。とりあえずは、郵便受けに入れられた候補予定者のパンフレットに書かれたローカルマニフェストを熟読吟味し、インターネットで政策と人物像をチェックしておきましょう。そして国家レベルの政治のお話ですが、間接民主主義制度の下で代議士を「国民全体の奉仕者」と定義づけしたのは英国の保守思想家のエドマンド・バークでした。議員が国家の長期的利益や将来展望ではなく地元の利益誘導に走りがちなのは、古今東西共通の問題です。加えて、「ポピュリズム政治」「テレポリティックス」のいま、テレビに代表される「マス・メディア」に露出することで人気者となり国家の政治リーダーたらんとする軽薄な政治家が増えています。テレビ局の廊下でテレビ関係者に媚を売る政治家を目にするたびになんともやりきれない、情けない思いに駆られます。政治権力のメディア・コントロール、いわゆるスピンの問題が取り上げられ、既成メディア離れ、ネットメディアの興隆に拍車がかかっていますが、より本質的問題は、テレビ画面の向こう側の、テレビ局が勝手に作り上げた大衆像に媚びて信念を語らなくなってしまった政治リーダーの存在だという気がします。本物のリーダーを育てるためにメディアリテラシーを磨き、マス・メディアに誤魔化されないようにテレビは見比べ、ラジオは聞き比べ、新聞は読み比べの精神で対抗しましょう。

ジャーナリストという名のテレビタレントが日本を滅ぼす!?

 昨年のテレビ界、紛争ジャーナリストや戦争カメラマンを名乗る人たちが「面白キャラ」でブレークしたり、女性問題で記者会見したりする映像をたびたび目にしました。名前を売るために、水割り片手に女性に語るために取材に赴くのでしょうか。新聞記者出身者が記事を書くよりもテレビのワイドショーのコメンテーターでおしゃべり解説をし、名前が売れると署名のコラムを新聞に書くというチョッと変な感じの構図が気になります。視聴率欲しさに政治をただ茶化すだけの番組でデタラメ解説に興じる大学教授の姿もあります。既成メディアとネットメディアの競争、共存を模索する時代が本格化してきた2011年、それぞれの特性を生かした「職業としてのジャーナリズム」(Journalism as a Profession)の再生が待たれます。

末延 吉正(すえのぶ・よしまさ)/中央大学経済学部特任教授
専門分野 ジャーナリズム論、政治コミュニケーション論
1954年11月9日 山口県生まれ
政治ジャーナリスト&メディア研究者
立命館大学客員教授を経て2009年4月、中央大学経済学部特任教授に就任。経済学部特殊講義(ⅠⅡ) インターンシップテレビ局コース FLPジャーナリズムコース(A B C)を担当。
1979年4月、早稲田大学卒業後テレビ朝日入社。社会部記者 政治部記者 ニュースステーションディレクター ニューヨーク特派員 湾岸戦争従軍記者 バンコク支局長 朝まで生テレビ サンデープロジェクトプロデューサー 経済部長 政治部長など歴任。2004年、50歳で退社し政治ジャーナリストとして独立。時事通信社・内外情勢調査会講師 JICA国際協力機構運営アドバイザー。